ゲームの二周目とかでよくあるやつ
設定や用語など、作中で気になる疑問があれば感想にてお伝えしていただければ、次話の後書きにてご質問にお答えしようと思いますので、ぜひ書いていってください。
(ところでマスター、このスキルカードどうします?)
【アイテムボックス】の中を確認してみると、昨日と今日狩ったランイーターが落としたスキルカードが、合計で五枚ある。
スマホで検索してみると、ランイーターの落とすスキルカードで戦闘力は1ポイント。戦闘力を5上げるか、売って資金にしてしまうかだけど……。
(この落としたスキルカードって、お前も取り込めるの?)
(出来るっすよ。アタシの戦闘力の上げ方は、普通の冒険者と同じですし)
(それじゃあ、とりあえず、使っちまおう)
資金は正直、魔石の分でも事足りる。今は木偶人形の基礎能力を上げていくことを優先していきたい。
でもここで困ったことが一つ。ランイーターを狩って戦闘力を上げるのは、非効率っていう事だ。ただでさえ一割の確率でしかカードを落とさないのに、落としたカードも大した強化数値じゃなかったら、強くなるのに時間が掛かる。
せっかくちゃんと戦えるようになったんだから、そんな効率の悪いことはしたくない。となると、手段は一つ。
(ダンジョンに行こう)
例外はあるけど、基本的にダンジョン内のモンスターの方が在野のモンスターよりも強く、落とすスキルカードも強化数値が高い。そして何より、ダンジョンの一番奥に潜むボスモンスターは、確定で強化数値が異様に高いスキルカードと、高額な魔石の両方を落とすのだ。
戦闘力の底上げにはダンジョン攻略。多くの冒険者たちが戦闘力上げの為のダンジョン周回攻略のやり方を動画にアップしてきているし、この方針に間違いが無い筈。
(それに、スキルも手に入りやすいしな)
スキルの習得方法は二つあって、一つはダンジョンの宝箱からスキルオーブという、使用するとスキルを習得できるアイテムを手に入れる。これは狙ったスキルを習得できないので確実性は無いけど、一番手っ取り早く強くなれる。一応、踏破すれば決まったスキルオーブを確定で貰えるダンジョンもあるけどな。
もう一つが、一定の行動を繰り返す事。冒険者の戦いの技術が昇華され、スキルに変化することがあるんだとか。ただどれだけの試行回数を稼がなきゃいけないのか分からないし、スキルを覚えるのに時間が掛かる印象だな。
(何はともあれ、まずは在野のモンスターを狩って戦闘力を70にするところから始めよう)
(今から行かないんすか?)
(ここから一番近くにあるダンジョン、推奨戦闘力が70なの)
推奨戦闘力とは、ダンジョンごとに設定されている、ソロで踏破するに必要な最低限の戦闘力の事を指す。まずはその基準を満たさないと、怖くてダンジョンになんて潜れない。
冒険者も下積み時代が一番大変。ダンジョンに潜ろうとしたら、在野の雑魚モンスターからドロップ率一割のスキルカードをチマチマ集めないといけないから、俺もその洗礼からは逃れられないってことだ。
(となると、後スキルカードが十五枚は必要に……んおっ!?)
(うわぁっ!? ビ、ビックリしたぁ……どうしたんすか、マスター?)
(いや……お前の戦闘力が、60になってる)
(……へ? 55じゃないんですか!?)
何度木偶人形のスキルカードを確認してみても、表示された戦闘力は60だ。
これは一体どういうことなんだろう……? ランイーターのスキルカードだと、戦闘力は1しか上がらない筈なのに。
俺は別に特別な事なんてしていない……ただスキルカードを木偶人形に取り込ませただけで――――
(……まさか)
(マスター、何か分かったんすか?)
