これからの部活どうしよう(運動部一同)
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
『うわあっ!? うわぁあああああああああああ‼』
『いやぁあああああああああああっ!?』
突然現れた凶悪なモンスターに、グラウンドに居た生徒たちは一斉に大混乱に陥る。
実際にその目でモンスターを見たことがなくても、モンスターの脅威はその被害と共に誰の耳にも届いている……今この地球でも最も人間の命を奪っている災害と言えば、誰もがモンスターであると応えるくらいに。
そうでなくても鋭い爪や牙が生えた巨大生物が咆哮を上げながら迫ってくれば、始めて冒険者になった日の俺みたいに恐慌状態になって当たり前だ。
『きゃあああっ!?』
そんな状態で一斉に集団で逃げだせば、躓いてモンスターの格好のエサになってしまう生徒も出てくる。逃げ惑う他の生徒や教師に助ける余裕など、あるはずもない。
動けない捕食対象を狙うのは道理だ。体育倉庫から飛び出してきたモンスターたちは転んだ女子生徒に我先にと牙や爪を突き立てようと飛び掛かった。
『ガァアアアアアア……ギャッ!?』
その直前、最前列に居たモンスターたちを紫電を撒き散らす三日月がブーメランのような軌道を描きながら切り裂き、Uターンして再びモンスターの群れを切り裂きながら戻ってくる。それをキャッチさせると同時に、【魔王覚醒】を発動させたカズサはモンスターの群れと女子生徒の間に立ちはだかった。
とっとと逃げてほしいところだが、女子生徒は腰を抜かして動けない様子……仕方なく、テイムカードから召喚したおマルに女子生徒の襟首を咥えさせ、遠くへと運ばせた。
「モンスターパレードが発生しました! ここはアタシたちが足止めします! その間に避難してください‼」
高い戦闘力によって発することが出来る、スピーカー染みた声量に反応し、学校内部から周辺住民に至るまで、一斉に混乱の声が聞こえてくる。だがそれに対して俺たちが何かをするという余裕はない……体育倉庫からは氾濫のようにモンスターが出現してきているからだ。
(好き勝手はさせねぇぞ、モンスター共……!)
モンスターパレード……現代を代表する災害だ。カグヤさんの話を聞いた後では、傍迷惑な異世界の暴走ってところだが、遂に自分たちが直面する日が来たって感じだな……偶然俺たちの目の前で発生したから運が良い方か。おかげで素早く対処を始めることが出来た。
(さぁて、どうします? 周囲を守りながら、この数相手に)
星空が渦を巻いたかのようなゲートからは無尽蔵にモンスターが吐き出され、それぞれが人間に反応して散開しようとしている。その総数はこの僅かな時間で五十を優に超え、今なお勢いが衰えることなく出現し続けている。
(問題無し。このグラウンドから出しやしないさ)
俺がそう言うやいなや、カズサを中心に強力な引力場が発生し、モンスターたちが一斉に引き寄せられていく。
スキル【魔天之災渦】による引き寄せだ。カズサよりも戦闘力が下で、ある程度のサイズのモンスターならば問答無用で接近させることが出来る。
「ちぇやぁああああああ!」
【魔王覚醒】状態からの【星切之太刀】によって刀が変化した二つの三日月を湾曲剣に似た要領で振り回し、近づいてきたモンスターを切り刻む。
……【天眼】で確認したところ、ゲートから出てくるモンスターの戦闘力はかなりまちまちだ。下は15、上は8万。話には聞いていたが、モンスターパレードでは出現するモンスターに基準など定まっていないらしく、炎のオオトカゲから氷の騎士まで、多種多様なモンスターが出てきやがる。
「ギュォオオオオオオッ‼」
8万程度の戦闘力なら何とかなる……んだけど、現実はそう簡単にはいかない。戦闘力11万くらいの、トラに似た大型モンスターが【魔天之災渦】の引力場を振り切り、校舎に残っているであろう人間を喰らいに疾走する。
(こっちは無視して食べやすい方を狙うつもりっすね!?)
(でも、こっちは単騎じゃない!)
