ホラゲーはビビりほど楽しめる
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
翌日。間宮高校のゲートを通って異世界に降り立った俺たちは、すぐ目の前に建てられた白亜の城を見渡す。
綺麗で立派な外観をしているその城は、白の壁と同様に真っ白な壁に囲まれていているけど、その正面には白の雰囲気とは似合わないデカくて重々しいボス部屋の扉が取りつけられている。
(……他の冒険者の人も結構いるんですね)
(ギルドや国連が派遣してくれたらしい。皆魔王のことを知っている面々で、俺らより戦闘力高いのがゴロゴロいるぞ)
城の前には十数名にも及ぶ冒険者たちが既に待機していた。彼らは俺と一緒にこのダンジョンを挑むために集まってきたベテランたちだ。
俺はコントローラーを操作してカズサを冒険者たちに近づけさせ、挨拶をしてもらう。本当なら直接顔を合わせてやりたいところだけど、ここは異世界で、魔王のダンジョンの真ん前だからな。失礼ながらカズサに仲介してもらった。
「それで、扉は相変わらずなんですかね?」
「あぁ。やはりダンジョンの一部という事で扉も壁も破壊は出来ないし、各種増強系スキル持ちたちが力を合わせて押してみたが、やはり動かない。九々津支部長の言う通り、何らかの条件があるようだ」
冒険者たちの中でもリーダー格の人は俺たちにそう説明する。
果たして俺かカズサか、あるいはその両方がその条件とやらを見たいしているのかどうかは分からないが、まずは何かしてみないことには始まらない。試しにカズサの力で扉を開けてみようと扉に触れた瞬間、ガチャンッという音が扉の中から聞こえてきた。
『あぁ! 来たわ! 来たのだわ! 来てくれたのだわ! こんにちはわ! こんばんわ! ごきげんよう、私の英雄!』
その瞬間、辺りに響き渡る女の声。声色から察するに女のものだろうか……俺たち冒険者は一斉に武器を構えながら辺りを警戒する。
『ずっとずっと会いたかったのよ私の英雄! さぁ入って入って私の英雄! 英雄のためにとびっきりのお持て成しを用意したの! きっときっと英雄も喜んでくれるはずだわ!』
すると城門がゆっくりと開いた。外から様子を窺うが、舗装された一本道の先に城の正面出入口にあたる部分と、その両脇を固める石像群しか見えない。
ちなみにその石像を【天眼】で見てみたけど、なんてことはない。変哲もない、異世界でよく見かける石材で出来た像だ。他の冒険者たちの鑑定スキルも試してみたけど、結果は同じらしい。
「……とにかく、突入するしかない」
数人単位のメンバー分けをして突入の陣形をとる。俺とカズサは周囲の冒険者に守られる形で城の敷地内に入ったが……俺たち以外の冒険者は、いつの間にか城壁の外側へと移動してしまっていた。
(ちょっ!?)
魔王のダンジョンに一人残される形になってしまい、俺はすぐさまカズサを城の外へと出そうとしたが、それよりも早くに扉が勢い良く締まり、閉じ込められてしまった。
内側から扉を押しても攻撃してもビクともしない……どうやら魔王は、俺たちが目当てらしい。
「すみません、閉じ込められました! こっちからは開けられそうにないです!」
カズサが叫ぶが反応はなし……どうやら声も届かないらしい。前もって親父から聞いていた結界の作用か? 向こうに残った冒険者たちが持つスキルやマジックアイテム次第ではあるけど、助っ人は期待できないと考えた方がいいか。
(どちらにしろ、進むしかなさそうだ。ここに居続けるには危険な感じが凄い)
【窮鼠の直感】スキルからの警告が凄い。新しく手に入れた【レーダー】を使ってみると、城や庭の物陰からこちらを窺っている無数の気配があるのが分かった。【窮鼠の直感】が働いていることを考えれば、間違いなく害意があるんだろう。
(同じ場所に留まり続けるのは危険だし、攻略しなければ外に出られそうにない。このまま魔王に挑もうじゃねーか)
(うっす!)