(確証は無い……だから今から確信を得るために、すぐにモンスターを狩りに行くぞ)
(うっす)
=====
「ギャーッ!」
飛び掛かってくるランイーターを冷静に見据える。奴の攻撃は噛みつきの他に、鋭い爪が伸びる発達した足による跳び蹴りがあるが、俺はコントローラーのボタンを操作して木偶人形を動かす。
(……ふっ!)
片方のガンブレードで飛び蹴りを受け止める。……本当は弾く感じでやってみようと思ったんだけど、いきなり上手くはいかないか。
そのままもう片方のガンブレードでランイーターの腹を突き刺し、光の粒子に変える。その様子を警戒しながら見ていた最後のラインイーターが、こちらに向かってくるのを画面の端に確認した。
木偶人形の体の向きを合わせると同時にランイーターは飛び掛かり攻撃を繰り出す。その長く鋭い爪が生えた脚による攻撃を――――
(あえてギリギリのところで避けるっ!)
本当なら余裕を持って避けれたけど、あえてそれはしなかった。爪が木偶人形の頬を掠るものの、体力ゲージはほぼ減少していないし。
そして反撃に両手のガンブレードによる交差斬りをランイーターの長い首に食らわせてやる。絶命と共に光の粒子となったランイーターは、魔石ではなくスキルカードを落として消えた。
(ふぃ~。やっと見つけたっすね)
あれから疾走と休憩を繰り返しつつ、見つけたランイーターを何体か倒すと、ようやくスキルカードを一枚手に入れた。固唾を呑みながらスキルカードを木偶人形に取り込ませると、戦闘力は62に上がる。
(やっぱり……間違いない……!)
戦闘力強化のためにスキルカードを取り入れる行為も、【アイテム強化】の効果適用内だっていう確証を得た。
RPGとかでも、使うだけでキャラのレベルが上がるアイテムがあるけど、要はそれと同じ。スキルカードも戦闘力を上げる消費アイテム扱いになっていて、スキルの効果が発揮されたんだ。
(ヤバいっすよ、これ! チートじゃないっすかチート!)
(あぁ……戦闘力の上昇率を上げるスキルなんて今まで確認されていなかったからな……これはとんでもない大発見だ)
冒険者という職が確立して長い年月が経ったけど、誰も気付かないわけだ。普通アイテムマスターなんて、スキルカードを取り込む意味のない天職なんだからな。
いける……これはいけるぞ。まさか【アイテム強化】にこんな有用性が隠されていたなんて嬉しすぎる誤算だ。このスキルがあれば、戦闘力を二倍の速さで上げていって、冒険者として名を上げていくのも夢じゃない。
(ところでマスター。さっきの戦い、何かわざと攻撃を受け止めたり、ギリギリのところで避けたりしてませんでした?)
(あぁ、実はモンスターバスターで出来る特殊なアクションをスキルとして発現させられないかと思って――――)
――――きゃあああああああああああ……
(……今……何か悲鳴みたいなの聞こえなかったか?)
(聞こえたっ……すねぇ)
声が聞こえたってことは、ここから近い場所から発せられたはず。俺は左スティックを倒して、木偶人形を走らせる。地面からせり上がった太くて高い木の根を飛び越えながら声をした方に走り続けると、そこにはニ十匹ほどのランイーターの群れに囲まれた、俺と同じ歳くらいの女性冒険者二人が居た。
(あ! 一人怪我してるっす!)
槍を持った女子に庇われるように、足から血を流す杖を持った女子が蹲っている。二人の装備は武器屋や防具屋で見かけた初心者向けの物ばかりだし、多分俺と同じ新米冒険者なんだろう。
見たところ天職は槍使いと魔術師か……幾らなんでも新人が怪我をした仲間を庇いながらあの数を相手にするには危険なんじゃないのか?
助けに入るべき? いや、でも――――
(マスター! こーいう時は何も考えずに助けるのが一番っすよ!!)
変な思考が頭の中を巡って間誤付いている俺に、木偶人形が叫ぶ。
そ、それもそうだった。人命救助に一々理由付ける意味もないし、早く動かないと!
