謎解きはダンジョンの醍醐味
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
ボス部屋から撤退し、俺たちは骸骨があった場所へと戻ってきていた。その骸骨を動かそうと手で押してみるが……。
(動かない、か)
(【アイテムボックス】にも反応しませんね)
まるで地面に接着でもさせられているかのように、晒された躯はビクともしない。砕けた下半身の欠片にしてもそうだ。
(という事は、やっぱりこれも)
△ボタンを押し、魔王銃剣を骸骨に叩きつける。見た目通りに風化している骨なら一撃で砕け散るところなんだろうけど……俺たちの予想通り、骸骨にぶつけられた魔王銃剣は硬質な音を立てて弾かれた。
(間違いない。この骨はダンジョンの一部……ギミックだ)
おかしいとは思っていたんだ。もしこの骨が本当に冒険者の遺骨なら、ダンジョンの地面にナイフで傷を付けて、文字なんか彫れるわけがない。
(なるほどなるほど。察するに、この文字がボスモンスターを攻略する手立てがあるという保証でもあるわけですね)
(そういう事だ)
あくまでも仮定だが、ボスモンスターの攻略方法が、ボスモンスターを冷やし固めることなら……その方法が、このダンジョン内のどこかにあるという事じゃなかろうか?
合っている保障はないが、奴の反応やスキルから察するに試す価値はあるんじゃないかと思っている。
(でも、水どころか【絶氷】も対処されちゃいましたよ? 【魔王覚醒】で威力上げて、もう一回試してみます?)
(いや、得策とは考えにくいな。攻撃自体は脅威だったけど、行動速度そのものはカズサやおマルと大差なかった……つまり、戦闘力は似たり寄ったりだったと推測できる)
水や冷気を一瞬で炎に変えたスキル……あれは炎属性の攻撃スキルで消し去るなんて、拮抗した戦闘力を持つ奴相手に簡単に出来ることじゃない。戦闘力の差に関係なく、自身の体を冷やすことができる攻撃等を無効化するスキルだと思う。
(となると、アイテムやスキルに頼らずに別の方法で冷やす必要がある。これを前提に考えてみよう。実は俺、一つだけ心当たりがある)
(……おぉ! アレっすね!)
俺の言葉の意味を察したのか、カズサの表情が一気に明るくなる。
俺はコントローラーを操作してカズサをおマルの背中に乗せようとしたその時、彼女の足が骸骨の傍に落ちていたボロボロのナイフを蹴り飛ばした。
(ありゃ? これは動かせるんですね)
ダンジョンの一部で動かせない仕組みかと思っていたが、このナイフだけは持ち運びが出来る。これに何の意味もないとは考えにくい。
(うーん……壊れる様子はない、か)
【天眼】で見てみても、古びたナイフという情報以外は引き出せない。
だがこのナイフのダンジョンの一部というだけあって、カズサの力でも折れる気配がない。全力で何かに叩きつけても砕けたりしなさそうだ。
(一応、持っていくとしよう。何かに使えるかもしれない)
、古びたナイフを【アイテムボックス】に仕舞い、改めておマルの背中に乗ってボス部屋の少し手前にある、間欠泉が見える場所に辿り着く。
険しすぎる崖の下にある間欠泉だが、飛行能力を持つおマルの背中なら安全に近づける。
(おー……温泉もとい、間欠泉なんて初めて見ましたけど、こんなんになってるんですね。周りの岩も何かツルツルしてますし)
(この岩って噴き出した熱湯の成分が混じって新しい資源として注目されてるらしいんだよ。帰りにちょっと持って帰ってみるのもアリかもな)
詳しい理屈は俺も良く知らないが、大量の熱湯が噴水みたいに噴き出るなんて滅多に見れる光景じゃないしな。
(それで、この熱湯をぶっかけてラヴァスライムを冷やそうって訳っすね)
(そういうこと)
スマホに保存されていた、B-54ダンジョンの情報一覧を確認して、更に【天眼】で俺の仮説を裏付けさせる。
―――――――――――――――――――――――――
品名:冷魔水
沸騰していても熱源から離すことにより一瞬で冷却される水。魔力の影響を受けにくく、飲めばしばらくの間魔法攻撃に対して耐性を得ることが出来る。
―――――――――――――――――――――――――
一見するとただの熱湯だが、これもれっきとした異世界産の熱湯だ。氷や水を炎に変えるスキルだって魔力が元となっているだろうし、巨人ラヴァスライムを冷やすのにこれ以上適した水は存在しないだろう。
(でもあんな体の大きいモンスターを冷やすだけの量、持ち運べます? 【アイテムボックス】だって許容量がありますし)
カズサの言いたいことは分かる。【アイテムボックス】の許容量なんて、精々軽自動車一台分くらい……縦だけでなく横にも大きい巨人ラヴァスライムを冷やすには量が足りないと思う。自分自身の温度を上げると言ったスキルを持っていない保証もないし。
(……まだ調べていないものがある。結論を出すのは、それを調べてからにしよう)
そう言ってカズサをおマルの背中に乗らせて、来た道を引き返す。モンスターやラヴァスライムを避けながらしばらく飛行し、俺たちはボムサウルスの白骨死体がある場所まで戻ってきた。
(やっぱりこれもダンジョンの一部で壊せないんですね)
一番脆そうな部分に踵落としを叩き込んでみたけど、ビクともしない。こんなこれ見よがしな死体、調べる価値はある。
動かせないし、壊せないけど、皮も肉も全部失った死体。隙間だらけで傍目からでも調べられる……が、これと言って特に変わったものはない。ただ一部を除いて。
(何かあるとしたら、この頭骨の中身だな)
死因と思われる大きな罅が入った頭骨に目を向ける。ここも踵落としじゃ壊せなかったんだけど、割らないことには中身を調べられそうにない。そんなことが出来る手段があるとすれば……。
(このナイフだな)
傷一つ付かないダンジョンに傷をつけた……という設定のボロボロのナイフを【アイテムボックス】から取り出し、頭骨の罅に目掛けて力一杯叩き付けると、ナイフは砕け散り、頭骨は三つに割れた。
(おおっ! 壊せましたよ!)
(今の音でラヴァスライムが寄ってきてもおかしくない。早く調べよう!)
広がった罅割れには丁度手を突っ込むだけのスペースがある。俺はコントローラーを操作し、カズサに頭骨の中をまさぐらせると――――
(ん~……? なんか、石みたいなのがありますね)
掴んで取り出させてみると、カズサの手には黒い塊が握られていた。すぐさま【天眼】で確認する。
―――――――――――――――――――――――――
品名:爆恐竜の起爆袋
乾燥して固まったボムサウルスの起爆袋。起爆性のある粉塵を蓄える器官であり、内部には爆弾の原料となる火薬が大量に残っている。
―――――――――――――――――――――――――
(……爆弾でも作れってことですかね? ていうか、それって今作れるんですか?)
(持ち合わせの素材で何とかなると思うし、多分爆弾造るので間違ってないんだろうけど、一体どこを爆破しろと?)
巨人ラヴァスライムに効くとは思えないし、ダンジョンは基本的に破壊不可能……だが、今回の攻略で例外的に破壊できる場所があるというのを、俺たちはもう知っている。つまりこの爆弾で破壊できる場所があると思うんだけど――――
(……あ)
一つ、心当たりを思い付いた。
面白いと思っていただければ、お手数ですが下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを入れて下されると幸いです。




