覆水盆に返らずってマジですか?
人間に最も不必要なのは睡眠だと思う今日この頃……何が言いたいかと言えば、寝落ちが憎い。
とりあえず、本日は昨日の埋め合わせとして、6時と18時くらいにそれぞれ一話ずつ投稿しようと思います。
「そういえば、二人はモンスターを捕まえに行ったんでしょ?」
それからしばらく経って夕食後。風呂も入ってリビングでガ●ガ●くん食いながらまったり過ごしていると、美波が思い出したように聞いてきた。
「それで、どうだったの? ちゃんと捕まえられた? モフモフしてる?」
「すっごいモフモフしてますよー。ユースケ、せっかくだから見せて上げましょうよ」
「しゃーねぇなぁ」
元々、庭に立派な犬小屋でも作ってそこを寝床にしようとしていたし、いずれ美波の目にも留まることになる。
俺は【アイテムボックス】から取り出したテイムシールを発動すると、マルコシアスのおマルがリビングに姿を現す。
本来ならば、リビングの広さに収まるような図体じゃないのがマルコシアスという種族だが――――
「か、可愛いぃぃぃぃいいっ! 一体どんなモンスター連れて帰ってくるのかと思ってたけど、まさかこんな私好みの子を連れてきてくれるなんて、初めてお兄の事を褒めたくなった!」
「どういう意味だコラ」
今のおマルは、美波の両腕にすっぽりと収まるほどの大きさしかない。
これはスキル【虚ろの悪魔】の効果だ。自身の体を自在に小さくすることができるという、一見すると弱いスキルだが、実はそうでもないんだよな。
人間の体の大きさだと入り込めない場所や、小動物くらいの大きさじゃないと通れない、道と呼ぶには小さすぎる隙間の先に希少資源があったりするし、一部のダンジョンでは同じく人間では通れない場所にギミック解除の仕掛けがあったりする。
そういった問題を解決する常套手段がスキルか、初めから小さなモンスターを使役するかのどちらかなんだけど、【アイテム強化】は思いもよらぬ恩恵を与えてくれた。そういう意味で、おマルは冒険者が使役するモンスターとしては満点に近い存在だと思う。
解除しない限り効果は永続で、インターバルも必要ないから、ペットとしても番犬としても非常に価値がある。
「それにしても、中々太々しいというか、豪胆と言うか……結構動じない子ですよね」
「まぁ今の外見こそ羽の生えた子供狼だけど、元はデカい悪魔系モンスターだからな」
パッと見、チワワにすら見えるおマルを見て二秒で抱きしめてはしゃぐ美波だけど、振り回されるおマルはフスーッと鼻息を吹いてされるがままになっている。
なんかもう、「仕方ないから付き合ってやってる」って感じが凄い。外見に騙されることなかれ……見た目可愛くても、やたらと悪い目つきはモンスターの中でも上位種に位置するもののそれだ。
「ねぇ、この子の名前はなんていうの? 無いなら私が決めてもいい?」
「まてまて。ちゃんと名前くらい決めてある」
「じゃあ何て言うの?」
「おマル」
「何で便器みたいな名前になってるの?」
…………あれ?
「おい、ヤベーよカズサ。使役したモンスターって、どうやったら改名できる?」
「いやぁ、それアタシに聞かれても分かんないです。てか完全に失念してましたねぇ……これがフィーリングだけで名前を決めた者の末路っすか」
スマホで検索してみても、使役したモンスターの改名方法なんて一切見つからなかった。後悔しても後の祭り……こうして俺たちは便器の名を背負うモンスターと共に戦うことが運命づけられた……!
