彼女は魚を殺せる釣り餌なんだぜ?
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
これはヤバい……黒い全身に赤い紋様が浮かんでいる、巨大な一つ目を持つイルカをみて、俺は冷や汗をかいた。
外見や【天眼】で見た情報から察するに、地球で言うところのイルカのようなソナーの役割を果たすスキルを持っていると考えていいだろう……あと少しと言うところで、嫌な敵に見つかってしまった。
「おマル! 逃げて! 超逃げてください‼ 【神速】もコピーして!」
俺が何かを言う前に、全てを察したカズサが、俺がしてほしかったことを全ておマルに伝えてくれる。
【スキルリンク】によってブレスレットに秘められた【神速】スキルを得たおマルの飛行速度が急速に上がり、グランドデス・ドルフィン……長いから化けイルカでいいか……からひたすら距離を取るが、文字通り地面を泳いで追いかけてる化けイルカの遊泳速度の方が早いか。
(このままじゃ追いつかれちゃいますね……どうします?)
倒す……と言う選択肢はない。
化けイルカ一体だけならどうにかなるかもしれないが、他のギガントモンスターたちもそう遠くない場所にいるのだ。モンスターが人間を優先的に殺そうとする習性がある以上、戦闘になって迷彩竜の大風呂敷が外れれば、ギガントモンスターたちは持ち前の人間に対する探知スキルで俺たちの存在に気付き、一度に複数隊のギガントモンスターと戦う事になるだろう。
(…………そうだな)
だが、俺だっていつまでも危機に狼狽えるばかりじゃない。驚異の矢面に立ち、俺の剣になってくれるのがカズサなら、危機を乗り越えるために考えて行動に移させるのは俺の仕事だ。もう、狼狽えるだけの高校生じゃない。
その証拠に、この状況下にあって俺は結構冷静に物事を考えられている。
(とりあえず、おマルにアイテムで出来るだけバフを掛ける。多分それでも足りないだろうけど、少しは時間が稼げるはずだ)
【アイテム強化】の恩恵までは与えられないが、【アイテム使用動作キャンセル】で、ありったけの強化アイテムの効果を即座に発揮させることができる。これによってさらにおマルの飛行速度が上がったが……それでもまだ少し化けイルカの方が早い。
無効モスの身体能力を向上させるスキルを持っているだろうからこれは想定内だが……どうしたものか。
(【天眼】で確認する限り、一度狙ってきたからには俺たちを逃がさないだろう。戦えば間違いなく周囲のギガントモンスターが呼応して襲い掛かってくる……なら、倒せる人に倒してもらえばいい)
俺の思念に反応し、カズサから動揺と疑問が伝わってくる。
(そんな都合の良い人、一体どこにいるんすか?)
(いるだろ? こんな危険地帯に住み着いてるとんでもない人が!)
(あぁ、なるほど!)
アイゼンならこの状況下でも何とかしてくれる。そうと決まれば、逃げる先は一つ!
「おマル! アイゼンの拠点に向かって逃げてください‼ そこであのでっかいイルカを倒してもらうっすよ‼」
違う方向へと逃げようとしていたおマルは進行方向を修正し、アイゼンの拠点がある方角へと向かう。ギガントモンスターが現れた時などの危機に、他の冒険者に助けを求めるのは至極当然だ。
問題点があるとすれば、アイゼンが不在の場合だけど……希望的観測に賭けて行動しても損はないはずだ。最悪の場合ばかりに囚われて何もしないよりマシである。
(ただ……この速度は……!)
アイゼンのところに辿り着く前に、間違いなく追いつかれる。
ならば上空へ逃げるべきだと高度を上げてみれば……驚いたことに、化けイルカも地面から飛び出して、空を泳ぎ始めた。
(高い戦闘力を持つギガントモンスターなだけあって、スキルも豊富らしいっすね!)
(そんなことは分り切ってたから期待はしてなかったけど……って、やべっ!?)
特に予備動作のようなものがあった訳じゃない……ただ、【窮鼠の直感】が告げる大雑把な予感。それが正しいものであると証明するかのように、化けイルカの巨大な単眼から無数の光線が放たれた。
緩やかな軌道を描きながらも、確実にカズサたちを追尾する光線の弾幕。おマルは持ち前の飛行能力で回避するが、それも完璧じゃない。一発、確実に当たるタイミングと軌道を描いて、光線がカズサたちの方に向かってきている。
(やるしかないか……!)
当たれば間違いなく撃墜される……そう判断した俺はコマンドを入力し、迷彩竜の大風呂敷を【アイテムボックス】に仕舞い、バスターモードに変形させた魔王銃剣で光線を弾いた。
「くぅうう……手が、ビィンって痺れました……!」
見るからに数撃ちの攻撃を一発弾いただけでも結構負担が大きそうだが……最大の問題は、他のギガントモンスターがカズサたちの存在に気付いて、こちらに向かってきていることだ。ホログラム画面に映るローアングル視点で確認できる範囲では、新たに二体のギガントモンスターが向かい側から突撃してきている。
化けイルカも遠距離攻撃スキルがあれだけなんて考えられない……カズサたちと距離を詰めるために、更に攻撃をしてくるのは明らかだ。自力で逃げ切るのは不可能だろう。
(だが……これはチャンスだ! カズサ、おマルに指示を‼)
前方から向かってくるのはカマキリ型のモンスターと、棍棒を持った巨人だ。外観から見ても近接戦が得意そうな奴だ。こいつらを利用すればいい。
指示を受けたおマルが低空飛行に切り替えると同時にコマンドを入力し、アンドロメダの鎖をおマルの胴体に巻き付ける。そしてそのままおマルの背中を蹴り、【ブースト】で巨人の方へと一気に距離を詰めさせた。
「オオオオオオオオオオッ‼‼」
どこまでも伸びるアンドロメダの鎖を手首に繋いだカズサが足元に近づいた巨人は彼女を蹴り上げようとし、巨大カマキリも進行方向をカズサの方へと変更。それと同時に化けイルカは紫色の衝撃波のようなものを放ってきた。
こいつらモンスターは、人間を殺そうという共通目的があるものの、協調性があるわけじゃない。だからこそ……他のモンスターを味方だなんて思わず、周囲の事なんて気にせず攻撃を仕掛けてくる、そう信じていた!
