人生では、誰かをグーで殴りたい時がある
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
それからしばらくの間、俺たちと新藤の激戦は続いた。
俺たちは技量で、新藤はスキルの後押しを受けていると思える速度と反射する障壁を活かして一進一退の攻防を繰り返し、例えダメージを受けても即座に回復。……戦局は、【魔王覚醒】の効果でエネルギーゲージが減り続ける俺たちにとって、不利な長期戦にもつれ込みつつある。
「だらぁあっ‼」
長い両腕が繰り出す破壊的な攻撃を、剣を盾にしながら掻い潜り、乾坤一擲の蹴りを繰り出すカズサ。
ここまで戦ってきた感覚で、クリーンヒットさえすれば新藤にも有効打を与えられる威力の筈……だが、その蹴りを遮るように展開された障壁に防がれたばかりか、カズサの体が大きく弾き飛ばされてしまった。
((まだまだぁっ‼))
周囲を囲む炎の竜巻に当たる前に【三段ジャンプ】を活用して緊急着地。すかさずグラウンドをくり抜いて、カズサは自身の身長以上の塊を新藤に向かって投げつけたが、それもあっさり反射され、カズサがいる場所に向かって跳ね返ってきた。
この程度なら難なく回避して体勢を立て直せたが……投擲もダメか。
(あの障壁、マジで厄介っすね……! こっちの攻撃は何でも跳ね返しちゃいますよ)
遠近問わず、魔法スキル、物理攻撃、攻撃アイテムと、【滅陽】と【爆砕破】を除く全ての攻撃で障壁の突破を試みてはみたけど、どれも失敗に終わった。
障壁に当たった途端、遠距離攻撃なら反射され、近距離攻撃なら吹っ飛ばされる。性能だけで言えば、【ノックバックカウンター】の完全上位互換ってところだ。
(奴の障壁を掻い潜って何とか攻撃を入れても、そうする隙が少ないからすぐに回復されてダメージが無かったことにされるしな)
(むぅ……無駄に強力なスキルを)
しかも恐ろしいことに、あの障壁を張るスキルにはインターバルらしいインターバルが存在しない。持続時間としてはおよそ一~二秒くらいだが、障壁が切れた直後に攻撃を繰り出しても、空いたもう片方の手を即座に前に出して障壁を展開してしまう。
周囲に渦巻く炎にでも叩き込んでやれば倒せそうなもんだけど、流石の新藤もそれに警戒しているのか、中央を陣取って離れようとしない。
(今のところ分かっているのは、あのスキルは真っ向からの攻撃では突破困難であること。インターバルが無いに等しいこと。そんで、手のひらをかざした先に展開されるという事だ)
今思えば、最初にあのスキルで【天魔轟砲】を防いだ時も、奴は頭上に手のひらをかざしていた。逆に死角を取って攻撃を当てれたこともあるし、あのスキルは手に依存するスキルと見て間違いない。
「ヒハハハハハハハハハハッ‼ 勝テル‼ 九々津ニ勝テルゾォオッ‼ ソウナッタラ、ソイツハ俺ノ物ダァアアアアアッ‼」
こちらの攻撃の大半を防げて随分と気を大きくした新藤がより一層苛烈に攻撃を繰り出してくる。
自分に有利に戦況が傾いていると察している分、攻撃が雑になってきているから対処は簡単だけど、徐々に減っていくエネルギーポーションの数を見れば俺たちの不利は明らかだ。
(……だけど、気になることがある)
(そうっすね。全く同じスキルを左右の手で使い分けてる)
インターバルを短縮させるのでもなく、右手と左手に宿るスキルを交互に使う事で、実質的にインターバルを帳消しにするようなやり方……俺たちからすれば、実に馴染みのある戦法だ。
そもそも冒険者ないし、モンスター自身に同じスキルが複数宿ることはない。となると、考えられるのは一つ。
「ふっ!」
【モードシフト】によってバスターモードからデュアルモードに。巨大な銅剣状から二つの三日月に分かれた刃を左右に投げ、両側から新藤を襲わせると同時に【ブースト】で一気に距離を詰める。
「チィッ!?」
自身に挟撃を仕掛けるように迫ってくる三日月と、接近してくるカズサ。この二つを見比べて新藤は一瞬思い悩むような素振りを見せたが、すぐさまカズサに注意を払い、三日月の対処を無視した。
「マタ遠距離攻撃カ!? 凝リモセズッ‼」
そう言いながら、カズサを妨げるように障壁を展開し、自身の身を守る新藤。
素手の冒険者よりも飛んでくる凶器を警戒するのは当たり前だが、【天魔轟砲】を加えた三方向からの攻撃なんて、これまでの攻防で既に数回披露している。流石にそのくらいの対処くらいは学習するらしい新藤はダメージ覚悟で三日月を体で受け止め、冷静に何かを仕掛けてくるであろうカズサを対処するつもりだろう。
人形の体だからか、新藤は攻撃を受けても痛みを感じている様子はない。奴の耐久力なら三日月が直撃しても耐えきれるし、防御が万全なら幾らでも立て直せる。敵ながら良い判断だ。
(ただし、俺たちの手口を全て知った上でならなぁ!)
