毒使いの陰キャ率の多さよ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
花橋ダンジョンの情報を一日かけて集められるだけ集め、俺は異世界へと降り立つと同時に【木偶同調】を発動、木偶人形の中から彼女を操作して走らせた。
今回攻略する予定のダンジョンに出現するモンスターは、吉備ダンジョンに出てくるモンスターとは比較にならない戦闘力を持っていることもそうなんだけど、魔法スキルを使う敵が多いとのことだ。
普通の攻撃魔法に、麻痺や毒の状態異常を与える魔法を使うモンスターも多く、対策しなければどれだけ戦闘力が高くても危ないらしい。
(という訳で、解毒薬を大量に買い込んだぞ)
(こういう時、お金のありがたみってのが分かりますねぇ)
一瓶あたり結構な値段をするアイテムだけど、吉備ダンジョンを周回して大金を得ていた俺は五十個ばかり購入しておいた。冒険者初日に買っておいた分や、吉備ダンジョンの宝箱から見つけたのを合わせれば六十三個だ。
解毒薬とは名前が付いているけれど、麻痺毒の解毒も出来るアイテムだ。というか、毒と付くものなら何でも無効化できるらしい。
で、この花橋ダンジョンに出てくるモンスターは色んな毒の魔法を使ってくるんだとか。これだと確かに、どれだけ戦闘力だけがあっても厳しいかもな。
(一口に麻痺と言っても、色々あるんだけどな。ほら、この間コボルトナイトに使った電撃罠……あれも踏んだ奴を麻痺状態にするアイテムなんだけど、毒を使ってるわけじゃないから解毒薬が効かないんだって)
(何か……ややこしいっす。もっとシンプルにすればいいのに)
(まぁ、仕方ねぇよ。戦闘力とか、スキルとか色々あってゲームっぽくなってるけど、この異世界だって複雑な要素が絡み合う現実なんだからな)
誰かが言った。この異世界には遊び心が多分に盛り込まれているゲームのようだと。それが実際のところどうなのかは分からないけど、こうして異世界を冒険していく内に、俺もなんだかそんな気がしてきた。
特に俺の場合、ゲームのコントローラーを握って木偶人形を操作しているのだから、尚更だ。
(っと、着いたみたいっすよ)
木偶人形の声に反応し、俺は傾けていた右スティックから親指を離す。
立ち止まった状態で見上げるそれは、岩山の断崖に穴を空けて、無理矢理大きな鉄扉を嵌めこんだような外見をしたダンジョンの入り口だった。俺はスマホを取り出し、マップ機能を画面に表示する。
昨日確認したマップによると……確かに、ここが花橋ダンジョンみたいだな。
(よし……開けるぞ)
再び木偶人形を操作し、鉄扉を開ける。外見からは想像もできないほどスムーズに開け放たれた扉の向こうには、どこまでも広がる曇天の空と、降りしきる小雨によって無数の波紋が広がる沼地だった。
(うわぁーお……! アタシたち、岩山の中に入っていったはずっすよね? てっきり洞窟みたいな場所をイメージしてたんですけど)
(ダンジョン内は異空間って話だからな。外観と内観が全然違うダンジョンも多いんだよ。いわゆる箱庭型ダンジョンだな)
ダンジョンには大きく分けて二種類存在していて、一つが吉備ダンジョンの様な通路を進んでいく迷宮型。もう一つが、花橋ダンジョンのように自然の一部を切り取ったようなフィールドを駆け巡るタイプの箱庭型だ。
(さて、まずはコイツを使うか)
俺は□ボタンを押して、木偶人形にアイテムを使わせる。
(お? なんか、体がポカポカしてきました)
(ホットポーションだ。常に小雨が降ってるダンジョンだからって言うから、一応な)
体感温度を上げ、体温の低下を半日ほど防ぐポーションだ。異世界やダンジョンには常に雨や雪が降っている場所もあって、そういうところで使用することで体力の低下を防ぐ効果がある。ちなみに、クールポーションという熱帯や火山帯で使う、ホットポーションと対を為すアイテムもある。
基本的にアイテムの木偶人形に低温や高温といった環境がどれほどの影響があるか分からないけど、念のために使っておいた方が良いだろう。
(それじゃあ、改めて行こうか!)
(おーっ!)
左スティックを倒し、木偶人形は人間離れした速さで駆け抜ける。
一見、どこまでも広がっている大自然に見える場所だけど、実際はダンジョンらしく進めない場所というものがある。
この沼地全域を囲む高い岩山の向こう側がそうだ。花橋ダンジョンでは、岩山に囲まれた沼地内を探索し、ボス部屋を見つけなければならない。
(おっ。あれは確か……)
水浸しの地面を走ること数十秒、木偶人形は一面に巨大な蓮の葉が浮いた広大な沼に辿り着いた。
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品種:皇帝大蓮
人が乗って戦闘が行えるほどの浮力を持つ、世界最大の蓮の葉。
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【鑑定眼】で詳細を確認してみれば……やっぱりそうだ。事前に調べた情報にあった沼地だ。
俺は×ボタンを押して木偶人形を軽やかに跳躍させ、大蓮の上に乗せる。
(この沼地は足が付かないほど深いみたいだから、落ちないように気を付けないとな。それに――――)
大蓮の上に乗った事によって生じた振動……それに反応するかのように、沼地から上半身が人間、下半身が蛇のモンスター、ラミアが六体同時に現れた。
(モンスターの住処でもあるみたいだしなぁ!)
