10.前世の記憶
今回は明美の前世のお話。
ちらっとだけ出てきた10年付き合った彼氏に振られた所をピックアップしております。
独立しても読める話です。
ー前世の記憶ー
「ごめん、明美、明美の事はもう家族としてしか見れなくなった。別れて欲しい。」
なんで?
家族って、結婚したら家族になるのに。
一緒に居たいっていう意味の家族ってなんで思ってくれないの?
「わかったよ。」
わかってなんかない。
若い子みたいに泣いてすがってみっともない事したくない。
最後はかっこよく大人っぽく別れたい。
、、、じゃなくて。
嫌だって泣いて困らせて貴方に嫌われたくないだけ。
中村明美35歳、10年付き合った彼氏に二十歳の子と浮気されて振られました。
25歳で初めて付き合った彼氏はそれはそれは楽しくて優しくて大好きだった。
ー10年前ー
「明美さん、一緒にランチ行きませんか?」
びっくりした。
この会社に勤めて3年目の4月、男性からランチに誘われたのは初めてだった。
しかも7歳も年下の新入社員のピチピチの18歳からの誘いにオタクの私は戸惑いしかなかった。
「、、、へ?私と?」
「、、、ダメですか?」
子犬みたいな目で私を見てくる新入社員くんは荒木雄介18歳。
高校卒業したてでうちの会社に入ってきた。
明るくてみんなの人気者の彼は会社のムードメーカーだったし、自分の気持ちに素直でストレートな爽やかイケメンで、正に私とは正反対の場所で生きてる陽キャだった。
何で私に声かけてくれたんだろう。
1人でランチを食べる惨めな姿を優しい彼は放っておけなかっただけだろう。
そんな風に考えていた。
「明美さん!今日はどこ行きますか?」
それから彼は毎日私をランチへと誘ってきた。
私はゲームと漫画の話くらいしか話すことは出来なかったが、ある日共通の漫画の話をして大盛り上がりした辺りから意気投合し、そのまま夜ご飯も食べに行く約束をした。
酔った勢いだったのか、私も25歳で一度も彼氏が出来たことがなかったから男性という生き物に免疫がなかったせいなのか、そのまま押しかける形で家に来られ一夜を共にしてしまった。
朝、大後悔。
まさか、こんな形で純潔を失うとは思わなかった。
しかも会社の、しかも未成年。
どうしよう、、、。
全ての経験が初めてすぎてどうしていいのかわからず1人で自己嫌悪に陥っていると起きてきた荒木くんが後ろからぎゅっと抱きついてきた。
「あああああ荒木くん!ごめん、昨日はちょっとお互い酔いすぎて、、、」
「俺酔ってませんよ。未成年だから。」
そ、そういえばウーロン茶飲んでたような、、、。
!?
と、言うことは私はシラフの未成年相手にとんでもない醜態を晒してしまったということ???
だんだん記憶も鮮明に思い出してきた。
18歳の清い少年と私はとんでもないことをしてしまったらしい。
「ごごごごめん、本当にごめん!!」
荒木くんが抱きついたまま更にパニックになる私をくるっと自分の方向に向かせると、手で頬を包み込んできた。
「落ち着いて、明美さん、俺適当なことするつもりありませんから。順番が逆になっちゃってすみません。好きです。付き合ってください。」
真っ直ぐな荒木くんの視線が突き刺さる。
「はい、、、、。」
中村明美25歳、初めての彼氏ができた。
それから雄介と過ごす日々は初めてのことばかりであった。
ある日、まだ雄介と付き合い初めて間もない頃会社の歓迎会の時、酔い過ぎた同期が隣の席に座って来てダル絡みされていた。
「中村さん、もっと飲みなよー。」
私の肩に腕を回してお酒飲むことを強要してくる。
だるい、酒臭い、逃げたい。
でもこういう時に嫌がると必ず「ノリ悪い」や「自意識過剰」と避難されるのはいつも私。
だから耐えるしかない。
「明美さん!ちょっと注文多いから俺メモ取ったんで店員さんに直接伝えに行くので一緒に来てもらえませんか??」
そういって雄介が私の腕をぐいっと引っ張ってくれた。
た、助かった。
「タイミング良かったよー!で?なんの注文しに行くの??」
飲み会の部屋から出れてほっとして一息着いてから雄介に聞くと、突然抱き締められる。
「ゆ、雄介??」
「嘘です。明美さんが触られてるのが耐えれなかったんです。」
自分に乙女ゲームみたいなシチュエーションなんて一生来ないと思ってた。
だけど、今目の前のイケメンは私に独占欲を出しているわけで、、、。
幸せだった。
雄介に女の子扱いされるのが最高に嬉しかった。
そのままお付き合いは順調で、喧嘩する事もあったけど、年下なのに優しい雄介がいつも包んでくれて。
雄介と付き合って後悔した事は1度もなかった。
だけど、付き合って10年目、同棲して7年が過ぎた頃、雄介の態度がおかしくなった。
「来週の休み久々にどこか出かける?」
「いや、来週は会社の人と釣りの約束してて。」
「そっか、じゃあいいよいいよ、会社の付き合って大事だもんね。また今度出かけようー。」
