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傷心の時ほど友達の存在って有難いよね

設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。


「あぁんまりだぁぁああああああ!!」


 日本各地に支店を持つ大手ファミリーレストラン、【カスト】。憎たらしい笑顔を浮かべる天パ野郎がマスコットという、一風変わったファミレス。

 付き合っていた幼馴染にフラれた俺は、【カスト】でヤケ酒ならぬヤケジュースを、友達に何度もドリンクバーを何度も往復させながら呷り続けた。


「気にすることないって、九々津氏。ここは発想を逆転させて、男を金と顔で判断するような女だって早い段階で分かって良かったって思うんだ」


 悲しみに暮れっぱなしの俺に率先してジュースを運んでくれる、気の良いデブなオタク男子、二村(にむら)はカルピスソーダを俺の前に置く。


「そうです九々津殿! やはり三次元の女など男の金と顔しか見ないクソ!! 九々津殿に落ち度など一切ないのです! さぁ、我らと共に次元を一つ隔てた先に居る天使たちに癒されに行きましょう!」


 瓶底眼鏡をかけた、これまた気の良いオタク男子の八谷(はちや)はフライドポテトの山盛りと、二次元ロリ美少女が映っているスマホをテーブルに突っ伏す俺の前に置く。


『お兄ちゃん、元気出して! ファイト!』


 うん。リアル妹がいる奴に出すものじゃないよね。


「八谷……リアル妹の居る俺に妹物出すなよ……」

「おっとそれは吾輩を含む全国一億五千万のシスコン(実妹が居るとは言っていない)に対する宣戦布告ですか? 妹の有無が戦力の決定的な差ではないことを証明しても?」

「あんなクソ生意気な妹なら、何時でも売り飛ばしてもいい」

「八谷氏は何も分かっていない。今の九々津氏に必要なのは圧倒的な母性を持つ年上の包容力だよ」


 今度は二村が俺の前にスマホを置く。画面には鞭を持った巨乳の二次元美女が映っていた。


『あらあら、そんなに物欲しそうな情けない顔をしてどうしたの? ご褒美が欲しければ卑しくおねだりしてみなさい、この豚ぁ!!』


 傷心中の俺に何見せてやがる。 


「俺Mじゃないから傷を広げる感じの動画は止めて……」

「ごめん、間違えた」

「…………でも慰めてくれるんなら、小柄で巨乳な()の動画が良い」

「でゅふふふ、トランジスタグラマーをご所望とは、なんという変態指数。少々お待ちを。九々津殿好みの萌えキャラを光の速さで見つけ出しましょう」

「ロリ系とグラマー系の良いところ取りなんて相変わらずマニアックなんだから。そんな九々津氏には、この眼鏡ヒロインとかお勧めするよ」


 小学生を見てガチトーンで「妹に欲しい」とか抜かす変態眼鏡と、常日頃から「巨乳のお姉さんのバブみを感じてオギャりたい」とか抜かす変態デブに言われたくない。


「……ありがと。二人とも……」


 でもこんな変わり者の二人だけど、辛い時に親身になって慰めてくれる存在にはとても救われた気分だ。何時もの軽いノリを醸し出してくれるのも、正直有り難い。食欲なんて無かったけど、おかげで何とかポテト齧れるくらいには立ち直れた。

 

「しかしリアル幼馴染み彼女でリア充ムーヴをかましていた九々津氏がこのような末路を辿ってしまうとは……水無瀬氏が新しく好きになった人って、冒険者なの?」

「…………隣のクラスの新藤」

「あの陽キャリア充ですね」


 新藤司。こいつはうちの学校ではかなりの有名人だ。

 学力は平均。ルックスは上の中。スクールカーストトップの陽キャという、これだけ見ればどこの学校にも結構居そうな奴なんだけど、コイツを学内の人気者たらしめるのは、冒険者という肩書に他ならない。

 スキルカードによって超常の力を得ただけあってか、運動神経は抜群。更にそこらの社会人よりも金持ちで非常に金払いが良いらしく、平均以上のルックスと財力が合わさって、薫を含むウチの学校の陽キャ女子は皆アイツに夢中だ。


