壁は高ければ高いほど燃えるっていう性分でもないけどさ
感想欄で自然の仕組みを勉強できる、教育系小説になりつつありますねぇ。本当に勉強になりました。
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
「ふっ!」
即座に、【ブースト】を発動させて間合いを詰め、アイゼンに斬りかからせる。開始早々、全速力で繰り出す奇襲染みた先制攻撃。これまで戦ってきた相手ならばまともに食らうか、焦って回避なり防御なりするんだが……アイゼンは眉尻をピクリと動かすくらいのリアクションを取っただけで、長刀で呆気なくガードしてきた。
「彼我の戦闘力差を理解しても尚、躊躇なく飛び込んできたか」
「様子見出来そうな相手じゃなさそうですしね!」
スピードを重視したデュアルモードによる、二振り同時の振り下ろし攻撃。上空から体重を乗せるという位置的優位を取っているにも拘らず、一瞬でカズサの体が押し返された挙句に吹き飛ばされて、鍔迫り合いで完全に押し敗けてしまった。
(何気ない動作なのに、なんつーパワー……! 全然抵抗できなかったっすよ!)
(その辺りは織り込み済みだ……! なにせ、相手の戦闘力が戦闘力だからな!)
アイゼンを除いたトップランカーたちの平均戦闘力は90万以上……戦闘力15万にも満たないカズサは、本来真っ向からの戦闘で勝てる相手じゃない。スタートダッシュからの一撃だって、不意を突ければと思ってやっただけに過ぎないし。
そんなトップランカーたちの中で、最強と呼ばれるアイゼンの戦闘力は、俺たちの想像を絶していた。
(アイゼンの戦闘力は187万9803……! 他のトップランカーの平均の二倍以上ってマジかよ!)
(アタシは十人居ても間に合いませんもんねぇ……そこから常時発動型のバフスキルも含めれば、実数値はもっと高いでしょうし)
はっきり言おう、化け物である。下手をすれば、ディザスターモンスター以上の。
しかも後ろには魔王であるカグヤさんまで控えているんだから、アイゼンという冒険者がどれだけ逸脱した強さを誇っているのかがよく分かる。
(とは言っても、カグヤさんは様子見するみたいっすね)
(ていうか、あの人にまで参戦されたらどう戦えばいいのかさっぱりわからん)
カズサの言う通り、カグヤさんに戦いの意思は感じられない。これはあくまで今の俺たちの実力を確かめるための戦い……過剰戦力で叩き潰すようなことはしないんだろう。実際、俺たちの初撃に対して反撃するでもなく押し返してきた。あれだけの戦闘力なら、俺のコマンド操作も間に合わない早業で戦闘不能直前まで叩きのめすことだってできただろうに。
アイゼンはゼル・シルヴァリオの巨体を一刀両断するが、この戦いは趣旨が違う。殺されるようなことはされないと思うが、手加減されまくっていても、勝てる気はしない。
「……でもっ!」
しかしこれだけの戦闘力差があれば、こちらも遠慮なく攻撃できる。だからこそ【魔王覚醒】という切り札を早々に切ったのだ。
俺は×ボタンを押し、【三段ジャンプ】で上空に控えていたおマルの背中にカズサを飛び乗らせる。翼を持つ巨狼の姿をした地獄の侯爵の口からは、蒼い炎が漏れ出していた。
「ウォオオオオオオオオオッ‼」
超広範囲にわたる火炎放射、【獄炎】。そこから更に、アイゼンが居た場所へと向かって四本の火縄銃を遠隔操作。【天魔轟砲】を同時発射すると同時に、【星切之太刀】によって二振りの直刀を三日月状の紫電の刃へと変化させ、同時に投げつけた。
(これは直撃間違いなしだろ!)
赤黒い四条の光線と、紫電が迸る二つの三日月が地獄の炎を貫き、切り裂く。いずれも当たっても死ななさそうだが、避けられもしないだろう。実際、ローアングルからカズサとは別の視点で戦局を眺める俺の目にも、アイゼンが回避行動をとった様子は見られない。
恐らく、何らかの防御スキルを使ったはず……ブーメランのように戻ってきた二つの三日月をキャッチすると……ふと、あることに気が付いた。
(炎が、渦を巻いている……?)
俺たちのスキルの影響じゃない……【獄炎】の炎が渦を巻きながら、一ヵ所に向かって収束していっているのだ。
「その齢で大したものだ。他の大陸ならば、間違いなく最上の猛攻だろう」
やがて渦を巻いた炎が晴れてアイゼンが姿を現す。
……当たり前の話だけど、冒険者と肉体の耐久力と、身に着けている衣服の耐久力は別物だ。冒険者当人がどれだけ強くても、強力な炎を浴びれば服が燃え尽きてしまう。
だと言うのに、彼が身に纏うどこにでも売ってそうなTシャツとGパンは焦げ目一つない。【天眼】で確認しても、何のスキルも付与されていない、異世界産の耐火性のある服でもない、地球で売ってるような服が、マルコシアスの業火に焼かれなかった。
(マジっすか……何か、こっちの攻撃が利用されちゃったみたいっすね)
割り箸で巻き取られた綿飴みたいに、【獄炎】がアイゼンの長刀に全て絡め取られ、巨大な炎の剣みたいになってやがる。しかもよくよく見て見れば、青い炎の合間合間に赤黒い光も見える……もしかして、【天魔轟砲】ごと絡め取った?
