視点を変えればヒーローとヒロイン的な二人 ①
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
色々な情報を耳にして、正直混乱している。そんなアタシたちの心境を察してか、お二人は城に泊まって、今日は休むようにと言ってきたのでお言葉に甘えている。
時刻は既に真夜中の一時。基本的に、エネルギーゲージの消耗を抑えること以外では眠りを必要としないアタシは、城の庭園をプラプラ歩きながら月と星を眺めていた。
ユースケは流石にもう眠っているけど、丁度いい。アタシだって、一人で色々と考えたいことくらいあるわけだし。
人類の滅びが直前に近づいていること。それを齎す最強のディザスターモンスター、落日。それを阻止するために生み出された魔王装備。
……そして、今後どうすれば良いのか。国連が、ギルドが、魔王装備を手にしたアタシたちがどうすれば良いのか……それを具体的に聞いて、何を考えても状況が変わらないにしても、一人で気持ちを整理する時間くらいは必要だ。アタシにも、ユースケにも。
「にしても、パンドラダンジョンっすか……この異世界に名前なんてついてたんすねぇ。せめてもうちょっと早く色々と知りたかったっすよ」
名前の事にしてもそう……なぜこんな人類の存亡なんて大それたことが表沙汰にされなかったのか。その理由も一応あるけど、本当にどうしようもないもので……。
「諸々の準備が整う前に死んじゃったってなんすか」
本当ならもっと親切仕様になるはずだったのに、必要なものを集めるだけ集めて整える前に、魔術師がついに限界を迎えて死んでしまったらしい。何万年も生き永らえていたから仕方ないと言えば仕方ないけど、無責任と言えば無責任な話だ。
戦う前の魔王は問答無用で試練を課すだけの存在……戦闘行為以外の行動には制限が掛けられていて、倒されることでようやくその制限が解除されるんだけど、調整がまだ出来ていなくて、事情を話す間もなく消滅してしまうんだとか。
信長が気になることだけを言うだけ言って消えたのはそういう訳か……下手をすれば、世界中の人たちは何も知らずに星ごと吹き飛ばされてたかもしれないと思うとゾッとする。
魔王装備がディザスターモンスターに有効だって言うのも、五十年くらい前に魔王装備を手にした冒険者が偶然発見したかららしい。その人はもう亡くなってしまったらしいけど、ディザスターモンスターの脅威だけは一度の出現で十分に理解できたギルドは、その意思と知識を引き継いで対抗策と解決策を模索し続けた。
この異世界……パンドラダンジョンの成り立ちをギルドが知ったのはほんの五年前……数ある魔王種の中でも例外的なカグヤさんから引き出した情報かららしい。
真っ先に知りたかった情報を聞かされた時には既に後の祭り……五年や十年で宇宙の消滅から全人類を逃がす方法なんてあるわけもなく、ギルドや国連は安定した世の中を再び混乱させないために、秘密裏に問題解決に乗り出したって訳である。
正直、馬鹿と呼ばれても仕方のないことだ。例の魔術師とやらが余計な事さえしなければ、もっと長く人類は生き永らえたっていうのに。
……まぁ、それでもいつかは直面する問題が早まったっていう解釈もできるから、どうにかしようとした事自体は否定しないけれど……もっとこう、引継ぎとかしなかったんだろうか?
