ミスったら中身が潰れるやつ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
また検証することは増えたけど、とりあえず先にダンジョンで得た魔石やらを売り払うことにした。
冒険者ギルドには魔石の即売所があって、すぐに換金することができる。ゴブリンにスライムといった大量の雑魚モンスターの魔石に、ボスモンスターであるコボルトナイトの魔石となれば結構な金額になるんじゃないだろうか?
「すみません、魔石売りに来たんですけど」
「承りました。それでは、こちらの台車に魔石を置いてもらってもよろしいでしょうか?」
そう受付で言って用意されたのは、大きな四角の籠を取り付けられた台車だ。魔石は石くらいの大きさと重さがあるから、量が増えるとかなり重い。
俺が【アイテムボックス】から魔石をガラガラと台車に乗せると、職員が台車を押して奥の部屋へと引っ込んでいく。そのまま待つこと暫く、職員に呼ばれて再び受付へ。
「お待たせしました。こちらは魔石の代金、十万二千二百円と、明細書となりますので、ご確認ください」
「おぉ……!」
思わず感嘆の声が漏れた。十万越えともなると、高校生からすれば立派な大金だ。これで登録の時に払った三割以上は戻ってきた。
ま、すぐ使うんだけどね。
そのまま即売所を出て、俺は同じギルド内にある高級志向の道具屋へと向かう。そこには上等なポーション類の他に、冒険者たちが不要と判断して売り払ったスキルオーブが、値段票や説明書きと一緒にガラスケースに並んでいる。
「やっぱり……高いか」
宝箱からポンポン出てくる消費アイテムとは違い、スキルオーブや魔法の装備は基本的に高額だ。高いので数千万円、比較的に安くても数百万単位。十万なんて金が手に入ったけど、ここに来るとはした金に見えてくるから不思議だ。
でも中にはゴミスキルと呼ばれて、飛び抜けて安いスキルオーブも置かれている。俺はそういった格安品が置かれているブースに向かうと、そこには五万~十万くらいの、使えなさそうなスキルオーブが並んでいた。
「【舞踏術】に【速読】、【増毛】に【歯磨き】……確かに使えないのばっかりだな」
【アイテム強化】で本当にスキルオーブの効果が上がるのかどうか、それを検証してみたかったけど、こんなスキルに金払うくらいなら、明日もう一回吉備ダンジョンに行った方が断然良い。
今日はもう帰って、明日に備えるとするか。
=====
家について自室に入ると、【アイテムボックス】から出てきた木偶人形は、心なしかグッタリした様子でベッドに突っ伏した。
「おい? いきなりどうした?」
「うぅ……マスター。お腹が減って動けなくなりそうっす。エネルギーゲージもミリ残しっす」
「え? ……あぁ!?」
ヤバい。今の今まで気を配ってなかったけど、木偶人形は【ゲージシステム】によってエネルギーゲージが切れると動けなくなるんだった。
これまでは結構余裕を持って家に帰ってきてコンビニ飯やら納豆ご飯を食ってたけど、今回のダンジョン攻略は長引いちゃったからなぁ。
「よし……今日はダンジョン攻略記念に何でも好きなもん食わせてやるよ。収入も手に入ったしな」
「え!? いいんすか!?」
「あぁ。遠慮すんな。ていうか、お前も一緒に戦ったんだしさ」
「やったー! ゴチになります、マスター!」
諸手を上げて喜ぶ木偶人形を見て「現金だなぁ」って思ったけど、それは口には出さなかった。
本質はアイテムだとしても、俺は彼女の事を単なる道具としては見れなかった。むしろ冒険者として成り上がるという目的を共有できる仲間……【木偶同調】の力で文字通り命を預け合って一緒に戦う相棒みたいな関係になれればなって、心のどこかで思い始めている。
