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スライムとゴブリンは異世界のスーパーアイドル

設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。


 女冒険者パーティを助けたその日に戦闘力を70に上げ終えた翌々日。昨日はこれから攻略する予定のダンジョンの情報収集やアイテム補充、そして昼から夕方、今日の朝にかけて、異世界でバスターモードの試運転をしていた。


(やっぱり、デュアルモードと比べれば操作性に劣るけど、少しは様になったかな?)


 大剣の切っ先がブォンって音を立てながら綺麗な弧を何度も描く。

 長物の武器を操る有名冒険者の動きや、モンスターバスターの大剣アクションを参考にし、俺は長い柄を利用した、腕だけじゃなくて全身を支点にして操るようにイメージして木偶人形を操作したら、素人目ながらに結構様になってきたと思う。銃撃の反動も全身で支えてやれば安定するようになったし、戦闘力が上がっていけばもっと自由に使えるだろうしな。

 普通の冒険者なら日数をかけてモノにする武器の扱いだけど、俺のイメージに反映してかなり早い段階で技術をモノにできるのも、【木偶同調】の良いところだ。 

      

(そんじゃあ、そろそろ行きます?)

(あぁ、行こう。吉備(きび)ダンジョンへ)


 最終チェックを諸々済ませると、俺は木偶人形を操作して、十七支部のゲートから一番近いダンジョン、吉備ダンジョンへと向かう。

 吉備ダンジョンはこの辺りの冒険者たちが最初に挑戦するダンジョンで、数多く存在するダンジョンの中ではかなり攻略しやすい部類だ。

 とは言っても、出てくるモンスターはランイーターよりも厄介な部類ばかりで、何の下調べもせずに向かうと、推奨戦闘力を満たしていてもやられる可能性があるらしい。

 まさに冒険者の登竜門的なダンジョンだ。事前にシミュレートしていても、雑魚モンスターに無様に甚振られていた身としては、思わず手に汗が滲む。


(マスター。大丈夫っすか?)

(……大丈夫だ)


 一旦コントローラーを放し、手を何度かグーパーして再びコントローラーを握る。

 気が付けば既に吉備ダンジョンの前。全体が蔦や木の根に覆われた古びた遺跡に入ると、そこは外観からは想像もできない、長い武器を振り回しても支障がなさそうなくらい広大な石造りの通路が続いていた。


(この奥にボスモンスターってのが居るんですよね? で、そいつを倒せば迷宮踏破と)

(そ。何度倒しても復活する奴がな)


 例外はあるけど、迷宮の踏破条件は一番奥まで行って、ボスと呼ばれるモンスターを倒す事。

 このボスモンスターはダンジョン近辺の雑魚と比べればかなり強いというのもそうなんだけど、最大の特徴はどれだけ倒しても、人間がダンジョン内から居なくなれば、同じ場所に再度現れるという事と、確定でスキルカードと魔石、アイテムが入った宝箱の三つを落とすという事だ。


(だから強くなるには、在野のモンスターを狩るんじゃなくて、ダンジョンを周回することが基本だな)

(ほうほう。つまりアレっすね? 一番奥に引き籠ってるだけの基本無害なモンスターのところに何度も行って殺しては帰るのを繰り返しまくればお金も戦闘力もウッハウハってことですね?)

(その言い方は凄く引っ掛かるけど、まぁそう言う事だ)

  

 だが、俺がこの吉備ダンジョンを選んだのは、一番近くて手頃な攻略難易度だからというだけじゃない。

 

(なんとここのボスが落とす宝箱には、確定でスキルオーブが混じってるんだよ)

(おぉー!)


 もちろんどんなスキルオーブかは開けてみないと分からないし、事前に調べて見たところ、ランクの低いダンジョンのボスなだけあって大したものじゃないという情報が大多数だ。

 それでもスキル自体が少ない新人自体では使えるものも多いと聞くので、俺はその辺りに賭けている。


(よーし! そうと決まれば早速行ってみましょー!)


 意気揚々な様子の木偶人形を動かし、ダンジョンを進んでいく。

 構造的にはちょっとした迷路みたいな吉備ダンジョン。薄暗くて広い通路の中を、カツーン、カツーンって足音を響かせながら、俺は事前に得た情報を頭の中で確認していく。

 えっと確か……このダンジョンで出てくるモンスターは――――


(マスター! いきなり出ました! モンスターっす!)

(え!? もう!?)


 ダンジョン突入から一分足らず。早速のモンスター遭遇に目の前のホログラム画面を見て見ると、そこには4匹の緑色の小鬼……ゴブリンがそれぞれ武器を構えていた。


(ふぉおおおおおおおっ!! ゴ、ゴブリンだ!!)