(よーし、暴れるっすよぉ!!)
濡れそぼった長い髪が顔に垂れ、その隙間から蛇のように瞳孔の鋭い眼がこちらを睨み、口からは長い牙と二又の舌を覗かせているラミアたち。その手には一様に刃毀れが目立つ槍を装備している。
見たところ近接戦を得意とするモンスター……そう判断した俺は〇ボタンを連打。木偶人形の両手にガンブレードが出現し、ドガガガガガガガガッ! と、けたたましい銃声と共にラミア六体の内、四体を撃ち抜いた。
「ゲゲゲゲゲゲゲッ!!」
このガンブレードの銃撃の威力は木偶人形が内包した魔力……つまり戦闘力に依存する。戦闘力が向上して弾丸の威力も跳ね上がったが、口径の小さい弾丸で体を貫かれても、致命傷とまではいかないらしい。しかも頭や心臓といった一撃死するような急所は槍で防ぎやがった。
(吉備ダンジョンにも武器を使うモンスターがいたけど……こうも銃撃を防ぐモンスターは大盾を装備した奴くらいだったな。こいつらやっぱり強敵だぞ)
(しかも折れたりしないあたり、見かけに反して頑丈みたいですよ)
パッと見た感じだと、ただのボロ槍なんだけどな。元々の素材が頑丈な鉱物か何かなのか? デュアルモードでの銃撃とは言え、戦闘力の差があるはずのラミアの装備で防がれるとは。
「ゲゲゲゲゲゲッ!!」
その事に良い気になったのか、ラミアたちはしわがれた声で鳴きながら、蛇の下半身をニョロニョロ動かしながら近接戦を仕掛け、槍の穂先に魔法陣を浮かび上がらせる。
魔法スキルを使ったらしい。槍の穂先は毒々しい紫色の液体に塗れ、もう見るからに毒攻撃をアピールしていた。
(あれが状態異常攻撃みたいっす! 槍の攻撃に気を付け――――!?)
対処しようと身構えた瞬間、足元から突如として黄色い液体に塗れた槍の穂先が大蓮を突き破って、木偶人形の脇腹を穿った。
【ゲージシステム】のおかげで肉体的な損傷はない。代わりに緑ゲージが全体の一割が削られる。咄嗟に×ボタンを押し、木偶人形を岸へと避難させた。
やられた……! 沼から出てきたことから、ラミアが水中でも活動できることを考慮しておくべきだったか……!?
(あばばばばばば……!? か、体が痺れて……動けないです……!)
いや……それよりも問題なのは、ラミアの状態異常攻撃を受けてしまったことだろう。
木偶人形の脇を穿った槍に塗られた液体の色や、木偶人形の申告から察するに、受けたのは麻痺毒。木偶人形は片膝を地面につけて倒れないようにするだけで精一杯で、俺がどれだけスティックを傾けたり、×ボタンを押しても動く気配がない。
普通なら、【アイテムボックス】から解毒薬を取り出して飲むことも出来ない状態。それを知ってか知らずか、大蓮の下から奇襲してきた奴を含め、七体のラミアが岸に上がってきた。
「ゲゲゲゲ……!」
まさに絶体絶命のピンチ。七体のラミアは下劣な笑みを浮かべながら、寄って集って木偶人形に槍を突き刺そうとした瞬間――――
「……が命取りぃっ!!」
【オーラブレード】によって強い光を帯びた二つの刃が舞い踊り、ラミア七体を纏めて滅多切りにし、光の粒子に変えてやる。
普通の冒険者なら他人の助けを借りるか、解毒のスキルを使うかしなければならない状況だったけど、俺たちには【アイテム使用動作キャンセル】のスキルがある。
解毒薬を取り出す動作も、瓶を開ける動作も、中身を飲み干す動作も必要なく解毒薬の効果を発揮させることができるスキル。ぶっちゃけた話、ラミアたちがこちらに向かってきていた時には既に麻痺状態は解除していたし、無警戒に近づいてきた奴を皆殺しにするために、あえて麻痺ってたフリをしてただけだ。
(さて……いざ戦ってみたけど、戦闘力以上に厄介だな)
(やっぱり状態異常って強いですからね。どうします? 解毒薬にも限りがありますし、ボス戦のことも考えれば雑魚は避けて進んでいっても良いと思うんですけど?)
木偶人形の言葉にも一理ある。【三段ジャンプ】を駆使すれば、足場も多いこの沼を戦わずに突破するのも簡単だろうが――――
(いや、ここは戦いながら進もう。カードや魔石は美味しいし、解毒薬が切れれば撤退すればいい)
いざという時は撤退することだってできる。別に後戻りできないダンジョンとかでもないし、行けるところまでは行ってみよう。
ご質問があったのでお答えします。
Q『ギガントモンスターは何メートルくらいですか?種族差が激しいのなら最低何メートルくらいでしょうか?』
A『種族によって異なりますが、平均にして全長二十メートルほどです。中には超大型という山のように大きなのもいるとかいないとか』
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