名前は大事って、よく分かるんだよね
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください
改めてフードコートに戻ってきた俺たち。いい加減俺の空腹具合も、木偶人形のエネルギーゲージも限界になってきたし、手早く食べれるバーガーショップで済ませることにした。
元々はアメリカに本店があり、今では日本中に支店を構えるジャンクフードの最大手。人によってはジャンクフードだから不味いとか言うけれど、それは食わず嫌いって奴だ。
世界的なチェーン店が出すジャンクフード、そのクオリティが低いわけが無いんだよな。
「いただきまーす!」
そういうわけで早速注文したハンバーガーをテーブル席でガツガツ食い始める木偶人形。その食いっぷりは爽快ともいうべきで、やたらと美味そうに頬張っている。
まぁ、コイツは基本的に何でも幸せそうに食うんだけどな。駄菓子だろうが納豆ご飯だろうが、美味ければ何でもいいって感じだ。
「ところで、次の冒険はどうします? アタシはユースケの方針に従うっすよ」
「そうだな……そろそろ吉備ダンジョン以外にも行ってみようと思う。戦闘力上げをするのはともかく、手に入るアイテムに物足りなくなってきたしな」
俺は木偶人形にも見えるように、テーブルの上にスマホを置く。その画面には第十七支部のゲートを中心とした異世界のマップが表示されていた。
「俺らが探索したのはモンスターが殆ど出てこないゲート付近の地帯と、ランイーターがよくいる、吉備ダンジョンがある地帯だけだ。この吉備ダンジョンの反対方向に、推奨戦闘力が350の花橋ダンジョンがあるんだよ。次はこのダンジョンの攻略を目指していこうと思う」
「一気に難易度が上がりますね」
大抵の冒険者は吉備ダンジョンで得られる戦闘力や報酬に満足できなくなると、少し遠くに離れた推奨戦闘力が80~100くらいのダンジョンに向かう。俺たちみたいに吉備ダンジョンの次に花橋ダンジョンっていう冒険者はまずいないだろう。
「今のアタシの戦闘力ならいけそうですけど、何でこのダンジョンに?」
「単純に距離が近いのと、踏破報酬が美味しいっていう話でな」
確定で手に入るアイテムこそないものの、結構高い確率で良い物が手に入るっていう話だ。戦闘力も激増してきたし、そろそろ上を目指す頃合いだろう。
「その為にも明日一日は休みがてらに軽く下調べをしようと思う。本格的な攻略は明後日からで――――」
「あのー……ちょっと良いですか?」
今後の方針を木偶人形と話し合っていると、同じ年ごろの女冒険者二人組に声を掛けられた。
……あれ? この二人、どこかで見たような……?
「もしかして、この間ランイーターに襲われてた子たちっすか?」
「そうですそうです! やっぱりあの時助けてくれた人だったんですね!」
そうだ、思い出した。この間の新人冒険者だ。
「あの時は本当にありがとうございました!」
「せめてお礼が言いたくて、あちこち探しまわってたんです。……けど、出直した方が良いですか?」
「え? そんな事は無いと思いますけど……どうします?」
「ど、どうぞどうぞ」
緊張しながら、俺は木偶人形の隣に座る形で席を譲り、二人組は俺たちと向かい合うように座った。
「えっと、改めまして! 高嶺山学園一年の、百瀬瑠衣っていいます! 天職は魔術師です!」
「同じく高嶺山学園一年、千堂沙月。天職は槍使いです」
「どもども、ご丁寧に。アタシは――――」
茶髪のボブカットで垂れ目の子が自己紹介をすると、隣に座る黒髪ロングでツリ目の子が軽く手を上げながらそれに続く。当然木偶人形も自己紹介で返そうとするんだが……ここに来て、致命的な問題が発生した。
(ユースケ、どうしましょう? アタシ、自分の事をなんて名乗っていいのか分かりません!)
