高校生は基本未熟で、小学生はもっと未熟なもんなんだよね
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
偶然知り合ってから、ボクは公園で男の子とよく遊ぶようになった。
どうやらこの子はボクと同い年で、小学校に進級してから周りと馴染めずに一人で遊んでばかりらしい。なんといって皆の輪に入れば良いのかも分からず、寂しそうにしているこの子を見て、ボクは一緒に遊んであげることにした。
後々思い返せば、傲慢な考え方だったと思う。僕は別段、この子と友達になって一緒に遊んでいたわけじゃない。一人寂しい彼を憐れんでいただけ……孤児院に住む年少組に対するのと同じ感情で、無意識に上から目線で遊んでいたんだから。
この頃のボクは不思議な事に、大抵の人間は庇護するべき対象、助けるべき対象として見ていた。まだまだ子供のボクに出来ることなんてたかが知れていたけれど、何かしら困っている相手が居ると、ボクが何とかしなきゃっていう強迫観念に似た感情を常に宿していた。
不思議な事に……ボクは気が付けば、全ての人間は庇護対象であるという、見下した観点を持つ嫌な人間になっていたんだ。
『ほら、ボールそっちいったぞー!』
『任せろー! てりゃー!』
……ただ、彼と遊ぶのは楽しくもあった。
この公園ではボクは何者でもない。親を失い悲しみに暮れる子供たちも、多忙に困っている大人たちも居ない、ただボクのことを友達と信じてやまない男の子と過ごす何気ない空間……これまで感じたことのない気楽に過ごせる時間は、年相応の子供になれた気がして、何時しか僕も楽しみに思うようになっていたんだ。
いつも遊んであげている男の子……そんな彼の印象が一変したのは、近隣で注意報が出た時のこと。
何でも、異世界から持ち帰った霊草を飲まされた実験用の犬が突如凶暴化し、研究所から脱走。ボクたちが住む町に迷い込んだらしい。
危ないから外に出ないようにと先生たちに言われて、今日は孤児院を出ないようにしていたんだけど、ふと何時も公園で遊んでいる男の子のことが気になった。
もしかしたら彼は、何時ものようにボクが公園に来るのを待っているんじゃないか……そう思ったボクは、帰り際に公園に寄り道して、彼がいるかどうかを確認してから孤児院に戻ることにした。
『居ない……なら、大丈夫かな?』
彼が通っている小学校でも、犬に対する注意報が出たんだろう。そう判断したボクはそのまま孤児院に戻ろうとしたんだけど、公園の砂土を短い間隔で踏み鳴らす足音が聞こえていた。
『グルルルル……!』
続いて唸り声が聞こえてきて、振り返るとそこには血走った眼でボクを睨みつける大型犬がいた。どうやらこの犬が、研究所から脱走した犬みたいだ。
あぁ……噛まれるな、これは。
ボクは冷静にそう判断した。子供の足で逃げれるような相手でもなさそうだし、向こうも逃がしてくれそうにない。
こんな不運に見舞われたのも、今日無理して公園に様子を見に行ったボクの責任……泣きべそをかかずに、この事態に対処しないといけないと、ボクは背負っていたランドセルを盾にしようとしたけど、まぁ敵うはずもない。
『グルァアアアアッ‼』
『いっつ……!?』
間髪入れずにボクに飛び掛かってくる犬。爪や牙はランドセルで防げたけれど、当時のボクよりも大きな体に押し倒され、背中から地面に倒れ込んでしまった。
このままランドセルを払い除けられて噛まれたり引っ掛かれたりするのも時間の問題……そう思った矢先、ドカッという音と共に犬がボクの上から押しのけられた。
『わぁああああああああああああっ‼』
何時の間にか現れた彼が、持っていたピアニカのケースで犬を叩いたのだ。そこそこ重くて硬いピアニカ入りのケースで殴られた犬は堪らず飛び退いたが、すぐに怒りを露にして彼に飛び掛かり、爪と牙を立てる。
『ぎゃあああああああああっ!? 痛い痛い痛いぃいいっ‼』
『な、何やってるんだ!?』
痛みのあまりに泣き出しながらピアニカを手放し、必死に犬の顔をペチペチと叩く彼を助けようと、今度はボクはランドセルで犬の頭を殴った。ピアニカよりかは痛くないだろうけど、それでも注意を引くことは出来たらしく、犬は彼から牙を放して僕に再び狙いを定めて襲い掛かってくる。
これでいい。犬の敵意を僕だけが引き付けていれば、あの子は襲われることはない……そう思っていたんだけど、彼はボクを追い回す犬に向かって再びピアニカのケースを叩きつけたのだ。