「でぇいっ!」
対ギガントモンスターの伝家の宝刀スキル、【ノックバックカウンター】で巨人を巨大カマキリが居る方へと転がし、その隙を狙っておマルが二体のギガントモンスターを突破すると同時に鎖を一気に縮める。途中岩とか枯れ木とかの障害物があったけど、【三段ジャンプ】の応用で回避し、おマルの背中へと再び舞い戻った。
「オオオオオオオオッ!?」
「ギィイイイイイイイイッ!?」
それとほぼ同時に、倒れたカマキリと巨人が化けイルカが放った衝撃波に対する肉盾となるばかりか、化けイルカの進行の妨げにもなってくれた。
もちろん、それだけでどうにかなる連中じゃない。むしろ俺たちに翻弄されたことで余計に怒りを買い、咆哮を上げながら追いかけてくるが、俺たちの進行方向上から他のモンスターが向かって来ていない今、格好の的だ!
(ここからが正念場だ!)
【魔王覚醒】から【天魔轟砲】を発動。今の俺たちでは少々無茶をするが、エネルギーゲージの減少を速めてでも火縄銃を六本同時に顕現している状態を維持させながら、それぞれ二本ずつ連中に割り当て、ぶっ放すと同時に交換するを繰り返す。
当たる回数の方が多いが、戦闘力で大幅に勝る相手ばかりだし、連中も無防備に当たる間抜けじゃない。何発か回避しながら、着実に距離を詰めてくるが、どいつもこいつも我先にと、互いに体を押しのけ合いながら向かってきている。
(【天魔轟砲】はあくまで【ブースト】のインターバルが終わるまでの時間稼ぎ……足止めの本命はこっちだ!)
再び鎖を伸ばしながら、【ブースト】で後方にいるギガントモンスターたちと距離を詰めると、カマキリと巨人は再び近接攻撃を仕掛けてきた。それらも勿論【ノックバックカウンター】で弾き、体勢を崩して化けイルカを巻き込む形で転ばせる。
ギガントモンスターたちの人間に対する強い殺意を逆手に取り、急接近することで近接攻撃を誘発した迎撃方法だ。【三段ジャンプ】を使うことで攻撃も回避も思うまま……初めての行いにしては、結果はかなり上々だ。移動を完全におマルに任せることで、アンドロメダの鎖を伸び縮めさせることで接近も後退も自在だしな。
(ユースケ! 見えてきましたよ!)
それを幾度も繰り返していると、写真で見たアイゼンの拠点となっている洞窟が見えてきた。あそこにアイゼンが居れば……って、あれは!?
(人影だ! 間違いなくアイゼンが居るぞ!)
「巻き添えにしちゃってすいませーん! ちょっと助けてもらって良いっすかー!?」
トップランカーの戦闘力はいずれも90万越えと言われている。その中でも頂点に立つアイゼンなら、戦闘力40万前後のギガントモンスター3体くらいすぐに……あれ?
(……何か、女の人が出てきてません?)
洞窟から出てきたのは、以前見た長身痩躯の男ではなく、華奢な印象を与える女性だった。……いや、誰? アイゼンは?
困惑する俺たちを余所に、女性が軽く広げた両腕をゆっくりと上げると……薄っすらと黄緑が駆った、どこか毒々しく濁った巨大な水球が頭上に発生し、そこから龍を象った水流が飛び出して、カズサとおマルを素通りし、三体のギガントモンスターを呑み込んだ。
ご質問があったのでお答えします
Q『おマルが憑依したらユースケのいる空間に入りますか?憑依したら虚ろの悪魔でカズサのサイズを小さくすることはできますか?』
A『こちらに関しては、少々ネタバレになるのであえて伏せさせていただきます。ですが、おマルの力を主力として有効活用する……そんな戦法を色々考えてはいますよ』
Q『便器のおまるの事を完全に失念したなんて日本人じゃありえないんじゃないかな』
A『人間って、馴染みのない単語は知識として知っていても、それが必ずしも瞬時に出てくるとは限らないんですよね。日本語のような同音異語の多い言語だと特に。入試のセンターと野球のセンターとか、トイレのレバーと食用のレバーとか、片方に意識が行っちゃうともう片方の事が全く思い出せない時ってあるんですよ。今回の場合は、名前としてのおマルが頭を占めちゃったからその場では便器のオマルを思い出せなかったんですよね。ぶっちゃけた話、作者は確かに狙いましたけど、高校生がベビー用品に馴染みがあるなんて早々ありませんし、こういう失態も起こり得るんじゃないかと』
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