スライムもりもり
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
地図情報を頼りに辿りついたのは、地面を直接掘り進めたかのような地下へと続いていく大きな階段。その階段を降りていくと、お馴染みのダンジョンの入り口である扉があった。
(さぁて、準備万端っすか?)
(んー、ちょい待ち)
B‐54ダンジョン。情報によれば、溶岩溢れる火山洞窟のような箱庭型ダンジョンであり、その推奨戦闘力は15万……暁ダンジョンと同じくE大陸以外のダンジョンの中では最高峰に位置するが、難易度は暁ダンジョンを上回るという。
(なんか、扉越しでも熱さが伝わってくるっす)
(クールポーション必須って、どこのサイトでも紹介されるだけはあるな。ほれ)
体温の上昇を防ぎ、熱波によるダメージを防ぐことが出来るポーションを使用する。人間とは違うカズサならある程度はなくても大丈夫だろうが、念には念をって奴だ。
こうして全ての準備が終えて扉を開けると、奥に広がっていたのは燃え滾る溶岩が放つ真っ赤な光に満たされた広大な洞窟だった。
(暑……くはないっすね。ポーションすげぇ)
(【アイテム強化】の恩恵もあるからな)
クールポーションと対を為すホットポーションで、ゼル・シルヴァリオが放つ猛吹雪を凌いだのだ。カズサの戦闘力も15万にもなったし、今更溶岩が放つ熱で参るような戦闘力でもない。
(おマルと連携すればボスも問題無さそうだけど、一応【魔王覚醒】はボスまで取っておこう)
(そうっすね)
ただでさえインターバルが長い上に、長期戦向きのスキルじゃない。道中のモンスター相手に使うには勿体ないからな。
(でも確かに、こんなマグマがあちこちに流れてる場所となると、立ち回りに気を付けないとっすね。暁ダンジョンよりも難易度高いって言うのも納得です)
(確かにそれもそうなんだけど、それよりも面倒なのが溶岩に潜んでるんだってさ)
事前に調べた情報によれば、鑑定系のスキルを使って溶岩を見れば分かるらしいが……どれどれ。
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種族:ラヴァスライム
戦闘力:?????
火山系のダンジョンのギミックであり、モンスター。知能は殆ど無く、人間を見つけては攻撃を仕掛けるという本能だけで動く。戦闘力に関係なく、一定のダメージを与えるスキルを連発する難敵で、音に敏感。
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(あれが噂のギミックモンスターか。聞いた通り、厄介そうだな)
よく見てみれば、サラサラとした粘度が低い高温の溶岩の一ヵ所だけ、固まってる部分がある。そこを【天眼】で見てみると、そんな表示が出てきた。
ダンジョンの壁や床、天井というのは、隠し通路などの例外を除けば基本的にどんな攻撃でも破壊できない。そんなダンジョンと同質の耐性を持ち、冒険者を一方的に狙ってくる倒せないモンスターが存在する。
それがギミックモンスター。ダンジョンに生息する、倒せることのない生きた罠である。
(しかもこっちの耐久力は無視ってことですよね? あんなのがうろついてたら、無視なんてできないっすよ)
(一応、防御系のスキルとかで防げるみたいだけど……ん?)
10~20メートルくらい遠くから観察していたラヴァスライムが上下に蠢きだした。一体何をして……?
「何かヤバいっ!」
【窮鼠の直感】が警報を鳴らし、コントローラーを握る手に力が入った瞬間、ブボボボッ! という音と共にラヴァスライムが広範囲にわたってマグマを吐き散らした!
戦闘力を無視したダメージを与えてくるというのなら、あの攻撃を受けた時のダメージは、冒険者でもない一般人がマグマを浴びることに等しいというのは容易に想像がつく。あれに当たるわけにはいかない!
「シッ‼」
明らかにカズサ目掛けて扇状にマグマを吐いたラヴァスライムに向かって、あえて全力で距離を詰める。
地面に立つカズサに降りかかる前に通り過ぎることで回避させ、両手に握っている魔王銃剣の銃口が連続で火を噴いた。
(……あれ? 効いてません?)
物は試しと撃ってみたものの、どうせ効かないんだろうと思っていた連射された魔力弾は、意外な事にラヴァスライムの体を抉り飛ばした。一見すると、攻撃が効いているようにも見えるけれど……。
(いや……やっぱ駄目だな。全然効いてないわ)
即座に周りの溶岩を吸収し、削られた体を修復しやがった。
多分だけど、体表にあたる部分は本体に含まれず、攻撃が通らないんじゃなかろうか? まぁ例え本体に攻撃が当たっても、倒せる気がしないけど。
(でも良い事も分かりましたね。攻撃すれば怯ませられますよ)
確かに、この情報は俺たちにとってもあり難い。面倒なダケな存在のラヴァスライムだけど、攻撃を当てれば数秒間は足止めできる。これをどう活かすべきか――――
(ふぁっ!?)
その時、【窮鼠の直感】スキルが先ほどとは比べ物にならないほどの警戒を俺の頭に叩きつけた。目の前のラヴァスライム……ではない。左右後ろ斜め、色んな場所を警戒しろという強力な命令に辺りを見渡してみると、いつの間にか無数のラヴァスライムに囲まれていたのだ。
(そう言えば、説明文に音に敏感って書いてましたね)
(……ふっ)
どこな暢気なものにここ得るカズサの声に、俺は自分自身の失態を自嘲し、嘲笑う。
さっきまでは影も形もなかったと思うんだけどな。洞窟内だから発砲音が反響しちゃったのか? それに反応して短時間でこんなに集まってくるなんて、意外と速い……!
((さようならっ!))
【三段ジャンプ】と【ブースト】の合わせ技で一気にその場からカズサを離脱させる。これで難を逃れたと胸を撫で下ろした俺たちだったが……この時、俺たちはまだラヴァスライムの真の恐ろしさを知らなかった。
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