そんなトラ型モンスターの首筋に、ある程度避難を終わらせたおマルが牙を突き立て、喉奥から迸る業火で焼き尽くす。
実を言うと、おマルの耳にはピアスの形をした魔法の装備が付けられている。これとセットとなるピアスを介して、おマルに念話を送ることが出来、【魔天之災渦】で引き寄せられない、俺たちが討ち洩らしたモンスターを倒すことを優先させているのだ。
更には【天魔轟砲】での援護射撃も【魔王覚醒】状態ならば可能……俺たちは、今出来る限りの布陣をモンスターを倒しながら構築していく。
(ギルドへの通達は?)
(もうやってる。多分、しばらくしたら冒険者も駆けつけるはずだ)
冒険者は何らかの形でギルドに緊急事態を知らせる手段を持つことを義務付けられている。俺の場合、数回タップするだけでギルドに緊急事態を知らせるアプリを入れてるから、戦闘が始まる直前に片手間で送っておいた。
(ただ、あんまり範囲の広い攻撃は出来ないって言うのが、地球で戦う時に苦しい点だな……!)
極端な話、建物を壊すくらいなら別にいい。異世界から無制限に資源を持ち帰られる現代、物の損壊くらい幾らでも取り返しがつくからだ。モンスターによる被害なら、援助金がたくさん出るし。
だが人命に関してはそうはいかない。見晴らしの良いグラウンドならいざ知らず、誰がいるか分からない校舎や市街地に照準を向けて【天魔轟砲】は撃てない。地面や空に向かって放たれるように、宙を飛び交う火縄銃の射線を調整しなきゃ。
(【滅陽】なんて、絶対に使えないしな……おマル、【地獄門】を発動! 出来る限りのデーモンを召喚し、続いて【スキルリンク】で【ミラージュステップ】をコピーしろ!)
「ウォオオオオオオオオオオオンッ‼」
遠くまで響き渡る遠吠えと共に黒い魔法陣が展開され、戦闘力13万ほどのデーモン3体が召喚。それと同時に力、速度、耐久力を高める粉状のマジックアイテムを使う。
空気に触れた粉は霧のように広がっていき、それに触れたカズサとおマル、デーモンたちの戦闘力を高め、ゲートから出現するモンスターを次々と駆逐していく。
相手が物量戦で行くなら、こっちも数で応戦しなくちゃならない。【悪魔憑き】による超強化で一掃という手も考えたけど、もしそれでも足止めを喰らうようなモンスターが現れたら、他のモンスターを対処しきれないしな。
(結界系のアイテムやスキルで足止めするのが、一番良いんだけどな……っ‼)
そう愚痴りながらスキル発動ボタンを押し、全身から迸らせる半球状の電撃と、追撃の落雷でモンスターたちを光の粒子に変えていく。
スキルは無く、アイテムの持ち合わせもない今、徹底した足止めに関してはギルドからの応援で期待するしかない。とにかく俺たちは、民間人に被害が出ないようにモンスターたちを食い止めなくちゃ。
(でも今のところ順調っすね……このままモンスターが出て来なくなるまで踏ん張れるんじゃないっすか!?)
それからしばらくの間、何十、何百ものモンスターを切り裂いていき、俺の戦意を鼓舞するようにカズサは獰猛に笑う。全身から迸らせる半球状の電撃と、追撃の落雷でモンスターたちを光の粒子に変えていく。
予断は許さない状況なのは確かだけど、出現地点が目の前のゲート一つだけというだけで俺たちからすれば有利だし、【魔天之災渦】で有象無象は逃がさずに倒せ――――
「■■■■ッ!?」
その時、デーモンの内の一体が全身に風穴を開けられて消滅した。
いくら眷属召喚系のスキルで呼び出した替えの利く存在だからと言っても、バフを掛けられた戦闘力13万相当のモンスターがだ。
(……と、そうも言ってられないみたいっすね)
(あぁ。ヤバいののお出ましだ)
ゲートから一体のモンスターが出現する。そいつは、大きさ二メートル半ほどの簡素な造りをした、顔の部分を仮面で覆い隠した木製の人形だった。
一見頼りなさそうな見た目だが……放たれる異様な雰囲気は、他の魔物たちとは一線を画している。
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