09.42年の恋愛スキル
ー42年の恋愛スキルー
婚約披露パーティーから3年の月日が流れた。
9歳に成長したイリアはますます美しく成長していた。
婚約パーティーでヒロインのフラグを完璧に作ってしまったイリアはにゃんに怒られながらも3年間自分磨きや皇后になる為の英才教育の日々に追われて過ぎていった。
この3年の間にフィアンセのフレイからは最低限の義理の贈り物が年に一度誕生日の日にだけ贈られて来ていた。
リアーナは毎回「素敵な贈り物ですね!」と励ましてはくれたものの、贈り物は全て正規品のハンカチだったので義理というのが丸わかりだった。
婚約をしてからは互いの交流は自由になるので、仲の良い婚約者同士は行き来する事も多い。
ただ、初対面の最悪印象のせいか3年間フレイがイリアに会いに来る事はなかった。
年に数回ある公式の婚約者同士の仲の良さを持続させるための食事会ですら、執務が理由や剣術に稽古で怪我した等、仮病丸わかりの理由でフレイはイリアに会おうとはしなかった。
(そりゃ婚約者と認めていない人間にわざわざ会いに来るわけないか、贈り物もめっちゃ義理だしな。)
贈り物が義理だとすぐわかるというのはハンカチという物のせいではない。
この世界でハンカチを相手に贈るという行為は親愛や求愛の証、けっして婚約者に贈るプレゼントとして間違ってはいない。
問題はそのデザインであった。
初めてフレイが贈ってくれたドレスは鮮やかなピンクに黒のレースの大人っぽいイリアが好むデザインであったのだ。
なのに、ハンカチはパステルブルーや白が多く、デザインは全体的に子供っぽい。
フレイの性格上、あえて人が嫌がるデザインを贈りつけたりはしないだろう。
と、いうことは、イリアという人物がどういう人間かわかっていない者が国交の妨げにならない程度の物を選び、フレイに代わって送ってきている、という事になる。
今のイリアに出来ることは出来る限り勉強に励み、自分の美しさを少しでも磨こうとすること。
大丈夫、自分には42年と9年の知識と経験がある!
そう自分に言い聞かせる3年間をすごしたが今日はついにフレイが公式の食事会に参加すると連絡があった。
(このまま学園生活が始めるまで顔を合わせることなく過ごすんだと思ってた。)
「イリア様、私、今日は本気ですから。」
大事な自分の主人を3年も放置した婚約者に憤りを感じていたんであろう、リアーナの目が燃えていた。
そこからリアーナの本気が始まった。
身体をエステで2時間かけて磨き、ありとあらゆる道具でメイクを施し、大切な時には必ず付けてくれる兄のアルフォントから5歳の頃貰った髪飾りを髪に飾った。
この髪飾り以降、アルフォントから様々なプレゼントは貰っていたものの、はやり、推しからの初めてのプレゼントというのは特別だった。
「今日も最高に天使です!!」
本気のリアーナは凄かった。
少女ながら大人っぽい雰囲気のある褐色肌のイリアに似合う紫のアイメイクは上品差をさらに演出していて、子供らしさを残し厚く塗らないメイクが逆に色気を醸し出している。
ドレスはメイクと合わせて紫とピンクのタイトなマーメイドドレス、露出も控えてあり、腕の部分がシースルーなこと以外は安心に全身を包むデザインになっている。
この世界ではフリフリしたドレスが貴族の子供の主流だったが、イリアの明美の部分がどうしても抵抗していてフリフリドレスを普段から好まなかった。
それを熟知したリアーナのセンスはイリアの好みドンピシャだった。
装飾品はプラチナブロンドの髪を左サイドに流し、右側を華やかにするよう飾られた。
アルフォントから贈られた髪飾りに色合いが合うよう、ダイヤ基調のアクセサリーを付ける。
鏡に映る完璧な美少女が目に入り、心の明美がぐっとガッツポーズを決め。
「かん、ぺき!」
堪えきれず感嘆の言葉が漏れる。
さて、後はフレイを待つだけ。
時間に遅れることなく城にフレイが到着する。
食事の会場にフレイを案内する間待ってる時に後ろから愛しい人の声が聞こえる。