(生ゴブリンっすよ、生ゴブ!! やばやば、写メ写メ……って、アタシスマホ持ってないっす!)

(興奮するのは分かるけどまた今度にしてくれ!!)

  

 ゴブリン系のモンスターは大抵のダンジョンに現れる種族で、その知名度はランイーターなんて比べ物にならない。地球でも、デフォルメされたゴブリングッズなんて物があるくらいだ。実物を見てしまうとテンションが上がってしまうミーハー魂をどうか許してほしい。

 まぁ実際のゴブリンはマスコットなんて言うのとは程遠い凶悪な生物で、常に前衛が二匹、後衛が二匹のチームで動く厄介な存在だ。木偶人形の前に現れたのは、それぞれ剣と大盾を装備したゴブリン二匹、弓と杖を装備した後衛二匹だ。


(厄介な後衛から潰すぞ!)

(あいあいさー!)


 戦闘力70.その常人とは比較にならない能力で木偶人形が天井スレスレまで跳躍し、突っ込んできた前衛二匹を回避すると同時に斜め上から後衛のゴブリンを二匹纏めて魔力弾を浴びせまくる。

 知能とチームワークがある分、閉鎖空間であるダンジョンではランイーターよりも格上のモンスターだけど、個々の戦闘力に大差はない。無数の弾丸を受けた後衛二匹は為す術もなく倒れて光の粒子と化す。


(そんでもって……!)


 そのまま落下の勢いを加えたまま、【モードシフト】を発動。巨大な大剣と化したガンブレードに全体重を乗せて大盾のゴブリンに叩き込んだ。

 粗末な木の盾は砕け、ゴブリンの頭を割ると同時にすぐさまガンブレードを素早く振り回せるデュアルモードに変形。最後のゴブリンを斬り裂き、ダンジョンの初戦は呆気なく終わった。


(いきなり【モードシフト】を活用するなんてやるじゃないですか、マスター!)


 木偶人形からの称賛が俺の耳に心地よく響く。守りが固そうなゴブリンを見た時に咄嗟に思い付いた攻撃だったけど、いきなり上手くいって驚いてるのは俺の方だったりする。

 もし俺が実際にゴブリンと戦う立ち位置だったら、経験もなくあんな上手くいくわけがない。やっぱり、ゲームをするかのように木偶人形を操るスタイルが、俺の性に合っているみたいだ。


(マスターマスター! ゴブリンの落とし物にスキルカードが混じってるっすよ!)


 そして運の良い事にゴブリンはスキルカードを一枚落としていた。魔石を回収し、スキルカードを木偶人形に取り込ませてみると、戦闘力が74に上がる。

 ゴブリンのスキルカードが一枚で戦闘力が2上がるから……ちゃんと【アイテム強化】の効果が発揮しているみたいだ。


(幸先良いっすよ、マスター! この調子でガンガン行こうぜ、です!)

(バカ! そこは命は大事に、だろうが! ていうか、お前そんなネタ何時の間に仕入れたの?)

(インターネットで)

(コイツ……! たった数日でインターネットまで使いだすとは……!?)


 明るい調子の木偶人形に釣られて、俺もついつい笑ってしまう。

 自分で言うのもなんだけど、俺はどちらかと陰キャだ。二村や八谷みたいな馴染みのある相手ならともかく、余りよく知らない相手に明るい感じで話しかけられないんだけど……なんなんだろう?

 ついこの間知り合った木偶人形。コイツの事を俺は殆ど分かっていないのに、彼女とはまるで長年の友人とふざけ合うように話せるんだよな。


   =====


 幸先よくダンジョンを進んでいく木偶人形。ゴブリンとの戦闘を終えてしばらく進むと、そこには青いゲル状生物の群れが道を塞ぐように密集している。あれは……もしや!? 


((ス、スライムだぁあああああああ!!))


 ゴブリンと並ぶ、異世界の代表的モンスター、スライムの登場に俺と木偶人形は思わずテンションが上がってしまう。ちなみに余談だが、このスライムにもデフォルメされたグッズが販売されたりする。


(生スライムっすよ、生スラ!! やばやば、写メ写メ……って、アタシスマホ持ってないっす!)

(二番煎じのやり取りはしねぇよ!?)


 スライムの弱点は、ゲル状の体の中心にあるコアだ。とりあえず接近し、右手のガンブレードを思いっきりスライムに叩き込んでみたけど、ズブリという鈍い水音を立てて勢いを殺され、剣はコアにまで届かなかった。


(やば……何か近付いてきたっす! マスター離れて!)