だからこういう時とかはご褒美も兼ねた報酬というのを渡したいと思う。もっと稼げるようになれば、木偶人形が個人で使える纏まった金を渡したりとかな。
「それで? 何が食いたい? 外食するなら……その格好だと目立つし、俺のジャージで良かったら貸すけど」
「そっすねー……ぶっちゃけどんなご飯でも食べればエネルギーは補充できるんで……あれが良いっす! 〇まい棒にガ〇ガ〇君、〇なこ棒にチ〇コバ〇ト、それからキャ〇ツ太郎に……」
「全部駄菓子じゃねーか」
「良いじゃないっすか、何か食べたくなったんすから」
ていうかよくそんなに種類知ってるな。まぁ駄菓子なんてどれも安いから幾らでも仕入れられるし、この時間からでもスーパーに売ってるから別にいいけど。
「分かった分かった。それじゃあ買ってくるから漫画でも読みながら待ってろ」
「よろしくお願いしまーす」
俺は自転車を漕ぎ、近くにあるスーパーで頼まれていた駄菓子を大人買いする。
……こういう風に豪快な買い物をしていると、自分が大人になった気分になってくるよね。
長い会計を終えて家に戻り、木偶人形の前に駄菓子が詰まった買い物鞄を置くと、木偶人形は棒状のスナック菓子、〇まい棒を手にする。
「うりゃ」
〇まい棒を縦に持った手を、そのまま自分の足に叩きつけると、包装の口が綺麗に空いて中身が飛び出した。知る人ぞ知る、〇まい棒のスタイリッシュな開け方だ。
「お前よくそんな開け方知ってるな」
「ん? ……そう言えば、何でですかね? 気が付いたら自然とやってました」
木偶人形と一緒に頭を傾げながら、俺も〇まい棒をスタイリッシュに開ける。
「おっ? マスターもその開け方出来たんですね」
「……昔、友達に教えてもらってな」
そう答えながら、俺はポタージュ味の〇まい棒を齧る。懐かしく、安定した美味さだけど、やっぱり口の中の水分を容赦なく奪っていく。二人分の水を用意しなきゃな。
「うまうま……♪ 懐かしい味っすねぇ」
「お前食ったことないだろ」
安物の駄菓子をやたらと美味そうに食べる木偶人形。その姿はどこか、大好物の骨を齧りまくる犬っぽくて、彼女にピコピコ揺れる耳と、ブンブン揺れる尻尾が生えているように見えて、俺は思わず微笑ましさを感じると共に萌えてしまった。
……三次元の女などクソだと悟った俺の心をこうもかき乱すとは。やはり人形が美少女化しただけあって、厳密には三次元の女とは違うのか?
「喉乾いたから水持ってくる。お前の分はどうする?」
「あ、ついでに頼みます」
俺は一旦台所に行き、デカいコップ二つに冷水を注いでから部屋に戻る。そのまましばらく、木偶人形と駄菓子パーティーをしていると、彼女はふと思いついたように口を開いた。
「そう言えば、マスターは何で冒険者になったんすか? やっぱりお金っすか? それともモテるからだったり?」
「あー……その、何というかだな……」
「何すか何すか? なんか言えないことでもあるんですか?」
「いや、そうじゃないんだけどな」
俺は木偶人形にこれまでの事を話した。付き合ってた彼女にフラれたと思ったら寝取られていたこと。悔しくて見返したくて冒険者になったこと。我ながら浅い理由で命懸けの戦いに参加したということも全部。
「何ですかそれ? 酷い女もいたもんですねぇ。女の風上にも置けない奴っす」
「だろぉ!? 他に好きな奴が出来たなら、ちゃんと俺との関係を清算してから付き合い始めればいいのによぉ!!」
すると木偶人形が俺に同情してくれて、駄菓子パーティーは愚痴の披露会になった。やれ薫の奴がどうのだの、新藤がどれだけ男子からの評判が悪いかだの、性格が悪い話ではあるけど、本人たちが居ないところで盛大に悪態をつきまくって、胸の中に溜まったストレスを吐き出しまくる。
「だから俺決めたんだよ!! 人気冒険者になってアイツらを見返して、薫がよりを戻そうとしてきたら盛大にこっ酷くフッてやるってな!!」