この事態は俺も想定していなかった。春休み中は冒険者業に集中することにしたから二村や八谷と会う機会もないし、妹は俺の交流関係にさほど興味が無いから木偶人形も名前を名乗る機会が無かったし。
ましてや、こんな美少女JKと知り合うことになるなんて、童貞に分かるわけがねぇ。
「あの……?」
ヤバい……二人が何か訝しんでいる。名前が無いなんて通じるわけないし、事情を話そうにも、木偶人形のことは出来れば動画配信まで情報を伏せておきたい。
適当な嘘を言って誤魔化そうにも、見ず知らずのJKに気軽には話しかけられない……! これが陰キャ寄りの内弁慶な童貞であったことへの弊害か……!
「えーっと、あのー……そのぉー……!」
木偶人形も嘘で取り繕うのは苦手なのか、視線が泳ぎまくって言葉が出てきていない。この状況、一体どうしたらいいんだ!?
考えても考えても答えが出ないこの状況。それを打開したのは、木偶人形が拝むように両手を合わせた音だった。
「すんません! 今は訳あって名乗れないです! その内名乗れるようになるんで、自己紹介はその時に改めてってことじゃダメっすか?」
「え? それってどういう……?」
木偶人形の言葉に困惑する二人。それはそうだろう。名前を名乗れないって、一体どんな事情だっていうのか。
でもこれはチャンスだ。木偶人形が作った勢いに乗る形で、俺も深く頭を下げる。
「悪いけど、コイツの名前を聞くのはまた今度にしてほしい。いつか機会があったら、その時はちゃんと自己紹介できると思うから」
「いやそんな! 頭を上げてください! 私たち気にしてませんから。ね? 瑠衣」
「そうそう。何か深い事情があるみたいですし、何時かその時が来たらでいいから、ちゃんと自己紹介してくれると嬉しいです」
なんだ……話の分かる良い子たちじゃないか。三次元の女などクソだと思っていたが、やはり全員が全員そうじゃないってことなのかな。
「とりあえず呼び方に困るでしょうから、アタシのことは適当に木偶人形とでも呼んでおいてください」
「えっと、それってハンドルネームって奴ですか?」
「んー……それとはちょっと違うんですけどね」
冒険者の間でもハンドルネームっていうのがある。動画配信や興行など、世間への露出も多い仕事柄だから、芸名みたいなものが冒険者にはあるのだ。
ちなみにハンドルネームに関してはもう決まっている。子供の頃からゲームのアバターに付けてきた、カラクリっていうハンドルネームだ。冒険者業もこのハンドルネームで通そうと思っている。
ちなみに名前の由来は名字繋がり。九々津→傀儡→人形→からくり人形→カラクリって感じで。
「あと、別に敬語じゃなくっても良いっすよ。一年ってことは、アタシらと同い年じゃないっすか」
「え? そ、そう? それじゃあ遠慮なく」
俺は小声で木偶人形に話しかける。
(お前って歳とかそういうのあったのか?)
(いや……何となく? 人間換算するなら、アタシもマスターたちと同じくらいの歳かなって思って)
確かに身長は低めだけど、話してみると同年代くらいに感じるし、特に不自然でもない……のか?