コントローラーを操作してカズサを動かす。いきなり城の内部に入るのではなく、まずは城周辺の庭部分を探索だ。
一見すると別に変哲もない普通の庭だ。これと言った仕掛けもない。一応ダンジョン内部という事で石像や植木、舗装路は壊せないけれど、罠とかがあるという訳ではないらしい。
とは言っても、俺たちを狙う害意の視線は止まらない。【レーダー】を頼りにその害意の発生源の一つがある場所を調べても見たけれど、モンスターの陰一つ見当たらないって言うのはどういうことだ?
(ただ、そこに【天眼】でも見えない何かがいて、俺たちを笑っている)
……不気味だ。とにかく不気味。幽霊系のホラーゲームを思い出してきて、股間がヒュンってなってきた。
(マジ勘弁してくれよなぁ……バイオレンスなグロはともかく、俺ってホラーな展開ってあんまり得意じゃないんだよ。不気味な感じがしてさぁ)
(そういえば、ユースケってあんまりそういうゲーム持ってませんよね。……大丈夫ですよ。アタシの中に居る限りはユースケにちょっかいかけさせませんから、安心して身を委ねてください)
……やたらと男前な事をサラッというカズサ。止めろよ……乙女化しちゃうだろ?
(とりあえず……これで一通り外側は調べ終えましたかね?)
その後も俺たちは城の外側をくまなく調べてみた。庭に当たる場所にはおかしな気配があちこちにあるにあることを除けば何も無く、城そのものを外側から調べてみたところ、出入り口となりそうなのは正面の門、裏の勝手口、テラスのガラス戸三つ、屋上にある扉。窓も調べてみたけど、施錠されてて空きそうにない。
(窓はやっぱり壊せませんよね。ダンジョンですし)
(攻略のために城に入らないといけないのは確かだけど、問題はどこから入るかだな)
(正直、正面からは嫌っすね。何でって言われたら、何となくしか言えないんですけど)
(いや、俺もそれには同感だ)
カズサは直感的に嫌な予感を感じ取っていたけど、こういう城の正面というのは建物の中心だ。内部にモンスターが蠢いていれば、モンスターが一番集まりやすそうな場所でもある。
最終的に城の中央に行かなくちゃいけないとしても、その前に内部の探索も済ませてマップを作りたい。したがって、侵入経路は一番中央から遠く、逃げ場や隠れ場が多そうな裏の勝手口だ。
(……ん? ユースケ、あれって……)
そうカズサと話し合って決め、いざ侵入しようとした矢先、彼女は何かに気が付いた。
カズサの意識の先を追ってみると、正面の扉の丁度上あたりに紋章みたいなのがある。
(いや、紋章じゃない。あれは時計盤か?)
一見するとただの時計盤だ。【天眼】でもやっぱり変な点は見当たらない。
(あれがどうかしたのか?)
(いや、どうって訳でもないんすよ。ないんですけど……)
明朗快活なカズサには珍しく、まるで喉奥に小骨でも引っ掛かったかのように言葉を詰まらせている。
(……ユースケ。アタシ、やっぱりここに来たことがあるような気がするんです)
(マジか?)
(多分ですけど。あの時計は、どっかで見覚えがあるんです)
カズサの直感を信じるのなら、やはりこの城がカズサが木偶人形として生まれ変わった場所だという事だろうか?
(他は? 石像とか、扉とか、何でも良いから思い出せないか? 実は隠し扉があるとか)
(うぅーん……すみません、分からないです)
眉根を寄せて唸るカズサ。どうやら本気で他の事は思い出せないらしい。もっとも、時計のことに関しても違和感程度しかないけど。
(でもあの時計だけがカズサの記憶を刺激するほどの何かがあるってことか?)
もしかしたらあれはダンジョンのギミックなのかもしれない……頭に留めておこう。
面白いと思っていただければ、お手数ですが下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを入れて下されると幸いです。




