魔王なら、神を倒してこその魔王だと思う
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
念のためにダンジョンを可能な限り探索をし終えて、俺たちはボス部屋の手前で爆弾作りに取り掛かっていた。
材料はポーションの空き瓶に発火草、爆恐竜の起爆袋。それらを【アイテム調合】で合成しただけの簡単なものだが、問題はないはず。
(よし、出来た)
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品名:瓶爆弾
瓶が割れるほどの衝撃を与えると爆発を引き起こす手投げ爆弾。含まれた材料の性質を帯び、とある個所を破壊することが出来る。
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作り出された物は、それほど火力のある爆弾ではないが、恐らく十分。もしこれでダメだったら、一度ダンジョンを出て内部の状態をリセットないとだけど、それはそれで振出しに戻るだけで問題はない。
(さぁて、いよいよリベンジっすね)
(あぁ、行くぞ)
ボス部屋の扉を開け、再び巨人ラヴァスライムと相対する俺たち。
奴がこちらに向かってアクションを起こそうとする直前にはおマルの【悪魔憑き】が発動し、戦闘力を一気に急上昇させ、ボス部屋の中央……すなわち、巨人ラヴァスライムが出てきた穴がある方へと【ブースト】で駆けだした。
(思い返せば、似たようなことをしていたモンスターと戦ったことがある)
以前、俺たちのレベル上げにかなり貢献した花橋ダンジョン。そこを初めて攻略しに来た時、俺たちは巨大な蓮の葉の下からラミアの奇襲を受けたことがある。
だが俺たち冒険者がダンジョンを破壊できないように、モンスターだってダンジョンを破壊できない。にも拘らず、ラミアは俺たちの魔力弾連射でも穴が開かなかった蓮の葉を、錆びた槍一本で突き破ったのだ。
それはあの大蓮自体が、ラミアの攻撃によってのみ突き破れるという特徴を持ったギミックだということに他ならないと、後に訪れた研究者たちによって仮説を立てられている。
(つまりあの穴も、巨人ラヴァスライムによってのみ破壊できるというギミックがあったという事)
だがダンジョンギミックを施す理由が、ただの登場演出だというのには納得がいかない。大蓮だって、ラミアの奇襲の為のギミックだったのだから、何らかの意味があると俺たちは考えた。
そこで俺たちはこのダンジョンで得た情報の数々を思い返し、仮説を立ててみた。
(これ見よがしの爆弾の材料に、魔力の影響を受けにくい水。そして底の見えない穴……もし、山の麓辺りにあった大量の冷魔水を、火口にあるボス部屋に運ぶ手立てがあるとしたら……!)
吉と出るか凶と出るか……攻略されることを前提に生み出されたダンジョンと、その経緯を信じて、俺はコントローラーを操作してカズサに瓶爆弾を穴に放り込ませた。
巨人ラヴァスライムが攻撃してきたので見届ける暇もなくその場を離脱したが、瓶爆弾が真っすぐ穴の底へと落ちていく手応えはあった……あとは待つのみだが――――
(……きましたよ、ユースケ!)
山の麓……冷魔水が噴き出る間欠泉当たりの方から、ボゴォッという、カズサの聴力でようやく聞き取れるくらいの、水が炸裂するような音がかすかに聞こえてきた。
それに続いて微かな地鳴りが響き、それは徐々に大きくなっていく。発信源は、穴の奥から聞こえてくる激しい水音――――!
((きたぁーーーーー!))
まるでアニメで温泉が噴き出るかのような勢いで穴から大きな水柱が上がり、冷たい豪雨となってボス部屋全域へと降り注ぐ。
魔力の影響を受けにくく、非常に冷めやすい特徴を持つ冷魔水の雨は、ラヴァスライムの水を炎に変えるスキルを弾いて奴の体を冷やし、激しい蒸気を発生させながら瞬く間に固めていった。
(ははっ! 見ろ、カズサ‼ こうなったらラヴァスライムも岩の塊だ!)
蒸気が晴れた頃には、巨人ラヴァスライムは武骨な岩の塊となっていた。しかも動ける様子もない……今こそ好機だ。
俺は即座に【魔王覚醒】を発動。火縄銃を千丁ほど展開し、周囲全てに照準を向ける。ボス本体が潜んでいる場所は検討はついているが、念のために全法に向かって撃つことで逃げ場を無くす。
(これでトドメだ!)
全方位【天魔轟砲】三千発同時フルバースト。無数に赤黒い閃光が濛々と立ち上る煙を突き破って天空に伸び、逃げ場がないほどにボス部屋を埋め尽くす!
「■■■■ッ‼」
当然、ただの岩の塊となったラヴァスライムにガードできるものじゃない冷えて固まった巨人ラヴァスライムは【天魔轟砲】の掃射を浴びて砕け散り、中から一回り以上は小さい骸骨が、言葉にならない叫びを上げながら出てきた。
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種族:ペレアイホヌア
戦闘力:150000
火山を司る女神。眷属であるラヴァスライムを操り、山に踏み入った者に神罰を与える荒ぶる神霊。
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女性特有の長髪を思わせる、頭部から燃え盛る炎。そして明らかに東洋圏から外れた民族衣装と金の装飾を持つ骸骨……生で見るのは初めてだが、【天眼】で確認する限り、悪魔やドラゴンと並ぶ最強種の一角である神系のモンスター、その一体で間違いないみたいだ。
「■■■■■■ッ‼」
眼球の代わりに紅蓮の炎が灯る眼孔でこちらを睨むペレアイホヌア。画面越しでも伝わる圧力は神の名に相応しく、彼女の周辺には紅蓮の炎が燃え盛る。
恐らく身に纏っていたラヴァスライムは、奴の強さの一部に過ぎない。攻略されれば神の力で冒険者を圧倒する……そんなボスモンスターだったに違いない。
「■■ッ!?」
攻撃を仕掛けるよりも先に、【天魔轟砲】がペレアイホヌアに突き刺さり、彼女を吹き飛ばす。一瞬障壁みたいなのが間に入ったのが見えたから、何らかの防御スキルで致命傷は防いだみたいだが……。
(相手が悪かったな)
追撃に【天魔轟砲】を百発くらい同時に放つ。防ぎきれないと判断したのか、ボス部屋全体をジクザクに駆けまわって回避するその動きは韋駄天のようだが、同時に放つ砲撃の数を増やしていくと、どんどん余裕を失っていくのが目に見えて分かる。
【悪魔憑き】によって実質戦闘力30万。さらに【魔王覚醒】によって三千という火縄銃を展開している俺たちを相手にするには分が悪すぎる。
(今更E大陸以外の普通の戦闘で、苦戦するつもりはないんでな)
上空に浮かぶ千丁の火縄銃を下に向け、一斉に火を噴いた。
「■■■■■■■■■■■!?」
ボス部屋という限られた空間に居るペレアイホヌアに逃げ場などあるはずもなく、上空から雨のように無数に降り注ぐ魔王の閃光に、火山の女神は為す術もなく消滅させられるのだった。
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