21.推し事
ー推し事ー
食事会から1週間の時が経ち、結局のところ答えが出まま日々が過ぎていった。
フレイからちょこちょこ来ていたメッセージも食事会以降来ていないし自分からも送る気分になれなかった。
そんなある朝、いつもならまだイリアが寝ている時間、まだメイドのリアーナも来ていない時間からイリアがゴソゴソと動いていた。
『ん、、、?明美?どうしたのこんな朝早く』
眠そうな声のにゃんが欠伸混じりに問いかけて来た。
「あ、にゃんおはよう!!今日はね、また強制イベントがね!!!」
その言葉で眠そうにしていた目をぴっと開いて毛を逆立てながらイリアを見た。
『この前の食事会から大人しいと思ってたのに!!また変な事するんでしょ!?』
「変な事じゃないよ??推し事だよ!推し事!!ちょっとバレないように変装ウィッグと遠くからでも綺麗に写るようにって望遠レンズ探してただけだって!」
『変な事じゃん!!!!!』
結局イリアの執念ににゃんが折れて強制イベントに同行することになった。
イリアの姿はブロンドショートカットのウィッグに男子用制服、首からは一眼レフのカメラを下げ、パンパンに詰まったリュックの中には着替えの制服が入っていた。
姿だけで見えるオタク感ににゃんが数秒に一回は溜息をつく。
「嫌ならついて来なくていいのに。」
『リアーナ達に朝早くからゴソゴソしたり変装してる明美のフォローする方が嫌なんだよ!!』
そうして誰も居ない屋上に辿り着く。
遠くからみたら男子生徒にしか見えないイリアの変装で屋上からカメラを構えた。
『近くで見たらめっちゃ明美だけどね。』
「遠くからしか見えないからいいんですー!わざわざ胸も潰したし。」
『そのこだわりよくわかんないけどイリア最初から胸ないからあんまりわかんないよ?』
「ぐ、、、、それ言われたら言い返せない。」
きょとんと悪びれのないにゃんの顔が逆に腹立たしく感じる。
イリアは気を取り直してターゲットの方向を見る。
「ほら!ほら来たよヒロイン!」
言われてコソコソと隠れながらにゃんとイリアは門を見た。
するとそこには登校して来たであろうヒロインの姿があった。
『今日はどんなイベントなの?』
「今日はヒロインとラルフ様の初エンカウントのイベント」
『あー、、、だからそこまでガッツリ変装して離れた場所から、、、ってか、そんなになんなきゃ撮れない写真ならもういっそ諦めたらよかったのに。』
「私ね、魔法下手なの。」
この世界にももちろん魔法は存在した、けど、100年ほど前、魔法に頼る世界は魔力差から国別にかなりの格差が出た為、もとより科学的の発展が著しかった水の国クリーエントが率先して科学の発展を進めていった。この事によって国別による格差社会が改善されていった。この世界の歴史でどの国でも習う有名な出来事である。
科学の発展により、私生活では魔法が使われることはあまりないが、魔力の使い方を正す為に授業に魔法学が取り入れられ、簡単な魔法くらいは皆使えるのだが、このイリアは魔力も少なく、日本生活も長かった為魔法がある世界に中々慣れずに居た。
もっとチートに魔法が使えると思っていた明美の残念ポイントでもある。
『そうだね。』
「だけどね、どうしても使いたい魔法があって今日まで練習して来たの。」
そう言ってイリアは右手の指を立て、その指先にパワーを込める。
そうすると緑色の光が指先に集まりイリアを包み込んだ。
一瞬光に包まれ、次の瞬間にはぐぐぐっと身長が10cmほど伸びた。
『え?何その魔法、、、、』
「身長を10cm盛る魔法」
『何その魔法!?!?!』
にゃんすらも聞いたことのない魔法に驚いてイリアに詰め寄る。
「、、、つまり、花や木に使う成長促進魔法と物を大きくする拡大魔法を組み合わせて、身長にだけ使う魔法、私の魔力を使ってる間だけ伸びてるから一日3時間くらいしかもたないけど。」
『原理はわかったけど、、、なんのためにそんな教科書にも載っていないくだらない魔法編み出したの?』
「ここのフェンスね、私の身長ではちょっと足りないの。写真を取るためには後10cmどうしても必要で。」
『理由はもっとくだらないね!!!』
全身の毛を逆立てながらにゃんがイリアに言うとイリアは頬を膨らませながら不満そうな表情になり。
「くだらなくないよー!これで更に男装のレベルも上がるし、盛り靴履かなくても良いからこの魔法意外と需要あると思うよ?ほら、完璧な男性に見えるでしょ??」
『見えてどうするの、、、、』
この世界には男装という概念がないようだ。
「ほら来た!!ラルフ様!!ほらヒロインがラルフ様に近寄る!!」
カシャーッ!!!
「ふぅ、、、ルフ様初回スチル『不思議な雰囲気の男の子』ゲッ、、、、と???」
撮れた写真を確認しようとプレビューを見てみるとこちらに向かって思いっきり睨んで舌をベーと出すラルフの姿があった。
「え?なんで???ま、まさかバレ、、、、え???」
ここに映し出される写真は満面の笑顔のはず。
だけど、あからさまに嫌悪を感じ取れる顔、クラスメイトなどには見せないその顔は完全にイリアに気付いてのアングルだった。
「うわぁぁぁん!一枚目のスチル撮れなかったぁぁぁ!!」
『落ち込むところそこなの!?隠し撮りバレたことやばくないの???』
「はっ!!確かにまずい!!」
慌ててワタワタとその場を片付けているとギイッと屋上の扉が開いた。
((ヤバイ!!!!))
続く




