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その実は・・・?

ロシア領ハラクティルスキー・プリャシュ海軍軍事


 ロシア領ハラクティルスキー・プリャシュ海軍軍事基地。ここはロシア海岸に対アメリカ海軍用に作られた基地である。ここには駆逐艦から戦艦、果ては潜水艦まで取り揃えた基地である。また対空装備までも充実しており、もし仮に空から攻められたとて12.5インチ砲やSAMがたちまち撃ち落としてしまうだろう。そんな強固なまるで城のような海軍基地が今、大騒ぎになっている。駆逐艦は爆音と共に沈みつつあり、対空兵器は軒並み火を吹き、弾薬はどんどん暴発していく。そこらじゅうの建物からは蜂の巣をつついたように兵士が慌てて出てくる。この騒ぎが起きたのは2時間前。4人の兵士によって引き起こされた。その4人とはアメリカの特殊部隊であり、ロシアへの妨害工作として送り込まれたのだ。すべての兵器に爆弾をしかけ、基地から離れたのち起爆して隠密に立ち去る・・・。


「・・・のはずだったんスけどねー。」


「どっかのバカのせいでぜーんぶ台無しだぜ。」


「誰のことです?」


「お前とヘンリーだよ。」


 基地内の武器倉庫に隠れている4人彼らこそアメリカの特殊部隊ASSである。ASSは主に敵国の妨害工作や要人暗殺等の汚れ仕事を請け負うチームだ。今回もロシアへの妨害工作のためにこの基地に送り込まれたのだが・・・。


「なんでこんなことになったんだろうな。」


 と真っ白な髭を撫でるこのチームの隊長であり最年長のサム=ブラウン。彼は元大佐で一個大隊を指揮する立場であったが、自分の上司を殴り殺し、また司令部の人間を皆殺しにした問題児である。その横のガスマスクをした兵士が深くため息をついた。


「ティナが突然トイレに行きたいっつってそれをロシア兵に見つかって殺した辺りから狂いだしたッスね。」


 という兵士はイアン=カー。このチームの作戦立案兼狙撃手だ。在軍中、類い稀な狙撃の腕を評価されていたものの爆撃ドローンをハッキングし、敵味方入り乱れた戦場に落とした過去を持つ兵士だ。


「えー私のせいですかー。そもそもヘンリー元少尉がロシアの女の人に声かけたからじゃないんですかー?」


 そういって目元まで伸ばしたピンク色の髪をいじるのはティナ=アダムス。軍学校在学中、同期の中で最高の成績を残すものの同期8人を殺害もしくは重傷を負わせた娘である。


「そもそもテメェが尿道しっかり締めときゃよかったんだよ。」


 と話す髑髏柄のバラクラバの兵士はヘンリー=アンダーソン。ビルに人質をとり立て籠ったテロリストを1人で全滅させ、人質を全員無傷で救出した翌日酒に酔い、絡んできた男女数十名を拉致監禁殺害した兵士である。というように兵士としては優秀だが人間としては問題がある者が集められたのがこのASSである。イアンはまたため息をつき、自分の携帯を見る。


「いっててもしゃーないッス。とりあえずここに籠城してても埒があかないんで外にでるッスか。」


 ASSの手持ちの弾薬はすでにほとんどない。しかしここは武器庫だ。ロシア製だが武器は山ほどある。ASSは手ごろな武器を取り、着々と準備を進める中、マカロフを手に取ったヘンリーが思いついたかのようにいった。


「つうかよ、外は敵だらけだぜ。逃げる算段はついてんのか?」


「ここは刑務所も兼ねてるッスからね、囚人にも協力してもらうッス。」


 この基地は元々刑務所だった。前面に海を構え、後方は重装備の兵士が囚人を見張る脱出不可能の刑務所だった。しかしアメリカとの関係悪化に伴い丁度いい場所にあったこの刑務所を基地に改装したというわけだ。その際囚人の移送も計画はされてはいたものの集団脱獄などの可能性を考えて移送計画は中止されたのである。イアンはポケットからスイッチを取り出した。どうやら起爆スイッチのようだ。


「C4でも起爆するのか?さっき逃げる時に全部爆発させたろ?」


 本来であれば基地を離れてから起爆するはずだった爆弾だったがヘンリーとティナが起こした騒ぎから逃走する為に船やら何やらに設置していた爆弾を起爆させてしまったのだ。サムの問いにイアンは答えずスイッチを押すと遠くの方で爆発音がした。イアンはスイッチをしまうと先ほどのサムの問いに答えた。


