動機なんて大層なものじゃなくてもいいって思ってます
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
「きゃああああっ!?」
空気をビリビリと震わせる凄まじい咆哮に、百瀬と千堂は悲鳴を上げながら耳を塞ぎ、木偶人形は顔を歪ませる。
一体何があったのか……音の発信源に向かって右スティックを傾け、木偶人形の視線転換すると、夕闇の空と森を覆うように塗り潰す青い光が迫ってきているのが見えた。
(まさか……!)
凄まじい咆哮に、青い光。その二つの要素が俺の中にある知識を呼び起こした瞬間、全身から血の気が引き、気が付けばコントローラーを操作して木偶人形に百瀬と千堂を担がせ、ゲートに向かって全力で走らせていた。
(ユースケ! これは一体なんなんすか!?)
(ギガントモンスターだ!)
怒鳴るように返された言葉に木偶人形が息を呑むのが伝わる。
巨体から迸ったであろう地鳴りのような大声。それに加えて、あの青い光を見れば一目瞭然。
何度も動画で見たことがある……あれはギガントモンスターが人間の存在を捉え、逃がさないようにするためにゲートを封じるためのスキルの力が視覚化されたもの。
(あの光がゲートを呑み込む前に飛び込むぞ!)
(了解! ……と、言いたいところですけど……!)
木偶人形の走行速度よりも、青い光が周囲一帯を塗り潰す方が断然早い。たまたまゲートの近くにいたけど、これ間に合わないんじゃ……!
(ゲートが見えました!)
(クッソ……!)
目の前には見慣れた黒い渦……ゲートがある。あそこに飛び込めば地球に戻ってギガントモンスターからも逃げられるんだけど……青い光は既に木偶人形を追い越してゲートを呑み込もうとしていた。
もう間に合わない……そう思った時、不思議と木偶人形が同じことを考えたような気がして、俺はコントローラーを操作する。
「そぉいっ!」
「「きゃああああああああああっ!?」」
木偶人形は全力で百瀬と千堂をゲートに向かって投げ飛ばし、二人は本当にギリギリのところで蒼い光を追い抜いた。
「で、木偶ちゃん!?」
「ギガントモンスターっす! 二人はギルドに応援を――――」
言い終わるより先に二人はゲートに飛び込んで姿を消し、それを追うように青い光がゲートを呑み込んだ。
それと同時に青い光は消失し、渦を巻くように蠢いていたゲートは凍り付いたかのように停止して、触れても通り過ぎるだけのオブジェクトと化す。
こうなってしまったら、スキルの効果が切れるまでゲートは使えない。……もしくは、ギガントモンスターを倒すまでは。
(はぁっ……はぁっ……!)
助けを期待できない。巨大な怪物に孤立無援で狙われるこの状況に、俺は緊張と恐怖で荒い息を短く吐き続けた。
ギガントモンスターは、これまで戦ってきたモンスターとは格が違う。推定戦闘力が最低でも1万オーバーに加えて、厄介なスキル持ち。しかもこちらの居場所を正確に捉える力を持っているために逃げ隠れするのも難しい。
出会ってしまうこと自体、一種の天災だ。そんな化け物相手に出来る対処法は……戦う事だけなのだ。
(……くそっ……!)
気が付けば両掌の汗腺が爆発したみたいに汗が滲んで、コントローラーが滑りそうになる。
乱暴にズボンで汗を拭っても後から後から滲んできて、更に苛立ちと焦りがさらに募ってしまい、思考が停止してしまいそうだ。
これで現れたのが戦闘力1万そこらのギガントモンスターならまだ良いけど、そうである保証はどこにもない。遥かに格上のギガントモンスターである可能性の方が十分にあり得る。
(勝てるのか……? たった一人で……?)
