エピソード薫・君は陰気な日陰者
想像以上におマル擬人化を反対する声が多くて草。まぁ確かに、せっかくのモフモフ枠ですからね。無表情系ロリは機会があれば、別の登場のさせ方をしようかと考え直す、今日この頃です。
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
私、水無瀬薫がそれを見つけたのは、近所のコンビニだった。
遊ぶ相手もなく、夏休みなのに予定も当てもなく、宿題するかプラプラするしかない日々に嫌気がさして、そんなボッチな夏休みを過ごしたことを知られるのが嫌で、馬鹿にされないための口実としてバイトでもしようかと、求人情報誌を目当てに立ち寄ったコンビニ。
「しゃーせぇー」
やる気を感じられない間延びした店員の挨拶を聞きながら、雑誌コーナーへと向かう。
そのまま求人誌に手を伸ばそうとした時、ふと最近ファッション雑誌を見ていないことを思い出した。
前までは、友達と一緒に見て駄弁ってて、そんな時間が楽しかったけど、今はもう一人だ。何やるのも空しくて、色んな趣味から遠ざかってたなぁ。
「……ちょっと、気になるかな」
それでも、今でも一応オシャレには気を使っている方だ。夏休み前まではちゃんとしてたのに、突然野暮ったくなったら周りから何て言われるか。
……正直、もう自分を着飾ったところで何になるのっていう気持ちが胸の奥にあるけど、それは必死に見て見ぬふりをする。それを認めてしまえば、この1年は一体何だったんだろうって、嫌な気持ちになるのは目に見えてたから。
「えぇっと、今週号のは……………げっ」
情報誌の前に、少しファッション誌を立ち読みしよう……そう思って棚を軽く物色しようとしたその時、忌々しい一之瀬カズサが表紙を飾る雑誌を見つけてしまった。いつの間にか、雑誌に載るほどの冒険者になったらしい。
「はぁ……最悪」
見たくもないものを見せられてしまった。最近、一之瀬カズサの事を見聞きするたびに胸の奥がすっごいモヤモヤするのだ。
冒険者中心のファッション誌、《週刊ヴァルキリー》。均整の取れた細マッチョなイケメン男性冒険者も度々載ってるから私もよく買ってたけど、何となく今後買う気が失せてきた。
これも全て一之瀬カズサのせいだ。人形のくせに、私から雄介を奪うだけじゃなくて、趣味まで奪おうだなんて……。
「…………」
これ以上見るのも嫌だ。さっさと情報誌だけ見てコンビニを出よう……そんな考えとは裏腹に、手は勝手に《週刊ヴァルキリー》を掴んでページを開いていた。
いつの間にかクランなんて立ち上げていたらしく、「夏特集! 話題沸騰、新進気鋭の美少女冒険者の眩しいコーデ」なんていうキャッチコピーが表紙に書かれた今週号は、表紙写真を裏切らない、一之瀬カズサ特集だ。プロのカメラマンの手によって夏の高校生らしい服装に身を包んだ一之瀬カズサが生き生きと映る写真が何ページも続いている。
「ホント……ズルい奴」
こうして改めて見て見ると、一之瀬カズサは憎たらしいほどの美少女だ。
色素の薄い髪や肌も、大きくて綺麗な水色の瞳も、黒髪黒目な純日本人の私には上っ面にしか真似できない。顔の造形も同じ人間とは思えないくらい整ってるし、手足も腰も細いのに、胸は大きくて形も良いときた。
しかも聞き耳を立てて知ったんだけど、スキルの効果か何かで、絶対に太ることがない上に幾らでも食べられるとか、全世界の女子を敵に回してるとしか思えない。……まぁ、それを聞いたクラスの女子から揉みくちゃにされていたのは、いい気味だと思ったけどね。
「何でコイツだけ何もかも持ってるのよ……」
呪詛が口から洩れて止まらない。
美貌も、お金も、人気も、傍に置いて自慢できる男も、私が欲しいもの全部持ってるなんて許せない。そんな一之瀬カズサと今の私の差をまざまざと見せつけられるからもう読むのを止めたいのに、怖いもの見たさなのか何なのか、私の手は新たにページを捲る。
これでもし雄介がイケメンなんていう一番重要なスペックまで持ってたら、私は耐えられ――――
「……え?」
一ページという大きなスペースを使って載せられた写真を見て、私は硬直する。
一之瀬カズサと、モンスターと思しき羽の生えた小さな狼。そして人類の男性が並んで映る写真……私がよく知っていて、それでいて見たことのない姿の男子が、少し緊張した表情を浮かべていた。
=====
「誰これ?」
撮影からしばらく経ち、夏休みも終了間際。満天の星が照らす異世界の海岸に設置されたテントの中で発売数日前の《週刊ヴァルキリー》を見ながら、俺は茫然と呟いた。
「誰って……ユースケっすよ? 一緒に撮影したじゃないっすか」
「いや、そうなんだけど……」
普段鏡で見る俺と、雑誌に載っている俺……その姿が大分違う。よく見てみれば同じ顔ではあるんだけど、服装は今まで着てたのと全然違う感じだし、髪もワックスでバッチリセットされている。えらい時間かけて服選んだり、髪をセットしたりしてただけあって、なんかもう別人って感じだ。生まれて初めてシークレットシューズとか履かされたし。
……そう言えば、薫の時も結構劇的に印象変わってたっけなぁ。普段無頓着な奴ほどお洒落すれば見違えるらしい。
「……もしかして俺って、実は隠れイケメンだったのか?」
スタイリストさんも顎のラインが綺麗だとか、身長は少し足りないけど足は長いとか、色々褒めてくれたっけ。
どこまでお世辞で、どこまで本気か分からないけど、いいの? そこまで褒められたら、俺ちょっと調子に乗っちゃうよ?