「まぁ、字面を見ずに語感だけ見れば、犬に付ける名前としてはそこまでおかしくないよな?」
「犬じゃなくて狼ですけどね」
ペットショップで買ってきた犬の体毛が白かったら、シロっていう名前を付けるのと同じようなもんだ。同音異語なんてこの日本じゃよくあるし、そこまで気にしなくてもいいだろう。実際、名前を付けられた当のおマルも人間が付けた名前なんてどうでも良いのか、割と平然としてるし。
「まぁ呼びやすいから良いけど……それよりお兄、考えてくれた?」
主語が抜けているけど、言いたいことは分かる。資源調達の依頼を受けるかどうかだろう。
はっきり言って、引き受けていいものかどうか少し悩んでいる。今俺たち《カラクリ冒険営業所》が指名依頼すら受けないのは、もし依頼が複数件来た時、学生でもある俺とカズサだけでは、身分的にも人数的にも対応できないからだ。
そのことは既に公言しているし、家族贔屓で依頼を受けたなんてことがバレようもんなら、「なら自分の依頼も受けてくれ」と言ってくる奴が現れるかもしれない。そうなったら歯止めが効かなくなるから、不用意に依頼は受けない方向で二村たちとも話し合って決めている。
「あ~……くそ」
だから俺としてはこんな話、とっとと跳ね除けたいところなんだけど…………しょうがねぇなぁ。
「あんまり期待すんなよ?」
向けられてくる二つの視線から逃げるように、俺はスマホを片手に自分の部屋に引き籠るのだった。
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ぶっきらぼうにリビングから出ていくユースケの背中を二人で見送ると、美波ちゃんはおマルのフカフカした体毛に顔を埋めながら深い溜息を吐いた。
「期待なんてそこまでしてなかったけど……やっぱり駄目かなぁ」
早くも諦めムードの美波ちゃんだけど、そう思うのも当然だろう。
この家に住むようになってから二人の事を見てきたけれど、表面上はどこにでもいる、普通に仲の悪い思春期の兄妹だ。頼む側の美波ちゃんも変なプライドが邪魔して可笑しな下手を出していたし、ユースケも妹の依頼を素直に引き受けたくないと思っているんだろうけど……。
「諦めるのはまだ早いっすよ。アタシらで決めたルールに関わることですから即決は難しいですけど、ユースケたちもそこまでケチじゃないですし」
「本当?」
「はい。……それに、あの反応を見るに頭ごなしに拒否しようってわけじゃなさそうです」
ユースケは基本的に優しい人だ。本人は認めたがらないだろうけど、いつもは邪険にしている美波ちゃんの事だって、本音の部分では大切に想ってるってことくらい、アタシだって知っている。
「それでもダメって言われるようなら、アタシも一緒に頭を下げます。こう見えて、ユースケはアタシに甘いところもありますからね」
「……あはは」
安心させるためにわざとお道化たように言うと、美波ちゃんはつられて笑った。
アタシは確かに人と同じように話し、人と同じように食事をするが、その根本は木偶人形というマジックアイテムだ。人によっては道具同然に扱う……むしろ扱われて当然で、文句を言える立場じゃない。
なのにユースケはアタシを人として扱うばかりか、報酬の山分けと言ってお金すら渡し、人間として当たり前の自由まで与えてくれている。大袈裟と言われるかもしれないけれど、アタシ的には感謝してもし足りない。
かつて亡くなってしまったという親友とアタシが似ているから……という訳じゃないと思う。ユースケがアタシを見る目は、アタシを通して他の誰かを見るような目じゃない。真っすぐに、向き合った人だけを見る、そんな眼をする人だ。
そう感じるアタシは、つくづく変な木偶人形なんだろう。性格は日々の積み重ねで形成されるというが……ならアタシは何時、何処でこんな風に考え、感じる性格になったのだろうか。
「うん、ありがとう。それにしても……カズ姉って本当に私たちのお姉ちゃんみたい」
呼び名から察せられるように、この家に来てから度々聞かされた言葉だけど、今回は少しだけ意味が違って聞こえた。
「私とお兄だけじゃ、さっきみたいに落ち着いて話とか出来なかったもん。私の友達に似たような感じのが居るけど、喧嘩ばっかりしてる兄妹の間にスッと入って仲裁するところとか〝長女〟って感じだし」
「んー……あんまり考えてやってるわけじゃないんすけどねぇ。ていうか、こんなチビな長女とかいます?」
「そこはほら、約一部分から包容力が溢れ出てるし。そこだけでも羨ましいのに、【コスチュームチェンジ】で簡単にサイズの合う服も作れるんでしょ? 憧れちゃうよ」
「ちょ、どこを指さしてるんすか」
日頃から無頓着と、ユースケからボソッと言われるアタシだけど、流石に正面から言われると照れ――――
――――うふふ。嬉しいわ! 本当の姉妹が出来たみたいで――――
ふと、ノイズだらけの光景と声が脳裏で蘇る。
「……カズ姉? どうかしたの?」
「あ……いえ。何でもないっす」
人形であるこの身に妹なんているわけがない。妹分だって、美波ちゃんが初めての筈だ。
……なのに、どういう訳か……そんな当たり前の事実に違和感を感じざるを得なかった。
ご質問があったのでお答えします……と、言いたいところなのですが、朝は時間が足りずに返答が出来る暇がなかったので、18時くらいにもう一話アップするので、そこの後書きでご質問に返事しようと思います。
質問コーナーは取りやめておりませんので、気になることがあれば遠慮なく感想にてお伝えください