 慌てて剣を引き抜きながらバックステップで距離を取る。

 スライムの特徴は軟体を活かしたズバ抜けた防御力だ。攻撃系のスキルが無いと詰むとまで言われていて、初めてダンジョンを攻略する冒険者が苦労する話をよく聞く。

 その反面、敏捷性は無く、攻撃能力にも乏しい。精々、群れで襲い掛かって冒険者の全身を取り込み、窒息させつつゆっくり消化する程度だとか……いや、これも十分怖いな。考えただけで恐ろしい。


(とは言っても、相手は最下級のノーマルスライム。【チャージショット】や【オーラブレード】を使わなくても……)


 俺はガンブレードをバスターモードに変形させると、その大口径の銃口をスライムの群れに向けて――――


(吹き飛びなぁああああああっ!!)


 ドガガガガガッ!! という凄まじい連射音がダンジョン内に反響し、スライムの群れがビチャビチャビチャアッ!! って音を立てながら飛び散り、コアを砕かれていく。その威力は人の手で持つマシンガンというよりも、戦闘機とかに備え付けられているガトリングを思わせるものだった。


(おおおおおおっ!? これは爽快! なんか爽快な気分っす!!)

(分かるか!? お前にもこの爽快感が分かるかぁっ!?)


 ゲームとかでも、遠距離から敵の大群に向けてガトリングを無限連射するのは言い表しがたい快感がある。それを実体験している木偶人形が感じる快感は俺の想像を絶するだろう。


((ヒャッハー! 汚物は消毒だぁあああああああああああっ!!))


 そして三十秒足らずでスライムの群れは全て光の粒子となり、大量の魔石と四枚のスキルカードを残して消えていった。


(最初は使い難そうだとかなんとか言って、強いじゃないっすかバスターモード! もうこれをブッパしまくるだけで良いんじゃないっすか?)

(うぅん……)


 正直、俺もそれは考えた。でも今後のことも考えると、バスターモードでガトリングをブッパし続ける戦法が通じる相手ばかりじゃないと思う。


(やっぱり、どんな状況にも対応できるようにデュアルモードや大剣での戦い方も鍛えた方が良いと思うし、何よりこれまで培ってきた双剣や双拳銃のノウハウが勿体ない。コントローラーを握る側の立場から言えば、やっぱり素早い立ち回りが出来る方が動かしやすいし)


 改めて今後の指針を見つめ直し、俺はスライムのスキルカード一枚を木偶人形に取り込ませると、戦闘力が80になっていた。

 スライムのカードで上がる戦闘力は、【アイテム強化】込みで6か。残り全てを取り込めば、戦闘力は98。あっという間に三桁が目前だ。

 ダンジョンの戦闘力が上がる速さに満足しつつ、俺は悩むことなく残りのカードを全て取り込ませ、ダンジョンの更に奥へと進んでいった。



ご質問があったのでお答えします。


Q『そういえば、木偶人形に名前とか付けてませんでしたね。見た目は美少女でここまで意思疎通できるのに、文中での呼び方がずっと木偶人形のままなのが自分は少し気になりました』

A『木偶人形のステータスを確認してもらえば分かると思いますが、名前のところが空白になっています。流石に何時までも名無しという訳ではないので、温かい目で見ていただければと』


Q『主人公めちゃくちゃチートじゃないですか!ただ、結局これも本人限定チートというね。気になるのは他のアイテムマスターが通常の木偶に対してステータスアップを使って将来的に木偶が使い物になるのかどうかですね。使い物になるようなら他のアイテムマスターたちにもワンチャンあるのかな?』

A『先にこれだけは言っておきますが、無理です。詳しくはネタバレになるので言いませんが……九々津雄介が“この〟木偶人形を使ったからこそ、成長する木偶人形になったと言っておきましょう。通常の木偶人形ではどう足掻いてもスキルカードで戦闘力を上げられません。あと、ヒロイン自体もかなりのチートだと思うんですよね。雄介次第なところも大きいですけど、肉体の損傷やスタミナはほぼ気にする必要なしで、操作アクションはイメージに反映されるから大した訓練も必要なしで高いパフォーマンスを発揮できますし』


Q『「見たところ天職ジョブは槍使いに弓使い、魔術師か」……弓使いどこから出てきたの?』

A『ごめんなさい、普通に添削ミスです。修正しておきましたので、どうかご容赦を』


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[気になる点] 主人公自体も戦闘力強化しますか?本人もいずれは強くなって欲しいです。
[一言] このダンジョン確実にスキルが手に入るのなら、入り口に順番待ちしてる人がいておかしくないような。 読み進めていけば本文なり後書きなりに説明入るんでしょうか。 そのうち木偶人形にもちゃんと名前…
[良い点] 歩きながらコントローラー持ってるシュールな感じは良いね [気になる点] うーん 自分自身も多少は強化しないとスタミナ切れになって歩き回るのがキツイのでは? [一言] 世界観としてはモンハン…
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