「明らかに学校でチヤホヤされたいから冒険者になったって感じなんだよね。確か新藤氏は去年の中頃に冒険者になったって聞いたけど、コレと言った活躍は耳にしないし」


 冒険者というのは、義務教育が終了する中学の卒業後に、冒険者としてのルールや法律を一週間勉強する講習費用2万円と、スキルカード代の30万円を払えば簡単になれる。

 この緩い条件の背後には、資源調達役の増員だけでなく、地球がモンスターからの危機に迫られた時に対処するための戦力増加を目的としているらしい。

 魔王が倒され、モンスターを地球から駆逐してから百年。世界中は好景気になって栄えはしたけど、平和であるかと言われれば答えはノーだ。

 かつての戦いで世界中の軍隊は全滅。異世界に通じるゲートは今でも増えているからモンスターが地球に現れることもあるし、発見されたゲートは厳重に閉ざされるけど、その守りを突き破って現れる強大なモンスターの存在も確かに実在する。もしもの時の対処方法は必要不可欠だ。

 そんな状況下で国が選んだ方法というのが、冒険者を増やして魔物への脅威に備えるという方法だった。冒険者が儲けることができるのも、そう言った背景があるからだろう。

 今では無職とかホームレスとかは講習代やカード代を後払いに出来る制度もあると聞くし、未成年が命の危険がある冒険者になれるのも、この時代ならではだ。


「まぁ簡単になれる分、冒険者になる理由が薄っぺらい者が多いのも確かですし」


 そんな冒険者たちだけど、大きく分けて二つのタイプに分れる。

 一つはガチ勢。本気で冒険者業を生活の糧にし、積極的に新資源や新種モンスターの発見、ダンジョンの攻略や動画配信に精を出すタイプだ。

 もう一つがエンジョイ勢。単に自分を飾るステータスとして冒険者になったり、やたらと儲ける副業感覚で異世界から細々と資源を持ち帰るタイプ。多分、新藤はこっちだと思う。

 特に有名になれたりしないエンジョイ勢でも、特筆するところのない普通の学校でならヒーローになれるんだから、冒険者という肩書の影響力がよく分かる。

 …………やっぱり、薫も普通の高校生なんかよりも冒険者の方が魅力的に見えるんだろうか。


「……はぁ。フラれたのは、自分磨きを怠ったのが原因なのかなぁ? そりゃあ、付き合えるだけで満足しちゃってた俺も俺だけど」


 高校入学当初こそオタク気質で地味な感じだった薫だったけど、気が付けばファッションに拘るようになり、最近では俺と同じ趣味だったゲームや漫画からも遠ざかっていったように思う。そんな彼女に対して、俺自身が何の変化もないってなったら、そりゃ他の男と比べて見劣りしているって思われても――――


「あー……九々津氏? ちょっと言い出しにくいんだけど……実は僕、先月くらいに水無瀬氏が新藤氏と腕を組んで出歩いているところを見ちゃったかもしれない」


 …………ひょ?


「人の多い駅で一瞬見ただけだったし、その時は気のせいだと思ってそのまま忘れてたから、僕も今思い出した。でもよくよく思い出してみると、先月から九々津氏の予定が急に空くこと多かったし……」

「そう言えば薫の奴……先月くらいから急に付き合いが悪くなった。デートとかすぐドタキャンされたり……」

「……えぇと、九々津殿? 自虐に走る前に怒るべきだと僕は思うのですが? これ見てください。何かあるんじゃないかと今調べてみたのですが……」

   

 そう言って差し出されたスマホの画面に映っていたのは新藤のSNSだ。そこにはフラれる以前の記事も上げられていて、一緒に上げられている写真には、新藤に肩を抱かれながらも満更でもない笑顔を浮かべる薫の姿が映っていた。


「これ先月の投稿だよね? 新しい彼女ゲットとか書いてあるし……新藤氏は何股もかけるくらい女癖が悪いって普段関りのない僕らの耳にも届くくらい有名だし、これはもう確定なんじゃ……」


 ということは……アレか? 俺はフラれたというか……NTR(寝取ら)れた? そして薫は仮にも彼氏持ちでありながら、通すべき筋を通さなかったにも拘らず俺を騙し、ハイスペック男子の誘惑にホイホイ乗っかったと。