「それにしても同い年なんて驚き~。あんなに強いから、もう何年も冒険者してるんだと思ってた」
「いやいや、冒険者始めたのは春休みに入ってからっすよ」
「うっそぉ!? わたしたちと同じくらい!? それであんなに強くなれるものなの!?」
「ふっふっふっ。強さの秘訣はまだ秘密っすよ」
……女が三人揃って姦しくなったテーブル。そこで俺はすっかり疎外されてしまった。
この雰囲気の中、男一人で切り込んでいくのはかなりの場数と度胸が必要になる。その両方ともない俺はストローでジュースを吸いながら会話が終わるのをただ待つしか出来なかったが、ふと千堂が意味ありげな視線を俺に向けてきた。
「ところで~、お二人はもしかしてデート中だったりするの?」
「きゃ~! やっぱりお二人はそういう関係……!」
……何やら嬉し恥ずかしな誤解をしているらしい。ここは一応否定しておくべきなんだろうけど、木偶人形ははにかみながら人差し指を自身の唇に当てる。
「さぁ……どうなんすかね? それはまだ秘密っす」
肯定することはせず、それでいて否定することもない返事に、百瀬と千堂はより一層色めき立つ。
……その時のまるで嬉しいやら恥ずかしいやら、顔を赤く染めながら上機嫌そうに笑う木偶人形の顔を見て、俺は何も言えなくなっていた。
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「それじゃあね~、木偶ちゃーん!」
「また連絡するわね。…………九々津くんを介してになるけど」
「沙月ちゃんも瑠衣ちゃんも、今度はどこかに遊びに行きましょうねー!」
すっかり打ち解けて仲良くなった三人は、手を振りながら冒険者ギルドの前で別れる。
百瀬と千堂はやっぱり新人だったらしく、お礼の品になるようなものは持っていなかったけど、何か困ったり人手不足になった時には手伝ってくれると約束してくれて、連絡先を交換することになった。
とはいっても、戸籍もない木偶人形がスマホを持っている訳もないから、俺が仲介人になることになったんだけどな。電話になった時、ちゃんと話せるのかどうかが疑問だからメールかLINEにしてもらおう。
「……ん? スマホに通知が入ってる」
差出人は……冒険者ギルドだ。件名を見てみると『注意喚起』と書かれてある。
「ギガントモンスター出現? マジかよ……」
ダンジョンの外……在野のモンスターは例外を除いてダンジョン内のモンスターよりも弱いんだが、その例外というのがギガントモンスターだ。
名前の通り体の大きい、極稀に在野に出現するボスモンスターの総称なのだが、何故このギガントモンスターがダンジョンのモンスターよりも強いと言われるのか……その理由は大きく分けて四つ。
一つ目は巨体に裏打ちされた、純粋な戦闘力の高さ。弱いギガントモンスターでも討伐には最低でも1万以上という高い戦闘力が必要となってくる。
二つ目は厄介なスキルの複数保持。個体によって持っているスキルに違いはあるけど、いずれも厄介な代物であることには変わりはない。
三つ目が、人間の居所を探知し、地球と異世界を繋ぐゲートを一時的に閉ざし、冒険者が逃げられなくするスキルを持っているという事。
そして四つ目が、放置すれば無制限に強くなり続けてしまうという事。
これらの要因が重なって、ギガントモンスターは冒険者たちの間では一種の災害、あるいは死神のような扱いを受け、恐れられている。一部のダンジョンのボスモンスターを除けば、ギガントモンスターよりも強いモンスターは存在しないだろう。
とは言っても、強くて厄介でも無敵のモンスターというわけではない。過去に何度も討伐されているし、今回ギガントモンスターが現れたというポイントも離れた場所だ。
自分にはあまり関係のない、遠くで起きた出来事の話……この時の俺は、そんな風に軽く考えていた。
ご質問があったのでお答えします。
Q『ノクターンへの移動はいつごろを予定ですか?』
A『評価ポイントやブックマークがたくさん集まれば。魔法とかがある世界観だと、現実味を無視した感じで書けるから、濃厚なシチュだけは頭に貯めてます』
Q『妹の寝取られはなしですか?』
A『実妹を寝取られたもクソもないと思いまして。実妹に彼氏が出来てもおめでとう位にしか思えない……それが実兄のリアルな心境かと。ただまぁ、相手の男がよほどクズだったら諫めるくらいはしそうですが』
Q『そろそろ新藤や薫との接触してもよいのでは?』
A『作中では春休み中で接点が無いんですよね。ワンチャン、ギルドで新藤とすれ違う程度でしょうか? ただまぁ楽しみにしていてください。春休みが明ければ……』
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