触れれば弾き飛ばされる障壁。それに触れる直前、カズサの足元から【炎柱】を発動させると同時に【ミラージュステップ】で透過……吹き上がる業火を目晦ましにして、一気に障壁を回り込んで新藤の間合いの内側を占領した。
(やっちまってください、ユースケ!)
(おらららららららららららららららららららっ‼)
近接攻撃を発動させる△ボタンを連打。それに合わせてカズサの両拳がガトリングのような勢いで、障壁を展開する新藤の右腕に叩き込まれまくる!
「ヤ、ヤメロッ!」
【コンボアタック】によって、拳打が直撃する度に威力が上がっていく。攻撃開始から瞬時に腕に亀裂が入ったのを見て焦った新藤が、慌てた様子でもう片方の手でカズサを払い除けようとしたが……その手がカズサに触れることはなかった。
大柄なモンスターほどではないにしても、小柄なカズサからすれば新藤は十分巨体だ。加えて両腕はバランスが悪い位に長い。超近距離からインファイトを仕掛けられるなんて、苦手な部類だろう。
そんな新藤が、自身の間合いの内側に入られた【ミラージュステップ】持ちの冒険者に対処するなど、簡単な事じゃない。離れようとしても【魔天之災渦】で逃がさないし。
「チョ、チョコマカスルナァアアアアッ‼ 俺ニ攻撃サセロォオオオッ‼ オ前バッカリ狡イゾォオオオオッ‼」
「そんなこと言われましても……ねぇっ‼」
避けながら攻撃し続け、亀裂だらけの腕に渾身の一発をぶち込む。
バキャッと木材が砕ける音と共に、腕の中から鏡を多面体に加工したような光を反射する石が付いた短い杖のようなものが飛び出した。拳打の威力に耐え切れなかったのか、腕と一緒に砕けてしまっている。
「テメェエエエエエエエエエエエッ‼」
(やっぱり腕に魔法の装備仕込んでやがったか!)
【魔王覚醒】によって最大三千丁展開できる火縄銃を使い回すことで【天魔轟砲】を連射していた俺たちと同じだ。絶対防御の障壁を展開できる魔法の装備を複数個用意することで実質連続発動を可能とし、腕に魔法の装備を仕込むことで【天眼】でも見破らせない。
「でもタネが割れた上に片手落ちの敵なんて怖くないっすよ‼」
もう片方の腕に仕込まれた杖も破壊。鼻からのドリルも【ミラージュステップ】で対処できるし、攻撃も通るようになれば、後は戦闘力差を覆すだけ。
「ぜいっ!」
「ガッ!?」
新道の軸足を蹴ると同時に【魔天之災渦】を発動。普段は引力を発生させることが多いが、敵を弾き飛ばす力……斥力を使う。
足払いをされると同時にほぼ真下と言ってもいいくらい懐の深い所から発生した斥力によって、新藤の巨体が浮く。その隙を見逃さず、無数の火縄銃を展開。新藤の体を下から突き上げるように【天魔轟砲】を連射した!
「グアアアアアアアアアッ!? ヤ、ヤベロ……ブッ!?」
赤黒い光線が直撃する直前、新藤の全身は木材のような見た目から金属のような材質に変わったのが見えた。恐らく全身の硬化……代用の防御スキルなんだろうけど、はっきり言って受け切れていない。
上空に居る新藤に向かって放たれ続ける無数の光線は、徐々に威力を増しながら新藤の体を削っていっている。回復スキルによって体を復元しようとしているが、それも間に合わない。
(炎の竜巻が……!)
その時、スキルの効果時間が切れたのか、遥か天空まで渦巻いていた炎の竜巻がフッと勢いを無くして消えていった。だがゲートから新たにモンスターが出てくる気配もない……ここは一気に新藤に……!
「ウォオオオオオオオオオオオッ‼‼」
「なっ……!?」
止めを刺す……そうしようとした時、火事場の馬鹿力とでも言うべきか、必死にもがいた新藤は【天魔轟砲】の集中砲火から脱出しやがった!
【三段ジャンプ】と似た空中機動と、それに伴う加速。向かっている先は、グラウンドの一角にある一本の大きな木だ。
慌てて【ブースト】で追いかけるが……何故新藤はそんな場所に向かう? 逃げるにしても市街があるはず。
一体そこに何があるのか……ホログラム画面に映る視点を切り替えて見てみると、何故か木の陰から新藤とカズサを恐怖にひきつった顔で眺めている、腰を抜かして動けそうにない薫がいた。
面白いと思っていただければ、お気に入り登録、または下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを送って頂ければ幸いです