「寝ないの?」
「魔術師には頼れる相手が居なかったのかなー」とか考えていると、上から声を掛けられる。ちょっと建物から離れて上を見上げてみると、屋根からアタシと同じように空を見上げているカグヤさんが居た。
「いやぁ、何分人形なもんでして。寝ようと思えば寝れるんですけど、別に寝なくても大丈夫なんでちょっと考えごとを」
「……そう」
ビュゥ……と、風が吹き、光輝く桃色の花びらが散る。
この空間は、常に春のような陽気に包まれている。暖かさと涼しさの中間くらいの温度で、湿気も多くないから凄く住みやすい。地球ではまず拝めない、光る桜のような木は年がら年中花を咲かせているそうだ。
「そっちはお一人……って訳じゃなさそうですね」
よく見ると、カグヤさんのほかにもう一人、誰かが屋根の上で寝そべっているのが見えた。見上げながら話すのも首が疲れるから、軽く跳んで屋根の上に着地すると、そこにはカグヤさんの膝の上に頭を乗せて眠るアイゼンさんの姿があった。
「えー……っと、お邪魔しちゃいました?」
「そういう反応止めて。スルーしてくれないと気まずくなるから。別に邪魔とも思ってないし」
アイゼンさんの頭を膝の上に乗せて、彼の髪を指先で弄ぶカグヤさんの姿が、凄く尊いものに思えた。そんな空間を不躾にも邪魔しちゃった感がしたアタシは早々に退散しようとしたけど、顔を赤くしたカグヤさんに制止される。
「……起こさない内に退散した方がいいっすか?」
「大丈夫よ。コイツ、基本的に害意を向けられない限りは起きないから。逆にちょっかい出そうとしたら、命の保証はしかねるけど」
何それ怖い。まぁ変な事するつもりはないから大丈夫だろうけど……前に漫画で見た、侍みたいな人だな。寝てても殺気を感じ取れるとか、どんなスキルなんだろう?
「コイツが寝るのも珍しいんだけどね……ちょっと、集中力が必要になるかもしれないから、今は少しでも休みたいんだって」
ゼル・シルヴァリオとの戦いでもそうだったけど、戦闘力の高い冒険者は三日三晩平気で戦い続けることが出来る。ユースケがこの場にいない今、アイゼンさんの戦闘力がどれほどのものかは分からないけれど、世界最強と呼ばれるのならさぞ高いんだろうなぁ。
「……良い所っすね、ここは」
街灯要らずの月と星の明かりに照らされた城下町を、城の屋根から見下ろす。気候は穏やかで風は優しい。アタシとユースケが住む街に比べれば人数は凄く少ないんだろうけど、それでも活気があるのは実際に町中を通って分かった。
「ここは……カグヤさんのダンジョンだったんですよね?」
「えぇ。元々は、【英雄】スキル持ちが立ち入った瞬間に記憶を改竄する毒ガスを吹きかけて、永遠にこの町の住民になるか、正気に戻って私と戦うかっていう前振りがあるダンジョンだったんだけど」
「はぁ……そんなことできるんですか?」
「何なら、アンタたちの記憶も私が操ってるのかもよ? なにせこの身は魔王……毒を無効化するスキル程度で、私を止められると思わない方がいい。その気になればアンタたちを操って、何でも言う事の聞く僕にだって――――」
「そんなことをしてるんすか?」
手のひらに毒液を集めて蠱惑的に微笑むカグヤさんにそう聞き返すと、彼女は虚を突かれたような顔をした。
「……してないわよ。してないけど……してるとは思わないわけ? 私はこう見えて何人もの冒険者を毒に沈めてきたんだけど、警戒とかしない?」
「んー……確信があるわけじゃないんすけど、少なくとも人を殺すのとかは本意じゃないんですよね? それに上手くは言えないんですけど……態度とは裏腹に優しそうな感じですし、相手が嫌がることを率先してやるタイプじゃなさそうだなーって……アタシの思い違いですかね?」
話を聞く限り、冒険者と戦うのは強制されてたところがあるみたいだし。大体、本当にアタシたちに危害を加えようなんてする人が、親切に大陸の外に送り届けようなんて言い出すはずもないし。
「……これだから【英雄】スキル持ちは。どうしてこうも毒気が抜ける奴ばっかなのよ……」
なんだかよく分からないけど、上手く言い返せたらしい。
「まぁ……その通りよ。折角出来た新しい故郷を、踏み入った瞬間に毒を盛られる町だなんて思われるのも癪だし」
「……故郷っすか?」
「この町は、私の生まれ故郷を再現した場所で、ここに暮らす獣人たちは、皆私の顔見知りばかり……感覚としては、壊れた故郷を違う場所に再建したって感じ。場所が違っても、住む連中が同じなら大して変わらないもんよ」
故郷……それは道具として作り出され、記憶のないアタシには縁のないものだ。本当に大切な物を眺めるような視線を横から見ていると、少し羨ましい。
「お察しの通り、私だって元から魔王だったわけじゃない。かつてパンドラダンジョンと繋がって、落日に滅ぼされた、獣人という人類が栄えた世界に生きた一人の女……それがいつの間にかこんな風になってただけ。……正直、色んなものを呪ったもんよ。この町の営みのように、ただ平和に暮らしていたかっただけなのにさ」
当たり前のようにあった、かけがえのないものが突然の理不尽に奪われる……それは一体どのような苦しみだったんだろう?