「元少尉とティナが騒ぎを起こすなんてことは想定済みッス。だから別でC4をいくつか設置してたッス。」


「それは?」


「各牢。」


 基地中にけたたましい警報と放送が流れる。ロシア語の放送で言ってる内容は分からないがかなりパニックになっていることは声色で分かる。それに対しヘンリーがパニックになっている基地の放送とは真逆の間抜けた「ああ」という何か納得したような声を出した。


「そういやこの建物入った時にイアン見ねぇなぁって思ってときあったわ。ありゃあC4仕掛けに行ってたんだな。」


「元々この作戦はロシアへの嫌がらせがメインッスからね、最初っから囚人は逃がすつもりだったんスけど・・・。」


 イアンはじろりとヘンリーをにらむがヘンリーはどこ吹く風といった感じだ。そんな様子をみていたサムががははと笑った。


「何はともあれイアンのお陰で敵は大混乱!この隙に逃げるとすろかの!」


 サムは弾をこめた軽機関銃を担ぎ勢いよく扉を開けた。武器庫は基地の中の東側海側に位置している。ASSは海とは反対方向に逃げるつもりであったため基地内を横断しなければならなかった。しかし外はイアンの起こした騒ぎにより案の定大混乱。兵士と囚人が入り乱れる、まさに【カオス】というような状態だ。ロシア兵は駆け抜けていくASSに見向きもしない。当然だ。何故なら今は脱走した囚人たちで手いっぱいだ。そんな中ティナは楽しそうにロシアへに手を振りこういっていた。


「свинья!свинья!」


「ティナ、お前ロシア語話せんのかよ。それなんて言ってんの?」


「これね、ロシア語で「さようなら」って意味ですよ、元少尉。」


「マジか、俺も言お。свинья!свинья!」


 2人の声を聴くとロシア兵は目の前の囚人も後回しにASSに向かって発砲しだした。4人は慌てて近くのトラックの陰に隠れた。


「おい、ティナ。どいうこと?めっちゃ怒ってんじゃん。свиньяはさようならって意味じゃねーの?」


 ヘンリーの問いにティナは「えー」といっていたが、代わりにサムががははと笑いながら答えた。


「ロシア語でさようならはДо свидания 【ダスヴィダーニャ】だ!お前らのいう言葉には一文字もカスっとらん!」


「ちなみに2人が言うсвинья【スヴィニヤー】は豚って意味ッスよ。」


「じゃあ何?俺ら、あいつらに豚!豚!ていいながら走ってたってこと?」


「そりゃ怒りますよねー。」


 笑うサム、ヘンリー、ティナとため息をつくイアン。またティナとヘンリーのせいで窮地に立たされたASS。囚人たちは逃走を開始し、囚人を追うのを諦めたロシア兵たちが4人の元へ集まってくる。もはや絶体絶命。これ以上に悪い状況はないと4人は思っていたが現実は非情である。ロシア人の騒がしい声が聞こえてくる。ロシア語のわからないティナとヘンリーには何を言っているかわからないがロシア語が分かるイアンはロシア人が何を言っているかはわかっているようだ。


「やばいッス。魔女が来たみたいッス・・・!」


 ハラクティルスキー・プリャシュ海軍軍事基地上空。そこには人影が5つ。そう【人影】である。空には鉄の翼を広げ、頭を覆うマスクを被った兵士が5人。


「しまった。【魔女】ッス。まずったッスね。もうちょい早く逃げるべきだったッスね。」


「じゃのお。全員残弾確認をしておけ。いざとなったらあれと戦わねばならん。それだけはさけたいがの。」


「まったくだぜ。」


 あわただしく戦闘準備を整えるサム、ヘンリー、イアン。【魔女】と呼ばれる5人は鉄の羽を怪しく緑に光らせ、ASSを探しているのか基地上空を旋回している。それを見て声を潜める3人だったがしティナだけはじっと空に浮かぶ【魔女】を不思議そうに見つめている。


「おい、バカティナ。何呆けてんだよ。」


「ねぇ元少尉、あの人達だれですか?」


「はぁ?お前知らねぇのかよ。ありゃ・・・」


 ヘンリーが話し始める前に銃声砲声が基地に響き渡る。どうやら【魔女】が戦闘を始めたらしい。しかし銃弾や爆発が4人の周辺で起きていないところを見ると4人はまだ見つかってないらしい。


「日本の諺で「百聞は一見にしかず」ってのがあるッス。ティナはあいつらをよーく見てればあいつらがどんな奴らかわかるッスよ。」


 【魔女】の5人は分散し、囚人たちへ攻撃を始めた。もちろん囚人たちもただではやられまいと【魔女】に手持ちの武器で反撃をする。しかし銃弾は【魔女】にいとも簡単に避けられ、また当たるはずであった銃弾は【魔女】たちの手前で弾かれてしまう。対して【魔女】たちの銃弾はヘリの機銃が如く破壊力と貫通力で囚人たちを打ち抜く。その様子を見ていたティナは「ほぇー」という間抜けな声を漏らしていた。