「やはり三次元の女はクソだという事かぁああああああああああっ!!」

「でゅふふふふ。どうやら九々津殿も二次元こそ至高であるという、我らと同じ真理に辿り着いた様子。今こそ愚痴という愚痴を解き放つ時です」

「今日ばかりは幾らでも付き合うよ。気分がスッキリするまで鬱憤を吐き出すんだ」


 その後、俺たちは店員から「他のお客様のご迷惑になりますので」と注意されるまで、ドリンクバーとポテトでドンチャン騒ぎした。


 

   =====



 午後八時。辺りがすっかり暗くなった頃合いにファミレスを出た俺は、放課後からこんな時間まで付き合ってくれた二人に軽く頭を下げた。


「ありがとな、二人とも。おかげで気分も晴れた」

「もう……大丈夫ですか?」

「……ぶっちゃけまだ傷心中だけど、とりあえず何かをしようって気持ちにはなれたかな」

「……九々津氏は、これからどうするつもり?」


 二人が俺の愚痴を根気強く聞いてくれたおかげで、浮気女にフラれて前にも後ろにも進めずに立ち止まるっていう、一番情けない展開にならずに済んだ。

 だからって薫に浮気していたことを問い詰めて責め立てるのかと言われれば、答えはノー。何か女々しいし、スクールカーストトップの一員で陽キャの味方が多い薫に、口八丁の喧嘩で勝てるとは思えないし。

 でも何もしないままでいるのも悔しい。せめて……せめて彼氏持ちの女を寝取った新藤と、浮気した薫の二人を見返してやりたい。

 そのためにはどうすればいいのか……その答えは、もうとっくに出ていた。


「決めたよ……俺、冒険者になる」

「「ふぁっ!?」」


 二人が驚くのも無理はないと思う。冒険者は花形職業であると同時に、命を失うリスクを負い続けなきゃならない危険な仕事だ。実際にモンスターというものに接したことのない俺ですら、そう言った話をよく聞くんだから、実際のところは聞きしに勝る、という奴だろう。


「金は一学期からバイトして貯めてきたから十分あるし、二人を見返すには、新藤以上の有名冒険者になって、薫には浮気した挙句に俺をフッたことを後悔させるしかないと思うんだ。そしてあわよくば、ヨリを戻そうとしてくる薫をこっ酷くフッてやりたい」

「魂胆が想像以上に酷い!」

「いや……だがそれは流石に……」


 渋い顔をする二人。言葉にはしないけど、内心では反対なんだろう。二村も八谷も、冒険者が危険な仕事だって分かってるから。


「でも、薫のことが無くたって俺は冒険者になってたと思う。今回の事は良い切っ掛けだったよ」


 誰もが一度は冒険者に憧れる。俺もその例に漏れず、バイトしてたのだってスキルカード代を稼ぐためだった。そうして稼いだ金で薫と遊ぼうと思っていたけど、それも無しになった今、これから得るであろう大金で何をするのか、今から楽しみでならない。

 大抵の人は大人になるにつれて冒険者を諦める。死のリスクがあるから。誰だって死ぬのは怖いし、金や名誉と天秤にかけられるモノじゃないって思うのは当たり前。

 それでも俺は一歩を踏み出した。あまり良い動機とは言えないかもしれないけど、今回の事が後押しになって長年の夢を叶える第一歩を踏めたというのは、何とも皮肉な話である。


「正直反対だが……そこまで言うのなら、僕たちも黙って見守るしかありませんね」

「でも命だけは大切にするんだ。九々津氏が亡くなれば、ご両親も僕たちも悲しむんだから」


 幼馴染にこっ酷くフラれた同日。俺の冒険者としての日々が、始まった。


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[良い点] 特になし [気になる点] 説明文が長すぎる。セリフが長すぎる。読み辛い。頑張って下さいね。
[一言] この変態2人をメインヒロインとしてよいのではないだろうか
[一言] ファミリーレストラン、【カスト】だと・・・ 最強の魔物になる道を辿るからまさかのマスコットとしての友情出演とは・・・ 『カストはボール』は読者共通のキャッチフレーズです。 これは幼馴染…
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