『ひっぐ! えぐっ! や、やべろぉおおおおおお‼ ゔぁあああああああああんっ!』
『バウッ! バウバウッ!』
『ぎゃああああああああああああっ!?』
『危ないから! 危ないからもう逃げろってば!』
真っ赤になった顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら、再び犬に刺激を与えて襲われる彼。そんな彼を何とか助けようと犬をランドセルで殴るボク。
そんな事を何度も何度も繰り返していくと、薬が抜けたのか、それともボクたちに恐れをなしたのか、犬は情けない悲鳴を上げながら公園から逃げ出す。
その場には、引っ掻き傷が出来た腕でボロボロのランドセルを持つ僕と、あちこち噛まれて泣きじゃくる彼だけが残されていた。
『まったく……どうしてあんな無茶をしたんだよ』
『ぐす……えぐっ……だって……だってぇ……』
正直、意外だった。そこまで付き合いが長いわけじゃないけど、彼はどちらかと言えば気弱な人間で、獰猛な大型犬に何度も立ち向かえるようなタイプじゃないと勝手に思い込んでいたから。
泣き続ける彼を慰めること暫く……ようやく嗚咽が収まってきた彼にそう聞くと、彼はたどたどしく話し始めた。
『犬出るって聞いたから教えなきゃって思って……そしたら犬が居て……』
どうやら彼も、ボクと同じ理由で公園に来たらしい。それでボクが犬に襲われてるのを見て、慌てて助けに入って泣かされたと。
『馬鹿だなぁ……それでお前が怪我したら意味ないじゃんか』
彼が犬に襲われないようにしたかったのに、上手くいかないものだ。
どれだけ考え方が達観しててもボクはまだまだ弱くて……お互いがお互いを助けようとして、結局二人して怪我するんだから笑えない。
このまま放っておけるわけもなく、ボクは泣いている彼の手を引いて、家まで送り届けることにした。本当は病院が良いんだけど、携帯電話もないし、場所は知らないし。聞けば彼の家の方が近いみたいだし。
『何度も噛まれて、痛くて怖かったろ? あんまり無茶するなよ』
『ぐすっ……うん。……怖かった…………で、でも……』
不意に足を止められる。振り返ると、彼は相変わらず鼻水と涙で濡れた情けない顔をしていた。
『に、逃げたら……もう友達じゃいられなくなると思って…………! ず、ずっと友達でいたかったから……こ、困ってる友達がいたら、助けなきゃだからぁ……!』
『…………』
たどたどしく紡がれる言葉を聞いて、ボクは少し呆気を取られた。
出来る出来ないかはともかくとして、彼が言ったことはごく当たり前のことだ。子供なりの正義感を口にしただけ……少しひねくれた考えを持っている人間には、きっと響かないような話……友達として、ボクと対等であろうとしただけなんだ。
『そっか……ありがとな、助けてくれて』
『……うんっ……』
彼のことを友達と呼べるのか疑問だった。ここまでの事をしてくれるほど、ボクが彼に何かをした覚えもなかった。……そんなどうしようもないボクの為に、ここまでしてくれる人は誰も居なかった。
誰かのために、誰にも心配を掛けないようにとしてきた自分の振る舞いの結果だ。ボク自身に何かをしてくれる人がいなくても悲観することもなかったけど……いざこうして僕なんかを友達なんて言ってくれて、体を張って助けてくれたことが、不思議と嬉しかった。
これがボクと彼の物語の本当の始まりで、彼と初めて共闘した日のことだった。
ご質問があったのでお答えします。
Q『経済的な世界観がよくわからない。
今の世の中だと、たかが30万ぽっちで超凄いカバンが手に入るなら普通は買うと思うし、多分予約待ちで10年とかそういうレベルになると思うんだけど、小説の世界では全然違うみたいなので経済的に、一般人の年収はどれくらいなの?』
A『冒険者に直接関連する類の職種なら皆大手エリート社員以上の年収がありそうですが、世の中それだけで回ってるわけではありませんからね……異世界研究の成果もあって地球産の品々は大量に生産できるようになり、物価は安くなりましたけど、現実世界にあるような仕事の給金は現実と変わってないのかなって漠然と考えていますね。作者自身、経済にさほど詳しくないので事細かに説明は出来ないんですが』
面白いと思っていただければ、お気に入り登録、または下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを送って頂ければ幸いです