(少なくとも無銘刃のスキルじゃない! 一体どんなスキルを――――っ!?)
「返すぞ」
見極める、暇もない。アイゼンが長刀を一振りすると同時に、長刀に渦巻いていた巨大な炎は竜巻となってカズサに襲い掛かる。
空気を引き裂くことで独特の轟音を鳴らす業火は、咆哮を上げながら向かってくる龍にも見えた。
(緊急回避!)
おマルが旋回することで炎の竜巻を回避することが出来たが、あんまり嬉しくはない。
一体どんなスキルを使ったのかは分からないが、アイゼンは【獄炎】はおろか、【天魔轟砲】まで無効化し、自分の攻撃に生じさせたと考えて間違いないだろう。考えられるスキルの詳細としては、一部遠距離攻撃に対するのカウンタースキルってところだ。
(だが強力なスキルならインターバルが必要になるはず……!)
間髪入れずに、入れ替えた火縄銃四本から同時に極大の光線を放つ。前後左右から襲い掛かるソレに対し、アイゼンは長刀を自分の腕の延長のように目にも留まらない速さで動かし、切っ先で光線を受け流したかと思えば、そのまま巻き取って長刀に纏わせてしまった。
どうやらインターバルらしいインターバルもないらしい。舌打ちしながら再び跳ね返される攻撃を回避し、アイゼンの周囲を旋回しながらどう攻め込もうかと逡巡していると、アイゼンは無銘刃をゆっくりと構えた。
(……ヤバいっ!)
常識が通じる相手じゃない……そんな先入観を持っていたおかげで、おマルをテイムシールに戻すという対処を素早くできた。
まるで鞘から抜き放つ直前の抜刀攻撃を思わせる脇構えから繰り出される一閃。十メートル近く離れた上空を飛ぶカズサとおマルに向かって見えない何かが飛んでくるのを直感で理解する。
ソレがおマルに直撃しようとしたギリギリのところでテイムシールに戻せたが……その見えない何かは、遥か上空に浮かぶ大きな雲を真っ二つに切り裂いていった。
(飛ぶ斬撃のスキル……だが、この威力は……!)
近接戦の天職としては比較的ポピュラーな攻撃スキルだが、威力も範囲も段違いすぎるぞ……!
「モンスターを戻したか……良い判断だ」
「のわっ!?」
当然、落下するカズサをアイゼンが見逃すはずもない。当たり前のようにインターバル無しで二度、三度と飛んでくる見えない斬撃を【三段ジャンプ】と【ブースト】を駆使して何とか回避しながら地上に降り立ち、アイゼンの周りをグルグルと駆け回る。
長刀を振るう腕の動きを見て何とか回避したんだけど……今の一連の追撃でも、アイゼンは手を抜いていた。戦闘力180万以上の攻撃速度が、あんなもんなわけないし。
「どうした? それで仕舞か?」
明らかに俺たちの力を引き出そうという待ちの体勢……このまま遠距離攻撃を仕掛けても、似たような展開になるのは目に見えていた。
頭の中で思い浮かべる勝ち筋が、視線一つ、何気ない動作一つで潰されてしまう感覚に陥る……これが最強の冒険者か……!
(おマルの図体じゃあ、アイゼンの攻撃に対して数の利を活かせない……だったら!)
俺はテイムシールの中に宿る悪魔に、スキルの発動を命じる。
札状のアイテムから噴出する膨大な黒い靄のようなものがカズサの体に纏わりつくと、彼女の両腕を赤い血管みたいなのが脈動する黒いモンスターのような形状に変え、背中からは悪魔の翼のようなものが形成された。
(【魔王覚醒】と【悪魔憑き】同時発動……これが今出せる、俺たちの最高出力だ)
ご質問があったのでお答えします
Q『魔法で作り出した物質は一時的なものですか?それとも永存するものですか?』
A『スキルではなく魔法という表現から、パンドラダンジョンを創造した遠い異世界の魔術師が使った魔法という解釈をさせていただきますが、ケースバイケースって奴ですね。永続的に残るものと、一時的なもの二つが存在します。パンドラダンジョンも魔法で作り出された物質と言って差支えは無いですが、こちらは前者ですね。無制限に資源を生成する惑星規模の物質を作り出すとか、魔術師こそが神だったんじゃと思いますが、どうしてあんな決断に辿り着いたのか。あと補足ですが、スキルで生み出した物質は一時的なものが殆どです。【アイテム調合】のように見方を変えれば永続的なものもありますけどね』
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