今現在、【アイテムボックス】内の物はギガントモンスターと戦うことを想定したものでは決してない。
何で急に出てきたりしたんだ……百瀬と千堂にも手伝ってもらえば良かったのではないのか……何の役にも立たない苛立ちと後悔が頭を占拠して、視野が狭くなっていく。
初めてランイーターの群れと対峙した時は少し違う……まるで食い殺される直前に味見でもされているかのような恐怖心が指に伝って動かせない。
人生で二度目になる、明確な死が近づいてくる予感を感じ、これまで生きてきた記憶が一気にフラッシュバックする。
これが走馬灯という奴なのか……そんな場違いな考えに現実逃避しようとしたその時――――
「ユースケ」
俺を現実に引き戻したのは、ここ最近で聞き馴れた……それでいて、聞き覚えのない穏やかな声。
それが普段元気で騒がしい木偶人形が発したものだと気付いたのは、ホログラム画面越しにこちらに振り返る彼女と視線を合わせた時だ。
夕闇に染まった森の中、彼女の水色の瞳は湖面のように澄んでいて、そこに恐怖なんて感情は感じられなかった。
元はアイテムだから死に対する恐怖がない? ……いいや、違う。彼女が死を恐れないのはそんな理由ではないと、その目を見れば直感できる。
――――ユースケの事、信じてますから。
道具なんかじゃない。伝えるべき本当に大切な想いほど、彼女は言葉だけでなく目で雄弁に語れる〝人〟なのだと。
そうだ……彼女は俺のことを信じているんだ。自分自身を操る俺の事を。
対して俺はどうなんだろうか? 出会ってまだそれほど経っていない、出会って間もない、正体不明な部分が多々あるアイテム……そんな木偶人形の事を信じられるのか?
愚問である。そんな疑問は、最初から有って無いようなものだった。
(……悪いな。情けないとこ見せて)
木偶人形の正体とか、そんな事は何の関係もない。色んな情けないところを見せた……こんな俺を信じてくれた彼女の力を信じよう。
一人じゃない……気が付けば掌の汗は止まっていて、俺は落ち着いてコントローラーを握り直す。
(帰るぞ、地球に)
まだ薫や新藤をギャフンと言わせていない。稼いだ金で良い思いだってしていない。八谷や二村と、春休み明けに遊ぶ約束を果たしていない。両親にだって親孝行できていない。
(勝って、二人で一緒に帰るぞ)
まだ君に……名前を付けられていないっ!
(やってやりましょう、ユースケ! なぁに、ギガントモンスター相手でも何とかなるっすよ!)
出会った時と同じ……木偶人形はまるで少年のように快活な笑みを浮かべる。
(言ったでしょ? アタシとユースケ、二人が揃えば最強です!)
まるで俺の手を引いて進んでくれているような、そんな力強い意志を言動に宿す木偶人形。そんな姿を見て、俺はある人物の事を思い返していた。
=====
薫と出会う以前の事。もう記憶の中にしかいない友達、白咲一颯と出会ったのは小学校1年、放課後の公園でだった。
当時の俺は入学直後で周りに馴染めず孤立してしまい、一人公園で遊ぶことが多かったが、ある日何時ものように公園に向かってみると、そこには先客である一颯が居たのだ。
お互い別々の小学校に通っていたけど、孤児院育ちで娯楽に飢え、公園にも頻繁に遊びに来ていた一颯と俺が仲良くなるのはあっという間で、すぐに親友と呼び合えるような仲になった。
『やっぱカッコイイなぁー! ボクも大人になったら冒険者になるんだぁ!! ユースケもなりたいだろ?』
『そりゃあオレも冒険者になりたいけど……やっぱ危ないし、どうしようかなって』
『なんだよ、弱気だなぁ。そんなこと言ってたら、何時まで経っても冒険者になれないぞ』
『そうは言っても……』
それから年月が経ち、三年生になった年の冬、俺は親父から借りたタブレットで冒険者の動画を一颯と一緒に公園で見て、二人揃って興奮しながらこんな事を話していた。
子供なら一度は冒険者という、夢のある仕事に憧れる。積極的か消極的かの違いはあったけど、二人揃って『将来の夢は冒険者!』という強いビジョンを俺も一颯も胸に抱いていたんだ。
『それじゃあさ、ボクがユースケのコンビになるよ! そうすればユースケも安心だろ?』
『……本当?』
『ホントホント! むしろボクの方からお願いしたかったくらいだ!』
そんなある冬の日。一颯は木偶人形と同じように、快活な少年の笑みを浮かべ、力強く言い放ってくれた。
『どんなピンチでも、二人でなら何とかなる! ボクとユースケの二人が揃えば最強だ!!』