きっと想像を絶して余りあるはずだ。アタシにとってユースケを失うのと同じように……下手をすれば、それ以上に。
「それでも何とか住民たちの魂だけは私自身に封印し、保存して仮初の肉体を与えることは出来たけど、それも魔王としての試練を超えられて私が消滅すると同時に二度目の死を迎えるだけの筈だった。だから私は必死に守り続けてきたんだけど……それでも負ける時は負ける。アイゼンに負けて、この町もろとも今度こそ完全な消滅を迎えるんだって思ってたんだけど……まさかこんな形で生き永らえるなんて、思いもしなかったわ。マジックアイテムやオーブの出現に関してはブラックボックスな部分が多いけれど、まさか魔王を使役できるのまであるなんてね」
本来、魔王種とは攻略されると同時に消滅するはずのモンスターの筈だったが、アイゼンさんはテイムシールによって消滅を防ぎ、結果として重大な情報をギルドに与えることが出来たという。
アイゼンさんとカグヤさん。この二人の間に一体何があってこの場所で開拓作業をしているのか、何があって今の関係に落ち着いたのかは分からないけれど、どれもカグヤさんにとって大切な思い出なんだってことくらいは、目に見えて分かる。
アイゼンさんの頭を両手で包むカグヤさんは、これ以上に無いってくらい幸せそうだから。
「……話過ぎた。忘れなさいな」
「はい。了解っす」
元から他言するつもりもない。色々と込み入った話を聞きたいって気持ちはあるけど、これ以上は野暮ってものだろう。アタシはその場を静かに後にしようと立ち上がり、屋根から飛び降りようとした瞬間、再びカグヤさんに呼び止められる。
「ねぇ……私からも良い? ずっと気になってたことがあるのよ」
「はい、何でしょう?」
「……本来【英雄】のスキルは、一部の人類がスキルカードを宿すことで発現する先天的な素質。一時的にコピーすることは出来ても、後天的に会得できるようなものじゃない。ましてや、強化槌で物に付与するみたいなこと、出来るはずがないんだけど……その前提を、アンタは覆した」
そう告げられるアタシは、何も言い返せず、何も考えられずにただカグヤさんの目を見つめ返す。
「これはパンドラダンジョンを創造した魔術師と面識のある私ですら知り得なかった事態……記憶を失っているとは聞いていたけど、その失われた記憶に何か重要な鍵が眠っているんじゃないかって考えたくなる」
ただ不思議な事に、アタシの脳裏にとある光景がフラッシュバックする。
地球じゃあ何処にでもありそうな町並み。人気の少ない寂れた公園。ニュースで流れる注意報。
「ねぇ……アンタは一体、何者なわけ?」
そして、獰猛に吠える見覚えのない一匹の大型犬の姿が頭に蘇った。
ご質問があったのでお答えします
Q『太陽熱関係のディザスターモンスターは産まれますか?(倒すと病原菌が激減するみたいな)』
A『人類が滅びうる要因なら何でもありますね。落日という名称から、最初は太陽系のディザスターモンスターにしようと思ったんですけど、魔法という技術が発展が続ければ、いずれ太陽の熱すら耐えうる何かを生み出すことが出来るかもしれないと考えたので、よりインパクトがあって生命維持の基盤という超新星爆発にしました』
Q『でも、太陽って超新星爆発しないタイプの恒星じゃなかったでしたっけ?赤色巨星→白色矮星で最終的には冷たくなる感じの
落日というなら、赤色巨星になって膨れ上がったときに地球を飲み込むタイプの厄災とかにした方がいいのでは?』
