41.競技祭編5
ー競技祭編5ー
午後の部が始まり、日差しが強くなった。
イリアの国の人々は褐色の肌ではあるが国が灼熱というわけでもなく、砂漠なわけでもない。
しっかりと日本と同じような四季がある。
なのでこの世界では褐色だからといって暑さに強いわけではなかった。
しっかり暑い。
『明美、ちゃんと水分とってる??』
にゃんが脳内に話しかけてくる。
神獣は暑さに弱いらしく、暑い時間帯は次元の隙間に避難している。
なので姿はなく会話だけ。
「ちゃんととってるよ!でもよく考えたら私午後からのスケジュールがら空きなんだよね。」
『なんでそんな偏った当番なの!?』
「いやー・・・くじ運が悪かった、んだと思うけどおそらく村八分のフラグかなぁと・・・」
『なるほど。』
ここからがイリアの本番だった。
このままで一人で過ごすとマジでアリバイが無い。
「おい、勝手に居なくなるなよ。アンタ馬鹿なの?」
日陰で涼んでいるとラルフが現れた。
「ラルフ様・・・。」
腰掛けているイリアの隣にドカッと乱雑に座り機嫌悪そうにぶつぶつと文句を言っている。ただ見捨てずにわざわざ探してここまで来てくれたことが嬉しくてヘラヘラしながら文句を聞いていると「キモい」と言って頭をデコピンで叩かれる。
「いやーラルフ様ヴィオラさん達と話弾んでたので、一応席立つ時に声かけたのですが。」
(貴方たちの会話のヒートアップで掻き消えてたけど・・・。)
「アンタの存在感が薄すぎるんだよ。」
「・・・すみません・・・。」
しばらく二人の無言の時間が流れる。
入学した頃はこの威圧感に心折れそうになったけど、今はあまり気を使わずに居れる。
ラルフの事が好きなんだと自覚してからは近くに居るとドキドキと心臓が高鳴ることもあるけど、それよりも居心地の良さを感じることの方が多い。
そんなゆったりと流れる時間がイリアはとても好きだった。
「ここ日陰だけど風ねーな。」
ラルフが左手を顔の横あたりにかざし、魔力を集め始めた。
すぐにふわぁっと魔力が放出され、涼しい風が舞い込む。
「すごーい!!風が気持ち良い!!」
ラルフの国特有の風の魔法が暑さを随分マシにしてくれた。
風を存分に全身で浴びてる姿を横目で見ながらラルフがふっと笑いを漏らした。
「ありがとうございます!ラルフ様!これで体調バッチリです!!」
「おー。」
気の無い返事を返すラルフの視線は競技祭側に向いている。
イリアはラルフの感情を読む能力が逸れていることに気を許し、ここぞとばかりに嬉しい気持ちと幸せな気持ちを放出させていた。
(風は気持ちいいしラルフ様は優しいし午後からは楽だし、最高だぁー。)
そうやって二人で時間を過ごし、暫くするとラルフが立ち上がった。
「よっし、そろそろリレーの準備してくるわ。」
「え、もうそんな時間ですか?」
「今リレーの一個前の競技が始まったところ。」
ラルフの親指が指す方向をみると確かにリレー前の種目に差し掛かった所だった。
ドキドキドキドキと心臓が鳴る。
もし、奇跡が起こらなかったら、もし、未来が変わらなかったら、このまま自分達は島流しに合う。
優しい両親も、大好きな兄達もまとめて島流し。
そう思うとイリアの肩は小さく震えた。
そんな身体を抑える為にイリアは自身の両腕をぎゅっと抱きしめる。
「おいっ!」
バシッ!とラルフがイリアの背中を平手で叩く。
「いっ・・・・たぁ!」
「アンタ、俺の事疑ってんの?」
「い、いえ!そういう訳では。」
「じゃあ震えず顔上げてしっかり見てろ。」
そう言うとラルフは自分の体操着の上着をバサッと脱ぎさりイリア目掛けて投げ付けた。
「わっ!!」
地面に落とさないようにイリアがキャッチすると風のようにラルフはリレーの選手集合場所へ向かって走って行った。
蜜プリの公式ではジャージを脱ぐラルフは見た事がなかった。
つまり、ラルフは公式ですら本気を出した事がない。
ラルフのジャージをぎゅっと握りしめながらオタク心も乙女心も両方持っていかれたいりは思った。
(色んな意味で・・・・・・死ぬ。)
続く。




