スライムどばどば
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
対ラヴァスライム作戦、空を飛べばよくね?
((汚物は消毒だぁあああああああああ‼))
つー訳で俺たちは今、【虚ろの悪魔】で馬くらいの体格になったおマルの背に乗り、バスターモードに変形させた魔王銃剣を連射していた。
(顔だ! 主にスキルの基点になってる目と耳と鼻を狙ってやる!)
「ギャアアアアアアアアアアアッ!?」
(ふはははははは! あ~ばよとっつぁ~ん! です!)
高速で飛行するおマルの背に乗りながら、数々の索敵スキル持ちのモンスターたちの頭部目掛けて通り過ぎ様に魔力弾を叩き込みまくり、速攻で逃げ去っていく。耳と目と鼻を潰す。完全に倒す必要はない。
(よしよし、この作戦に切り替えて正解だったな)
索敵能力さえ潰してしまえば、そこに残るのは周りが見えずに暴れるだけのモンスターだ。たとえ何らかの回復系スキルを持っていたとしても、治る前に逃げてしまえばいい。これで利益の少ないモンスターとの戦闘は避けられる。
(そしてラヴァスライムもほぼ完全に避けて通れますしね)
通り過ぎる俺たちを無視して、先ほど発砲した場所に向かって密集し始めるラヴァスライムを見て、俺たちはほくそ笑む。
飛行の強みは三次元的な移動力だ。壁や天井を這う事も出来るラヴァスライムだけど、【三段ジャンプ】と【ブースト】で逃げれるのと同じ要領の移動をし続けることが出来る。更に飛行音自体も大きなものではないし、音以外の探知能力がないラヴァスライムは、俺たちを捉えることが出来ないってわけだ。
(よし、この要領で一気に頂上まで飛んでいくぞ)
(あいあいさー!)
モンスターもラヴァスライムも殆ど無視して空中を翔けるおマルの背中に乗り、洞窟の内部構造に沿って上へ上へと目指して飛んでいく。
正直、洞窟内だから飛行は避けてたんだけど、【虚ろの悪魔】の影響もあるし、これだけ広いとそれほど飛行に障りはない。このペースなら、そう時間も掛からない内にボス部屋に辿り着くだろう。……だが。
(どうかしたんすか?)
(いや、正直腑に落ちないところが多くてな)
このモンスターの数もそうだけど、一番不自然なのはあの骸骨だ。あの亡骸だった冒険者は、ダンジョンにおいて絶対にありえないことをやってのけた。
(やっぱり、このダンジョンはどこかおかしいですね)
カズサの言葉に頷く。推察が確信に変わっていく中、道中でまたおかしな物を見つけた。
(これは、ボムサウルスの死体か?)
白骨化しているけれど、ティラノサウルスに似た骨の形状を見る限り、この道中で何度も遭遇した爆撃を得意とする恐竜型モンスター、ボムサウルスの骨であることに違いはなさそうだ。念のために【天眼】で確認してみたら、実際にそうだったし。
(またおかしいのが出てきたな)
(そうっすね。モンスターの死体なんて、あり得ない)
ここが地球だったなら。あるいは、ボムサウルスが真っ当な生物だったなら、大して不自然には思わなかっただろう。
だがボムサウルスはモンスターだ。モンスターは死亡すればその肉体は消滅する……こんな風に、遺骨が野晒しで残るなんて考えられない。当然、こんな骨の情報なんて俺たちの耳には入ってないし。
(多分、アタシたちの予想は当たってますよ、これ)
ここまで事前情報と食い違ってくれば、自ずと答えに察しはつく。十中八九、かなり面倒な事になっているに違いない。
(っ! ヤバい、何かモンスターが来そうな気配だ。とっとと進もう)
【窮鼠の直感】で感じた危機感に従い、カズサをおマルの背中に跨らせて再び飛び立つ。
ボムサウルスの死体があった場所から飛び立ち、俺たちは改めて溶岩洞窟を進んでいると、外から洩れる光が見えた。その光に向かって真っすぐ進んでいくと、強い風の音がカズサの耳を通じて内部空間に響く。
(おお、外に出ちゃいましたよ?)