「おぉう……色々と動機が酷い。まぁ、アタシとしても実績で見返してやろうっていうのは賛成っす。……ところで、現状ではその幼馴染みさんと……新藤? って人は見返せそうなんすか?」
「いや……今はまだ無理だろうな。噂で聞いただけだけど、新藤って吉備ダンジョンよりも難易度の高いダンジョンを踏破してるって聞いたし」
エンジョイ勢とは言え、新藤と俺とでは冒険者として積み重ねてきた月日が違うから、そこは仕方ない。
「近しい友達や家族は知ってるけど、それ以外の奴に俺が冒険者をやってることを知らせるのは、タイミングを見計らいたい。具体的には新藤よりも遥かに格上の……薫の奴が俺をフッたのを後悔するくらい、財力も実力のある冒険者になったところで動画配信とか始めて、学校中の奴らに知らしめたいな。……その時はお前にも動画に出てもらいたいんだけど……」
「いいっすよ。アタシは最近のラノベにありがちな陰キャでボッチになりたがる根暗な主人公とは違って、目立つのは嫌いじゃないっすからね」
「だからお前は何時の間に昨今のラノベの傾向まで把握してるんだよ」
美少女化した上に操作性が極めて高い木偶人形という特異なアイテムの存在を前面にアピールした動画を配信すれば、すぐにバズりそうだしな。画面も華やかになるし、木偶人形の承諾は必要不可欠だった。
「まぁ、天職がアイテムマスターだった時点で冒険者として終わってたのに、無理を通して殺されかけたんだけどな。その点では、お前に会えて本当に良かったって今でもすごく思ってる。やたらと高性能だし、操作方法も俺にとってはお誂え向きも良いところだし」
「ふっふーん! そうでしょうとも、そうでしょうとも! もっともっと褒めてくれても良いんですよ、マスター!」
やたらと上機嫌なドヤ顔を浮かべながら、頭を俺に差し出してくる木偶人形。
……何だその頭は? 撫でろっていうのか? 撫でればいいのか? ここで気安く撫でて、「え? 何急に人の頭撫でてるんですか? キモッ」とか、冷静な口調で言ってきたりしないよな?
「……よーしよしよしよし」
「えへへへ……」
恐る恐る柔らかな銀髪を撫でてみると、木偶人形は気持ちよさそうに俺の手のひらに身を委ねる。
……やっぱりコイツ、何か犬っぽいわ。それも飼い主に完全に懐いた、褒められたがりの犬って感じで、ドヤ顔も単なる愛嬌にしか感じない。
「でも正直、アタシも驚きましたよ。まさかアイテムマスターなのに冒険者やろうなんていう奇特な人がいるなんて。ぶっちゃけ、「自殺志願者かな?」って思いましたもん。戦闘力なんて「ゴミめ」って鼻で嗤われそうですし」
「ほっとけ! 俺だって本当なら剣士とか魔術師とか、普通の天職がよかったよ」
「まぁまぁ、本当のことなんだから拗ねないでくださいよ」
本当のことってお前……いやまぁ、本当のことなんだけど……全然フォローできてないからな?
「確かにマスターは無謀でしたけど、今はもう違う。アタシが居ます」
そう言って木偶人形は、この先の不安とかを何もかもぶっ飛ばしそうな、眩しく快活な笑顔を俺に向ける。
「アイテムマスターと木偶人形。一人と一個ずつだと単なるハズレ職とハズレアイテムでも、アタシとマスターの二人が揃えば最強です!!」
その笑顔。その言葉を聞いて、俺の頭の中でずっと昔に見聞きした記憶が鮮明に蘇った。
――――ボクとユースケの二人が揃えば最強だ!!
「……? マスター、どうかしたんすか?」
「あ……いや、何でもない」
俺は何を言って良いのか分からず、チ〇コバ〇トを咥えながら口を閉ざす。
この世全ての駄菓子の中で一番美味いのは、やっぱりチ〇コバ〇トだった。
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