「イーリア、今日もとびきり綺麗だね。」
「アルフォントお兄様!」
リアーナの全力が注がれ、磨きに磨いた姿のイリアの溢れんばかりの笑顔に実の妹ながら頬が赤くなりドキリという感情がアルフォントに走る。
実の妹に何どきっとしてるんだ俺。
とそう思う感情を打ち消し、いつもの明るい笑顔を作ったアルフォントはイリアの髪に優しく口付けをし。
「こんな素敵なフィアンセを3年もほったらかしにしてる事をフレイ王子はさぞ後悔するだろうね。」
「あはは、、、」
イリアの乾いた笑いが響く。
そんなわけない、あんだけ悪印象がついた相手にいくら優しいフレイでも流石に後悔することはないと確信していた。
国交に支障があると大変なのでフレイから言われた事は内緒にしていたので、周りからすれば子供故恋愛事よりやりたい事優先なんだろうな、ぐらいに思っているらしい。
「あれ?どうした2人揃って」
アルフォントが声をかけた先にいたのはイリアより1と年上の双子のレオとジャックが居た。
レオとジャックは2人とも瓜二つの見た目でぱっと見ただけでは見分けがつかなかった。
アルフォントやイリアと同じく褐色の肌に金の瞳のブロンドヘアー。
2人とも肩まで伸ばしサイドで結んでいる。
服装まで同じなので本当に見分けがつかない。
「どうもこうも、イリアを他の王子に取られたくないのは兄様だけではないですよってことです。」
そう言ってにこやかに笑いながらレオが近づいてきた。
「俺はレオの付き添いで、、、」
「へー。フレイ王子が今日の食事会に来る事聞いて僕より取り乱してたのはどこの誰だっけ?」
「はっ!!レオお前ふざけんなよ!!!」
この双子、姿形は似ているが性格は真逆であった。
レオは礼儀正しく、真面目で頭もよく秀才。
ジャックは気性は荒いが頼り甲斐のある剣術の天才。
イリアはこの兄たちがとてつもなく大好きであった。
(だって、、、こんな妹が愛されることって現実世界である??ないよこんなのこの世界ならではの特権だよ!こんなの好きになんないほうが罪でしょ!!!)
目の前で兄達が自分を取り合うように何か言い合ってるみたいだが、悦に入ってしまった明美にはその声は届かなかった。
イリアがニコニコその様子を微笑ましく見ているのに兄達が気付き、ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめる兄達。
イリアに見惚れるアルフォントとジャックを差し置いてレオが一歩前に出、イリアをその腕にぎゅっと抱きしめる。
「あぁイリア!なんて可愛いんだ!本当に兄様はイリアを嫁にやるのが今から嫌だよ。」
「レオお兄様、、、」
「おいレオ!お前、、、」
「こらこら、イリアのせっかくのヘアメイクが崩れちゃうから手を離しなさいレオ。」
わかりやすく怒りをあらわにするジャックと優しい口調だが冷ややかな声が怖いアルフォント。
(やめてください、心の明美はもう鼻血でえらい事になっています。)
推しメンとその血を引くどタイプの顔面のショタに取り合われる尊みに、またも転生しそうになるのを堪える。
最後はイリアが困ってると強めにアルフォントに腕を引かれて双子の兄から引き剥がす形で収束した。
(初体験です。独占欲という暗殺者に殺されかけました。)
「イリア様、フレイ様がお待ちです。」
「はい!」
キャラクターを愛でてはいるものの、3年前に毒を吐かれ完全に拒絶された相手に会うのは緊張する。
ドキドキと心臓の音が響くが深呼吸して冷静な表情を作る。
大丈夫、尊死する時を抑えるよりかは簡単。
そう自分に言い聞かせてフレイの待つ部屋に入る。
「おまたせしました、お久しぶりです。殿下。」
「お久しぶりです。イリア王女。」
形式的な挨拶を済ませて席につく。
久しぶりの気まずい空気に沈黙が続く。
(どうしよう、何か変だったのかな?それとも嫌われてるとかは自惚れでなんの感情もむけていないとか?え、なにこの空気マジでなんて話したらいいの????)
