ようやく異世界に名前が付きました
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
人工的な世界に出現する魔王も、ディザスターモンスターを倒すために、やっぱり魔術師に生み出された存在だったのか。これまでの話を聞けば意外には思わないけど……異世界の創造といい、魔王を生み出したことと言い、どれだけとんでもない奴だったんだ。
「人類や、それが作り出したものの中に極僅かに存在する、自然の摂理という名の神を滅ぼしうる因子と呼べるものを取り込むことで、受肉した滅びの要因であるディザスターモンスターを殺すことができる、後に魔王装備と呼ばれる武具を生み出した」
神を滅ぼせる因子を秘めた、人間由来の存在……俺たちが倒した信長や、獅子村さんが倒したというヴリトラも神の敵対者と言う逸話や伝承が残っているけど……そういう神話や歴史で神というモノに敵対した存在が、ディザスターモンスターを倒せる因子を持っていたって事だろうか?
異世界が地球からの情報に影響されているのも、魔王装備の材料となる存在を取り込むために……?
「とまぁ……そこまでは良かったんだけど、作り出された武器や防具の数々は強い力を秘めているにも拘らず、誰にも扱えることが出来なかった。魔王装備は人類に扱える代物じゃなかったのよね。しかも魔王装備一つ一つ、求められる素質が違ってきているって分かった時は、魔術師も頭を抱えて一日中転がり回ったらしいわよ」
「えぇー……そんなん有りですか?」
「無しって言いたいけどねぇ……はぁ」
そりゃあ頭を抱えたくなるだろうけど。……それにしても。
「らしいってことは、これまでの話を人伝に?」
「ん……まぁ当の本人にね。初めて会った時は聞く耳もたずに力一杯ぶん殴ってやったけど」
一体何があったんだ?
「まぁ使えないからって簡単に諦められるわけもなく、そこから更に試行錯誤した魔術師は、人間の中でも魔王装備を扱える限られた素養……冒険者風に言うところの、先天的なスキルである【英雄】を持つ者を、魔王装備を扱う事が出来るように最適化する儀式を編み出した」
それを聞いた時、俺の脳裏に信長との戦いが過る。
「それが魔王種。私たちと戦い、勝利することを条件に、【英雄】のスキルを持つ冒険者が魔王装備を扱えるように最適化し、それと同時に見合った魔王装備や情報を与えるためだけに生み出された試練。つまるところ、二百年前から今日まで冒険者たちが繰り広げてきた戦いは、いつか必ず訪れる滅びから人類を救うために魔術師が綴った物語よ」
……正直、思ったよりも壮大な話で頭が付いて来れないところがある。
大変なことに巻き込まれたとは思っていたけど、まさか人類の命運と、これまで滅ぼされたい数々の世界の無念とやらを、俺たちが背負う事になるだなんて流石に思っていなかった。ギルドどころか国連まで絡んでくるのも当然だろう。
「でも、本当にそんなことが出来るんですか? ゼル・シルヴァリオから察するに、人間を滅ぼす天災って、要は自然災害全般でしょ? それをどうにかするなんて、いくらなんでも荒唐無稽にしか聞こえないんですけど……」
多分、ゼル・シルヴァリオは氷河期を具現化した存在だ。確かに奴は存在するだけで大陸を氷と雪で覆い隠すような強大な存在だったけど、あれを倒したからって氷河期が訪れなくなるなんてことあるのか?
「それに関しては、可能性が高いと国連は判断している」
そこで口を挟んできたのはアイゼンだった。
「今から約二十五年前、《御堂冒険会》の会長、御堂万太が台風を司るディザスターモンスターを倒したのをきっかけに、地域を問わず人的被害を出すほどの台風による風害や水害が発生しなくなった。少なくとも俺以下の世代の者たちは、台風で命を落とした者はいないらしい」
「星の内部で起こる自然災害は、文字通り害が大きいけれど、何らかの恩恵をもたらすことも多いからね。良いとこ取りが出来るように、星の仕組みそのものを組み替えてんのよ」
それはまさしく神に等しい所業だ。一連の出来事を仕組んだ魔術師も元を辿れば人間だったはずなのに……一体どんな奴なんだろうか。
「他にも温暖化やら砂漠化やらを司るディザスターモンスターを倒してからは、その手の問題も一気に解決したみたいだしね。少なくとも、ディザスターモンスターを倒すことで人類にとっての災害が発生しなくなるのは確かだって、災害対策をしている政府関係者が言ってたから間違いないわよ」
……そう言えば、前にネットでチラリと見た気がする。ここ数年、氾濫を起こすほどの台風が無くて作物が良く育つとか何とか。
ここで二人が嘘を吐く理由もないし、ディザスターモンスターが災害という概念を具現化した存在なら、それを倒すことで対応した自然現象が引き起こす災いをこの世から消し去ることも出来るというのも、嘘じゃないかもしれない。
そもそも、異世界と繋がっている今の世の中も、大昔の常識からかけ離れてるんだし。
「それじゃあちょっと聞きたいんですけど……落日って、何ですか?」
【天眼】で確認できた魔王種……信長やカグヤさんの説明文にもあったキーワードだ。信長の口ぶりからも察するに、恐らくかなり重要な事だと思うんだけど……カグヤさんの顔を見る限り、どうやら間違いないらしい。
……思い出したくもないものを無理矢理思い出すかのような、苦渋に満ちた顔をしている。
「どの世界の人類も、生きることに貪欲なもんよ。温暖化も旱魃も、大雨や大嵐も、時間を掛ければどうにかできてしまうだけの知能と技術を秘めている……ただの自然災害だけで、人類を滅ぼすには難しいのかもしれない。でもね……生きる基盤を失ってしまえば、どんな生命も生きてはいられない」
そういいながら、カグヤさんは手のひらの上に液体……多分毒液の泡を生み出し、それを握り潰す。
「落日って言うのは、隆盛を極める宇宙の消滅……世界線ごとにビッグクランチとか、熱的死とか違いはあるけれど、それの具現化である最強のディザスターモンスターの通称なのよ。……そして私の経験論から言って、それが顕現する時は近い」
思わず、息が詰まって何も言えなくなった。スキルやマジックアイテムの力でもどうしようもない、人間の手では免れることが出来ない大爆発がもうじき訪れるなんて言われれば、誰だってそうなるだろう。
「元々、ディザスターモンスターは一体ずつ、極稀に現れる怪物だった。それが二体同時に出現し、頻度も多くなり、しまいには三体同時に現れるようになった……私の時もそうだったように、これは危険信号と捉えてもいい。このまま手をこまねいて落日の顕現を許せば、もうどうしようもない。奴が放つ力はゲートを通じて宇宙に影響を与え、命の星を宇宙もろとも握り潰すでしょうよ。……アンタたち人間は、その前にクソッたれな魔術師が作り出したこの異世界、正式名称パンドラダンジョンを攻略しないといけないのよ」
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