「ありがとう明美。」
雄介は2年前に転職をした。
新しい会社は私の居る会社よりも手取りもよく、営業の才能がある雄介にとってより活躍出来る場所だった。
今思うと態度が変だった。
だけど当時の私はそんな雄介を疑う事もなく、新しい会社の人と仲良くするのは逆に良い事だと勝手に納得をしていた。
それから直ぐの事。
珍しく雄介が営業先から直帰するから早めに帰ると連絡があった。
凄い久しぶりに私の起きてる時間に帰ってくるのが嬉しくて、今日は久々に夜ご飯一緒に食べれるからとやたら多めに食材を買い込んでるんるんしながら家路についた。
「あれ?なにこの靴。」
玄関には見知らぬ靴があり、また珍しく愛猫のにゃんが不機嫌そうに玄関にお迎えにきた。
「明美おかえり。」
「あ、ただいまー。誰か来てるの?」
玄関に出迎えてくれた雄介を見て会社の嫌な事も吹き飛ぶ。
靴を脱いで買ってきた食材を廊下直通のキッチンで片付け始めると雄介が暗い声で話始めた。
「明美、話があるから荷物良いからリビング来てくれる?」
「え?でもお肉とか冷蔵庫に、、、」
「いいから!」
いつもと様子が違うのは恋愛経験の少ない明美にも伝わった。
嫌な予感がする。
机の上に置いた豚ミンチが気になるけど、それよりも嫌な予感が勝ってリビングに向かう。
リビングのドアを開けるとそこには見知らぬ若くて可愛い女の子が目に涙をいっぱい溜めてすみませんすみませんと謝りながらこちらを向いていた。
「彼女は大村ゆりさん。」
「えっと、初めまして、あの、すみません、私…私っ…」
目に溜まっていた涙が一斉に溢れる。
号泣しながらずっと謝る大村ゆりさん。
そのゆりさんの背中を心配そうにさする雄介。
なにこれ、私が泣かした…の?
醸し出す2人の空気感、流石の私でも想像がつく。
「明美ごめん、俺彼女の事が好きなんだ。」
でしょうね。
「ごめんなさい、私雄ちゃんに彼女いるの知ってたのに、好きを止められなくて。」
は?
何こいつ。
彼女居るのわかってて近付いたの?
は???
頭が整理できない。
ただただ腹が立つ。
怒りが顔に出たのか私の顔を見てゆりさんがヒッとか悲鳴あげて更に泣き出した。
「明美!ゆりさんは悪くない!全部俺が悪い!」
「雄ちゃん、、、」
2人はお互いを見つめ合って、2人の世界を作る。
私は人生でこんな修羅場は初めてだけど、これはあの時の状況によく似ている。
こんな時は、私が嫌だとか、最低とかって怒ると
「勇気を振り絞って誠意を見せたのにヒステリックに怒った」とか「理解のないみっともない女」として批難される。
昔、雄介が職場の同僚のダル絡みから助けてくれた時の事を思い出す。
雄介の性格は理解している。
2人の仲の良さを見せつけようとして彼女を連れてきたんじゃない。
雄介なりの誠意なのだ。
泣きじゃくるゆりさんの肩を抱いて慰める雄介。
その手は私を包み込む手だった。
泣きたいのは私だ。
だけど、見た感じ10個以上は年下であろうゆりさんがこんなに泣いてたんじゃ私は泣けなかった。
後に聞いたけど、ゆりさんは二十歳だったらしい。泣かなくて良かった。
「ごめん、明美、明美の事はもう家族としてしか見れなくなった。別れて欲しい。」
「わかったよ。」
「明美は何でも自分で出来るし、強くてしっかりした女性だから。これから絶対俺よりもっと素敵な人と出会えると思う。」
コイツは何を言ってるんだろう?
10年間。
25歳から35歳まで全て雄介に捧げてきて、恋愛経験値も得られないまま35歳になってしまったオタクの女を誰が貰ってくれるって言うの?
そりゃ世の中には経験豊富で素敵な35歳は沢山いるだろう。
でも私は雄介以外の恋愛なんて知らない。
恋愛の仕方なんか解らない。
どうすればいい?
強い女だからって捨てられた私を誰が選んでくれるの?
「荷物は今度明美が仕事の間に取りに来るから、出来るだけ早く片付けるから。」
「うん。わかったよ。」
絞り出し声が震えてなかったかな。
女々しくなかったかな。
時間にすると僅か10分の出来事だった。
泣きじゃくるゆりさんを連れて、雄介は部屋を出ていく。
バタン
と大きな音で扉がしまる。
シーンとする部屋が広くて、涙が出た。
「ごめん、明美、明美の事はもう家族としてしか見れなくなった。別れて欲しい。」
なんで?
家族って、結婚したら家族になるのに。
一緒に居たいっていう意味の家族ってなんで思ってくれないの?
「わかったよ。」
わかってなんかない。
若い子みたいに泣いてすがってみっともない事したくない。
最後はかっこよく大人っぽく別れたい。
、、、じゃなくて。
嫌だって泣いて困らせて貴方に嫌われたくないだけ。
「にゃーん、、」
心配そうに擦り寄ってくるにゃん。
私が泣いているのに気付いたのか、普段は嫌がる抱っこをさせてくれる。
「どうしようにゃん、、、今日はご馳走作るぞって張り切っていつもより多めに買った食材。
無駄になっちゃった。」
続く




