08.心の荒波
ー心の荒波ー
さいっあくだ。最悪の気分だ。
医者の診断の結果が問題無しだったことも有り、婚約お披露目生誕パーティーは無事執り行われることとなった。
フレイのその場の指摘もあり、ヒロインのヴィオラもお咎めなしという結果になった。
ただ、イリアの心は荒れた海のように荒んでいた。
なぜなら、すぐ隣に先程イリアに向かって「意地悪」と言い放った火の国の王子でイリアのフィアンセであるフレイ ロジャー マーズオルドが立っていたからである。
見た目こそ少年ではあるが、ビシッと正装で幼いながらも威厳を感じさせる雰囲気を漂わせていた。
マーズオルド国の国民の特徴で多く見られる深紅の髪と瞳を持つフレイの鋭い視線が先程から左側に突き刺さる。
「俺、お前みたいな性格悪いヤツが婚約者って認めないからな?」
フレイが皆には届かない程の小声でイリアを批難してきた。
マーズオルド国は情熱的で熱く、優しくておおらかな明るい国民性だ。
特に現国王は気さくで明るい人物で王子達への教育も最低限のマナー以外は自由にさせているという方針。
そのせいか、フレイは攻略対象キャラの中で唯一王子っぽくなくて言葉遣いも荒くワイルドなのに好感度を上げて見られるイベントやエンディングでは真面目で王子様らしい一面のギャップで蜜プリ1番の人気キャラである。
律儀で真面目で真っ直ぐなフレイの性格はイリアも熟知していた。
だからこそ痛いのだ。
(フレイ様、、、折角素敵なドレスも贈って下さったのに、、、今はこのドレス姿も後悔しているのかもと思うと本当にいたたまれない、、、)
明美は推しは居るものの、全キャラクターを愛していた。
攻略キャラだけではなく、悪役となるキャラクターまで全てを愛でるぐらい作品を愛していた。
フレイも例外ではなく愛でていた。
こんな風な仕打ちを受けてもなお、激レアの幼少の頃のフレイが自分に向けて激おこ状態なのに隠しきれない喜びと興奮をしている自分に1番いたたまれなさを感じた。
(フレイ様は本気でお怒りでいらっしゃる、だめ、だめよ明美、、、、)
そう自分に言い聞かせる。
フレイの怒る顔が見たい、幼い声可愛い、とにやけそうになるのを必死に堪える心とフラグを作ってしまった事への後悔と、それでも自分にフレイの意識が向いている事の喜びで心の中の海がかつて無いほど荒れていた。
そんな煩悩塗れのイリアが煩悩を沈めるべく肩を震わせながら耐えて居る姿を見てフレイが少しだけ気不味そうにたじろぎ。
「反省したならこれからは人虐めたりすんなよ。せっかくドレス似合ってるんだから笑っとけ。」
パンッ!!!!!
「な、なんか変な音した??」
「いいえ、何も聞こえませんでしたわ。」
慌てるフレイが心配そうにこちらを見てくる。
イリアはぎこちない笑顔でギリギリ返事をして心の中でにゃんを呼ぶ。
(にゃん、お願いにゃん、だめ、限界、、、お願いトリップ使って!!)
そう願うと辺りは薄暗くなり、目眩に近い感覚、にゃんのトリップだ。
『ねぇ、明美の煩悩掻き消すたびにトリップ使ってたらボクの魔力もたないんだけど?』
(にゃんーーーー助かった助かった!!ヤバかった、悶えすぎてもうギリギリだったの、ギリギリな所にフレイ様のギャップの優しさがもう頭と心と顔がもたなかったの)
オタク特有の早口と一息でそこまで言うとにゃんが呆れた溜息をついた。
『今回ばっかりはさっきボクがタイミング間違ったことのお詫びに言うこと聞いてあげたけどさ、もうこんな都合の良いトリップは無しだよ??』
(うんうんわかってる!本当にありがとうにゃんん)
『それにしても怒られて興奮してニヤけるって相当ヤバイよ。』
(だって相当ヤバイオタクだもん。)明美の曇りのない透き通った返事ににゃんが怯む。
(幼少期のフレイ様とか本当にレアなのに、女の子傷付けた事に嫌な相手にすら優しい言葉をかけちゃう不器用な優しさが全矢印自分に向いた時の嬉しさって解りますか!?!?!何この幸せ空間、嫌なこと言われてもそれが嬉しいとかどういう感情???自分でももっと傷ついたりすんのかと思ってたけどなんだろう全部幸せってどうしたらいいの????)
『明美落ち着いて、わかったから。、、、でもどうすんの?これでヒロインはフレイルートだって事が確定しちゃったし、明美は相変わらず煩悩に塗れてるし、そんな状態だと猫もびっくりするほど悪役令嬢人生まっしぐらだよ??』
(、、、それは困る。)
『じゃあフレイと結婚するか、他に結婚相手を探すとかしないと。このまま島流しで
いいの??』
明美はにゃんに痛い所を突かれてだんだんと冷静さを取り戻してきた。
(そういえばさ、ここのヒロインってよくある転生ものみたいに性格クソ悪かったりするの?)
『何いってんの?明美はこの世界のヒロインがどんな性格か知ってるじゃん』
ヴィオラ ルーゼン オズゲイル
蜜プリのヒロイン
木の国グリーンエバーンの端っこにある広大な土地を納めるオズゲイル男爵の一人娘。
エメラルドの髪に瞳を持つグリーンエバーンの国だけじゃなく、世界的にピンクの髪色と浅葱色の瞳を持ついうのは珍しく、良くも悪くも目立ってしまうのでコンプレックス。
家柄は爵位こそ低いが、広大な面積を有するオズゲイルの土地で育つジャガイモは大陸最大出荷数を誇るためとても裕福である。
底無しに性格が良い。少し天然。
意地悪な学友たちからはジャガールと呼ばれからかわれるがジャガイモを愛する彼女からすると褒め言葉である。
以上が公式が発表しているヒロインの性格である。
ヒロインならではのピンク色という特権を本人はコンプレックスに思っているが、のちに攻略対象からヴィオラの為の色だと言ってもらい克服するシーンはピンク色が大好きな明美のお気に入りシーンだ。
(こんっな底なしに性格が良い。少し天然っていうふわっとしすぎた設定だと本当にヒロインが性格良いなんてわかんないじゃん!)
半ばやさぐれた明美が悪態をつきながらブーブー文句を言うとにゃんはキョトンと可愛い丸々とした目でこちらを見つめ。
『何言ってんの?だから、どこまでも性格が良いってことだよ。』
(ナンデスト?)
『ヴィオラはめちゃくちゃ良い子だよ。さっきだって確実にぶつかったことが原因じゃないってわかってたのに素直に謝ってたじゃん。』
(確かに、、、)
(ええええじゃあ私はこのヒロインにフラグが立ったヒロイン優勢の状態で性格めちゃくちゃ良いヒロインと闘って行かなきゃいけないの???)
『明美がフレイ以外と恋愛するなら別だけどね。』
しかし、明美は知っていた。
このフレイ以外と恋愛しようとしてもそれぞれ婚約者がいるし、他の攻略キャラクターもルートは違えどみんなヒロインの事を好きになるという逆ハーレムストーリーである事を。
なので余程高感度と上げて行かないと、ヒロイン補正でみんなヒロインの事を好きになっていってしまう事を。
(詰みゲーじゃん)
続く