「んー……そんなに変わってるようには見えませんけどねぇ」
そんな俺の慢心を叩き潰すかのように、カズサは言ってのける。……いや、そりゃあカズサと比べられたら何も言えなくなっちゃうけど……。
「いやいや、見た目はちゃんと変わってますよ? なんかこう……ビシッとしてて良い感じだとは思います」
ちょっと落ち込む俺の様子に、カズサは少し慌てたように両手を軽く振る。
「ただ、アタシからすればどんな姿でもユースケはユースケですからね。見た目はあんまり気にならないっていうか。アタシだって聖人君子じゃないですし、仲良くしたくない相手とこうやって話したりしませんよ」
「お、おぉう……そうか」
……こうも真顔でハッキリ言われると、何か照れるな。
「まぁ、そんな俺でもオマケ程度なんだけどな」
主役はやっぱりカズサ。特に屋外プールで撮影された水着姿なんて目の保養以外の何物でもない。
普段そこまで露出が多くないカズサが太陽の下で濡れた肢体を晒し、ホルターネックのビキニが彼女の豊かな胸元を包み込み、カメラマンによって指示されたポーズによって強調される……そんな男の目をかき集めるような姿を写真に収められながらも、不思議と下品には感じられないのだ。
俺のビフォーアフターといい、ファッション誌スタッフってスゲェ。
「いや、本当にありがとうございます」
「ど、どうしたんすか? 突然ペコペコ頭なんか下げ始めて」
本人に直接言うことはないけど、小柄で巨乳と言う、こうも俺のストライクゾーンど真ん中の容姿をしたカズサの水着姿はマジで眼福である。生で見た時の破壊力も、平然を装いながらガン見することしか出来ないくらい凄かったし。
「アタシは何だかんだで結構楽しかったですし、個人的には偶に引き受けるのも悪くないって感じでしたねぇ」
「細かいポーズの指定とかも、あんまり苦じゃなさそうだったしな」
「そうそう。こちとら普段からユースケの思うがままに動かされてますから、数時間あーでもない、こうでもないって色んな姿勢をとらされるのもへっちゃらでしたし」
何だかんだで俺もカズサも楽しめたし、モデルの仕事を引き受けて良かった。おかげで大変な冒険の前に楽しむことができたし、また引き受けるのも良いかもな。売名にはうってつけだし。
「まぁ、生きて帰ってこれたらだけど」
潮騒を鳴らす海岸。その水平線の向こう側にあるであろうE大陸を、俺はテントの薄い扉越しに臨んでいた。
ご質問があったのでお答えします
Q『そういえば英雄含む【全スキル取得可能】を一時的に持った状態の奴に取得させたスキルはそれらを消しても残るのですか?』
A『ちゃんと残りますね。スキル習得におけるエラーを利用したようなやり方ですが、一応そういう仕様なのです』
Q『雄介って自衛の為に訓練して鍛えてるけど男の子なら自分も強くなりてえって積極的な気持ちは少しはあるのかな』
A『少しはあるかもしれませんが、結果を出せるならどうでも良いと考えてますね。雄介は戦いそのものが目的ではなく、戦いの果てにある栄誉や富、風景が目的としている実利主義の冒険者ですし』
Q『おマルって便器の方じゃなくて、マルを敬った御マルなんですよね?』
A『まさしくその通りです。ぶっちゃけただの略称なんて読者様の印象に残らないから、作者としてはインパクト狙いという一面もありますけど、雄介としてはご質問通りの意図を込めて名付けました。江戸時代とかでも、お涼さんとかお妙さんとか、そういう呼び名の人もいたらしいですし、そんな感じで』
面白いと思っていただければ、お気に入り登録、または下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを送って頂ければ幸いです