この世界の婚約者同士の食事会は基本的に2人きりで、給仕の者以外は立ち入りを禁じられている。
なので食事が運ばれてくる以外の時間は2人で間を持たせなければならない。
(やばいって明美、頑張れ!42歳の恋愛スキルはどうした!?)
沈黙を先に破ったのはフレイだった。
「悪かったな。」
「へ、、、、?」
思いがけないフレイからの言葉に間抜けな声が出る。
きょとんとした顔でフレイを見やる。
今日のイリアは特別美しくリアーナが磨いてくれた事も有り、特に好意を示してない者であっても息を呑むほどの美少女だった。
それはフレイも例外ではなく、美しいイリアを直視するのを照れてしまい目線を逸らす。
ただ、イリアには自分と目を合わせるのも嫌なのかという結論で理解し、ガーンとショックを受ける。
「いや、今日まで食事会を断ってしまって。」
「いや、そのそれは、、、」
大丈夫です。
こんな緊張する会食が3ヶ月に一度のペースで訪れると思うと恐怖なので大丈夫です。
と心の底から明美が思った。
「一年目は剣の修行と身体作りも込めて一年間の修行に出ていて。」
(あ、あれ?)
困惑して自分の記憶とフレイの発言を照らし合わせて行く。
「その修行の時に怪我をしてまた一年間療養して、リハビリしている間に執務が溜まってまた一年間動けなかったんだ。」
申し訳無さそうに話すフレイの姿から嘘の色は見えず、過去に聞いていた欠席の理由とが重なり、納得がいく。
そもそもフレイというキャラクターは真っ直ぐで見えすいた嘘などはつかない。
(全部本当だったんだ。)
「修行、、、はぁ、子供が修行なんて本当に偉いですね。」
「は???」
(しまった、、、つい42歳の明美の部分が素直な感想を言ってしまった。)
慌ててイリアが口を抑えるがもう声に出てしまったいたので言い訳のしようがない。
「お前だって同い年だろ!!子供扱いすんなよ!」
顔を赤らめて必死に言い放つ姿がイリアの明美メーターの上昇を加速させる。
その顔が愛しくて愛しくて思わず吹き出してしまった。
「あはははは、、、それもそうですね、、ふふふっ」
まさかフレイが可愛すぎて笑ったとは言えずに、でも笑いが止まらない様子を見て思わずフレイも笑い出す。
(へ、、、フレイ様が笑ってくれた、、、、)
2人の重苦しかった空気が変わり、少しだけ肩の力が抜けて食事を楽しめる雰囲気が流れた。
「イリアって大人ぶってる印象あったんだけどこうやって話すとちゃんと笑うんだな。」
「殿下、名前、、、」
「あ?様とか殿下と俺よくわかんねーからお前もフレイでいいぞ。」
イリアが拍子抜けたような顔で目をグリグリ見開きながらフレイを見つめると、また照れを隠し、それを誤魔化すべく拗ねたような表情で「なんだよ?」っとフレイが問うと。
「いえ、殿下に嫌われていると思っていたので。」
「は?だから食事会に来なかった理由はさっき言ったじゃん。」
「いえそうではなくて、婚約パーティーの時に、、、」
イリアが経緯を説明すると、フレイは不思議そうに首を傾げながら返事をした。
「、、、、俺そんなこと言ったか?」
「、、、はい、仰いました。」
(、、、、え、もしかして微塵も覚えてない?)
「うーーーん、まぁ、そんな事があったとしても成長しない人間なんて居ないから一度失敗したことをそんなにいつまでも怒ったり恨んだりしねーよ。現に俺覚えてもないしな。」
(確かに。)
フレイの話すことを聞きながら眉を寄せ考えながら相槌を打っていたのを心配したのかフレイが少し優しい声で「気にすんなって」と言ってくれた。
それはイリアにとって醜い大人の感情じゃなく純粋に嬉しかった。
「ありがとうございます。」
そこから、会食は和やかな空気が流れて最後まで笑ったりしながら会話を繋ぐ事ができた。
42歳からすると9歳の男の子なんて子供で、簡単に手玉に取れると思っていたイリアは猛省した。
だって自分の42歳の恋愛スキルなんて10年付き合った男を二十歳の若い女と浮気されて失ったその一回しかないから。
そんなもんクソの役にも立たなかった。
続く