「その集団リンチ、ちょっと待ったぁああ!!」
意気揚々と木偶人形が叫ぶ声を聞きながら突撃させると、ランイーターや女冒険者たちが一斉にこちらに視線を向ける。
まずは女冒険者たちに当てないように意識しながら魔力の弾を乱射しながら接近。敵の数を減らしつつ、残りのランイーターたちに近接攻撃を仕掛けた。
こういう状況で不謹慎だけど、戦闘力に大差がある格下モンスターが大量にいる状況というのは、木偶人形をイメージ通りに動かす練習にはピッタリだ。俺はコントローラーを操作して、交差斬り、回転斬り、連続斬りと、モンスターバスターの双剣アクションをイメージしながらランイーターを切り刻む。
(ラスト一体っす!!)
奇襲で混乱した群れなんて烏合の衆だ。すぐに壊滅状態に追い込んで、残った最後の一体に対し、モンスターバスターの双剣アクションの中で最も高い火力を出せる攻撃、【連舞】を叩き込む。
反撃を許さない怒涛の連続攻撃から、両手に持つ双剣を力一杯振り下ろしてフィニッシュ。ランイーターを一匹残らず光の粒子に変えてやった。
「大丈夫っすか?」
「え……あぁ! だ、大丈夫です! 助けてくれてありが――――」
ポカンとした表情を浮かべる二人に木偶人形が話しかけると、彼女たちは慌てた様子でお礼の言葉を口にしようとした瞬間、木偶人形が持っていたガンブレードの銃口が火を噴いて、地面を抉った。
「あ……あの……!?」
「ああー! すみません! 誤射っちゃって!! 調子悪いんすかねぇ!? あはははは!」
画面の向こうで混乱する二人に木偶人形が愛想笑いを浮かべながら弁明していると、俺がいる空間に木偶人形の少し怒ったような声が聞こえてきた。
(マスター! いきなり〇ボタン押さないでくださいよー! この子たち怯えちゃったじゃないっすか!)
(すまん! ついうっかり!)
ゲームやってる奴なら分かると思うけど、会話イベント中はついついAボタンとか〇ボタンとか押しちゃうよね。
ちなみに、木偶人形は【木偶同調】の効果で口を開かなくても考えていることを直接俺に届けることができる。
「と、とにかく。助けてくれて本当にありがとうございました」
「何かお礼がしたいんですけど……」
……このシチュエーション、もしやアレなのではなかろうか? ラノベとか漫画の主人公がヒロインを颯爽と助けてフラグを立ててしまうという、伝統的なシチュ。
現実じゃあるわけねーよと思ってたけど……流石は異世界。実際にモンスターと戦うなんて状況になると、こういう展開もあったりするんだな。
(どうします?)
(うぅん……是非と言いたいところなんだけど、今日の風呂掃除当番は俺なんだよなぁ。出来れば今日中に戦闘力70にしておきたいし、妹に文句言われる前に帰りたいし)
(それじゃあ、適当に断っときますね)
俺にそう告げると、木偶人形は二人に愛想笑いを浮かべる。
「お言葉に甘えたいところなんすけど、今日は色々と用事があるんですよ。人助けくらい当然のことなんで、気にしなくていいっすよ。それじゃあ、またどこかで」
「あっ!? 待ってください! せめて連絡先だけでも――――」
木偶人形が爽やかな感じで言い切った瞬間を見極め、猛スピードで移動させる。ギルドの職員も、冒険者は強大な力を持つ分品格が求められるって言ってたし、人助けのお礼を受け取らないくらいが丁度良いかもしれない。
(あー……でも、ランイーターが落としたスキルカードくらいは回収しといても良かった気がする)
(まぁまぁ。仕留めたのはこっちですけど今戻ったら今更感凄いですし、いっそのことあげるつもりでいきましょう)
(……それもそうだな)
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