子供らしい何の根拠もないその言葉が、当時の俺にはひどく頼もしいものに思えたものだ。
昔は今よりも弱気で意気地なしだった……そんな俺の手を何時も引いて歩いてくれた一颯が一緒なら何も怖くないと。
『……うん。じゃあ、約束。大きくなったら、二人で冒険者になろうな』
『おぉー! いつかボクたち二人で、世界一の冒険者になろうな! ……くちっ』
そんな時、寒さに震えてクシャミをした一颯に、俺は手に持っていた紙袋からマフラーを取り出して、一颯の首に巻いた。
『あげる。誕生日プレゼント』
孤児院は裕福ではないのか……一颯は冬でもジャンパーやコートを着ずに、少しヨレヨレのパーカーとかで寒さを誤魔化すことが多かったのだ。
だからあの日、前もって聞いていた一颯の誕生日に、家の手伝いをこなしてもらったお小遣いで買ったマフラーを持っていった事を、今でも覚えている。
『え? いいのか? これって高かったんじゃ……?』
『あげるために買ったんだから受け取ってほしい。…………それにほら、未来の相棒が風邪とか引いたら困るし』
遠慮しそうになった親友にそう言うと、一颯はようやくマフラーを受け取って、少し照れたように笑う。
『にひひ……あったかい。ありがとな』
『うん』
多分子供同士なら誰でも交わしたであろう、他愛のない約束と他愛のない思い出。また明日公園で遊ぼうと約束し、指切りげんまんしてお互いに帰路について以降……俺は一颯と会うことは無かった。
事故に遭ったのだ。一颯は孤児院への帰り道にある、長い石階段の上の方から転がり落ち、そのまま頭を打って亡くなったと、翌日一颯の代わりに、俺があげたマフラーを持って現れた孤児院の先生から教えられた。
『孤児院で買った覚えのないマフラーを巻いていて……あの子は何時もここで君と遊んでいると嬉しそうに話してたから、もしかしたら貸してくれたのかと……』
泣き腫らしたであろう真っ赤な目からまた涙を流して、昨日一颯に上げたマフラーを返しに来た先生に、俺は何も言えなかった。
ただただ悲しくて、理不尽を呪った。それでも感情をぶつける当てもなく、しばらく喪失感で何も手に付かなかったことを今でも覚えている。
『一緒に冒険者になるって言ったじゃんか……』
葬式の日、俺は手元に戻ってきたマフラーを一颯が眠る棺桶に入れた。天国でも寒い思いをしないようにと。
最後に一颯と交わした約束……それが全ての始まりだった。いつか天国にいる一颯の耳にも届くくらい有名な冒険者になって、一颯の無念を晴らそうという想いが、約束そのものを忘れても消えない願いとなって、俺をここまで駆り立てた。
だからかな……? 一颯にも木偶人形にも失礼な話だって分かってるんだけど……一颯とどこか似ている木偶人形と一緒に異世界に行って、ダンジョンに潜ってモンスターを倒す日々は、昔見た夢の続きを見ているようで、本当に幸せで楽しかったんだ。
ご質問があったのでお答えします。
Q『マフラーには装備スキルに『爆雷』が付き、これはアイテムマスターの力なのだと解釈したのですが、付与される装備によって変わるということはありますか?』
A『変わりません。あえて言うなら品名が変わるくらいでしょうかね?』
Q『魔法の力を得たマフラーが火と刃物に強くなるのは何故でしょうか?』
A『スキルカードによって魔力を得たことで人間の身体が大なり小なり強化されるように、この世界では魔力の宿った物は強度が上がるという設定がありますので、それによるものですね。ちなみにこれは他のどんな強化槌でも起こる現象です』
Q『ネタみたいな強化槌はありますか?貝柱の強化槌とか』
A『なぜ貝柱(笑)。一応、ネタ強化槌はありますね。全ての魔法攻撃が尻から出るようになるスキルを付与する強化槌とか』
Q『アイテムマスターの強化できる【アイテム】に本人が装備する【装備品】は含まれますか?』
A『アイテムと装備品は別枠で、装備品の効果を強化することはできません。スキルが内包された武器や防具を扱うこと自体は出来るんですけどね』
Q『……アレ?ユースケが耐毒オーブでスキル得られなくてもステータスが微量でも上がるなら、使っちゃえば良かったんじゃね?それとも資金優先?』
A『スキルオーブだけあっても戦闘力は上がりませんので、悪しからず。戦闘力を上げるにはオーブではなく、スキルカードが必要です』
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