(道は合ってる。この崖の上にある横穴が、ボス部屋に通じてるんだ)
B-54ダンジョンでボス部屋を除けば唯一、空と火山周辺が見渡せる場所だ。切り立った断崖の向こうには、黒々とした岩の山々と、所々から立ち上る黒い煙。その煙に覆われた空が、霞んだ陽光を地面に降り注いでいる。
一見するとどこまでも続いているような光景だけど、ここはれっきとしたダンジョン。この空を飛んでいっても同じような光景が続いていて、いつの間にかこの火山に戻ってきてしまうらしいんだけど。
(ボス部屋って、火口なんですよね? このままおマルに乗ってビューンっていけません?)
(いや、止めといた方がいい)
そう言いながら視点を変え、火口から濛々と立ち上る煙に【天眼】を発動する。
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品名:死滅の獄煙
地獄に繋がる火口から漏れ出る死の黒煙。全ての耐性スキルを無視して触れた者を腐敗させる。特定のスキルによって無害化、加工することが出来る。
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未だギルドでも突破方法が把握できていない死の煙だ。魔王装備によって状態異常系を無効化し、実質外傷を負わないカズサでも、無暗にショートカットさせるわけにはいかない。
(あれはカグヤさんの毒に似た性質がある。触れないのが吉だ)
(なるほど。確かにそれを知ったら、ショートカットなんてしたくなくなりますね)
聞くところによると、火山周辺から立ち上っているのも死滅の獄煙らしい。直接触れなければ害にならないというのが、せめてもの救いだな。
ただ、このダンジョンの煙がどれも同じように厄介なものという訳じゃない。現に火山の麓から俺たちがいる場所まで、水が蒸発しただけの白い煙が上っていたりする。
(あっ! ユースケユースケ! あれって温泉じゃないっすか?)
(というか、間欠泉らしいけどな。偶に熱湯がこの場所まで届くくらいの勢いで噴き出すんだと)
火山で地下水が沸騰しているとか何とか? 多分そう言う地球の温泉事情を取り込んだダンジョンなんだろう。
少なくとも、浸かって楽しめる類のものじゃないのは確かだ。……いや、冒険者の耐久力なら、百度くらいの熱湯ならワンチャンいけるか? まぁいずれにせよ、そこまで気を配るものじゃないだろ。
=====
(……っと、着いたな)
道中に出会うモンスターを牽制し、幾つかの宝箱を開けて進むこと数十分。そうこうしている内に、俺たちはボス部屋の前へと辿り着いた。
(推奨戦闘力15万。こちらにはおマルとカズサ、合計戦闘力30万の戦闘力があるっていうのに、扉越しでも【窮鼠の直感】がビンビンに反応してやがる)
(ていう事は、アタシたちの勘は当たってるってことですかね?)
(それは、開けてみれば分かるだろうな)
コントローラーを操作し、ボス部屋の扉を開ける。
火口を舞台にしたボス部屋は、ゴツゴツした円形の石舞台の周辺に死滅の黒煙が噴き出し続ける、まさに地獄へ通じる穴って感じの場所だ。実質、この石舞台の外に出れば死亡確定、よくて大ダメージってところだろう。
(ボスモンスターはどこに……!)
(ユースケ、中央っす!)
真っ先にボス出現の予兆に気付いたのはカズサだった。ビキリという音が立ったかと思えば、石舞台の中央から大量のマグマが噴き出す。
……いいや、それは正確にはマグマじゃない。マグマと同じような超高温の体を持つ、不定形のモンスター。その正体を【天眼】で見極めたその時、俺たちは愕然とすることになる。
(嘘だろ!? これ全部、ラヴァスライムだっていうのか!?)
(……どうやらそれだけじゃ無さそうっすよ。スライムが巨人の形に……!)
噴き出す大量というか巨大というべきラヴァスライムが、全長5メートル近くはある巨人の姿を象る。【天眼】で改めてみても、引き出せる情報は相変わらずラヴァスライムのもの。一抱えほどのお気差しかないはずのラヴァスライムが、どうしてこのような姿を取れるのかという情報は一切引き出せない。
(これはもう確定ですね……事前情報なんて全部捨てて、覚悟決めていきましょう!)
カズサの言葉に俺は無言で頷く。
このB-54ダンジョンの本来のボスモンスターは、サラマンダーという翼のない巨大なドラゴンのはずだった。にも拘らず出てきたのは巨大な人型ラヴァスライム。そして事前情報になかった不審点。ここから導き出せる答えは一つ。
(やっぱり、ダンジョンリフォームが起こっていたか!)
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