A『あぁ、誤解されているようなので訂正させていただくと、太陽の爆発を司るディザスターモンスターじゃなくて、地球のような人類が住む星の超新星爆発を司るディザスターモンスターが落日なんですよ。……ただまぁ、ご指摘にあった内容は非常に興味深くもあります。もし書籍化した時、設定の改変も考えたくなるくらいには』
Q『台風にもメリット・デメリットあるのに殺しちゃうなんてかわいそう』
A『台風のメリットとは一体……如何せん、作者に学がないもんでそこら辺の事情ってあんまり分かんないんですよね。ただまぁ御都合展開よろしく、上手い事調整が入るって思ってくだされば幸いです』
Q『なんか急に規模が大きくなったんですが、太陽が膨張して地球が飲まれるとか、太陽の寿命とか、資源の枯渇とかもモンスターになる感じですか?超新星とまで行かなくともその時点でどうしようもない気がしますが・・・。』
A『太陽関係、資源の枯渇もまたディザスターモンスターとして具現化する可能性はありますね。ただ、マジックアイテムやスキルと言う存在が導入されたことで滅びの要因もまた変わってくるのでね。現実世界の観点が必ずしも通用するわけでもないですし、少なくとも、資源に関してはパンドラダンジョンから際限なく調達できますし』
Q『問題が起きる頃ではなくて、遥か先の問題も前借りしてモンスター化するんでしょうか?もしそうなら何がしたいの?って、感じですが・・・。あと見逃してたら申し訳ないのですが、その辺の説明は重要だと思うので強調していただけると・・・。
それとも人類が気づかなかっただけで、もうすぐ爆発しますよって状態だったり?』
A『ディザスターモンスターはこの先起こる人類が滅びかねない大災害を前借して顕現するという認識で合っていますよ。作中にも書かれている通り、本当に傍迷惑な魔術師です。まぁ何がしたかったかと言えば、いずれ人類を滅ぼす要因を何とか取り除きたかっただけなんでしょうけどね。』
Q『原因を解決しないのにモンスターを倒すだけで砂漠化とかが解決するってイメージが難しいのですが、例えば過度な伐採による砂漠化とかは伐採を続けても何故か木が生えてることになるとか?それともモンスターが生じた時点で伐採してる人たちがいなくなるとか?』
A『砂漠化のディザスターモンスターを倒すことで、どうやって砂漠化が無くなるのかですが、ご指摘にあった通り、木がウニョウニョと生えてくるというのも考えましたが、折角異世界に広がる大自然があるんですから、ここは地球では考えられないようなトンデモ植物が地球でも生えるようになるって言うのがベターかなと。異世界……パンドラダンジョンの中途報酬的な感じで。』
Q『災害になるエネルギーをモンスターとして消費します、までならなんとなくそれっぽく感じられるのですが、エネルギーが枯渇しますみたいな要因がモンスター化で解決するのはちょっと意味不明な感じです・・・』
A『ディザスターモンスターというのは倒すことで世界の理に干渉し、これから生じるはずだった天災が起きなくなるように世界を改変する、魔術師が生み出した一大儀式。
より分かりやすく、簡潔に説明するなら……大魔法の力で何とかしたってところですかね。魔法なんて言うファンタジー要素が強く絡んだ世界観で、現実的な視点を追求しまくるとキリがないですし』
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