「すごいですね、あの人たち。あれなんですか?やっぱり【魔女】って言われているだけあって魔法の力なんですか?」


「正解ッス、ティナ。普通の兵士があんなのと戦えるわけないっしょ?ほら、あれ見てみるッス。」


 イアンが指さす方を見ると爆破しそびれた装甲車や戦車を囚人たちが乗り出し、【魔女】やロシア兵に向けて砲弾やら機銃やらを無暗やたらに撃ちまくっている。もはや軍艦の弾幕の体をなすそれに【魔女】は物ともせず降下をし、戦車の上に舞い降りるとゼロ距離でライフルを連射し戦車を爆破させていく。


「あ~あ、もったいねぇ~。戦車一台いくらすると思ってんだ、あいつら。」


「ヘンリーはいくらか知っておるのか?」


「え?知らねぇけど。」


「とまぁあんな感じで戦車だろうが何だろうがぶっ壊しちゃうこわーい兵隊なんス。わかったらとっとと逃げる準備するッス。」


「はーい。」


「つーかイアンよぉ、こんな中逃げれんのか?こんな中逃げだしたら間違いなく俺らも蜂の巣だぜ?」


 現状時間稼ぎで脱獄させた囚人たちも次々に【魔女】たちに制圧されていく。このままでは【魔女】たちの標的が4人にうつるのも時間のもんだ問題だ。だが早く逃げないといけないからと言ってここでとびだせばヘンリーの言う通り間違いなく捕捉され、撃ち殺されてしまうだろう。まさに危機的という状況にイアンはいたって冷静にだった。。


「大丈夫ッス。そろそろうちの【精鋭】たちも来る頃ッスから。」


「【精鋭】?」


 戦車は爆発炎上、無事な囚人は逃げ出すかもしくは降伏する中、一台の装甲輸送トラックがフェンスをぶち破り、基地内に侵入してきた。もちろんロシア軍の援軍ではない。【魔女】そやロシア兵がそれに気付き攻撃を開始するがトラックの装甲は相当分厚いのかびくともしない。のトラックは荒い運転で基地の真ん中まで突っ込みロシア兵を数人撥ねたところでようやく止まった。止まるとすぐに中からは強靭なパワードスーツに身を包んだ5人が現れすぐに【魔女】向けての攻撃を開始した。


「あれなんです?」


「あれがアメリカの精鋭部隊【ワーウルフ】ッス。」


「【ワーウルフ】?」


「ティナは本当に何も知らねぇのな。とりあえず見ときな。」


「はーい。」


 【ワーウルフ】と呼ばれる5人は遠目で見てもわかるほどの大口径のライフルや機関銃を所持しているにもかかわらず、常人の何倍ものスピードで基地内を駆け抜る。その速さたるや通常のロシア兵では捉えることができず弾丸が空を撃ち抜くばかりであるほどだった。【ワーウルフ】はロシア兵を倒すのに銃は一切使わず、【魔女】が破壊した戦車を投げつけ押しつぶすという怪力にものを言わせたシンプルな方法で倒していく。そんな状況を見かねた【魔女】は囚人の追撃を一時中断し、標的を【ワーウルフ】へと変更した。そこで状況は一変し、囚人たちはまたロシア兵への攻撃を開始し、ロシア兵は囚人たちへの対応に手いっぱいになったのだ。その様子を見ていたイアンはうんうんと頷く。


「よーし、うまくいってるッスね。んじゃま自分らは逃げるとするッスよ。」


「どうやってですか?」


「あの【ワーウルフ】が乗ってきたトラックに乗るッス。あそこまでなら走れるっしょ。」


「よーし、ではいくとするかのお。」


4人は一斉に走り出し、トラックに向かう。ロシア兵が何人か気が付いたものの4人に割いている銃弾はなく、いともたやすくトラックへの搭乗を許してしまった。サムはトラックに乗り込むとすぐに無線を開く。


「こちらASS。全員トラックに搭乗済みじゃ。さっさと撤退するぞぃ。」


 無線からは「了解」という言葉が返ったきた。それと同時に【ワーウルフ】の一人が合図をすると他の4人はすぐにトラックの元へ集まってきた。もちろん【魔女】の5人は簡単には許さずありったけの弾を撃ち込んでくる。


「うっひゃー!めっちゃ撃ってきますよー!狼さん早く、早く!」


 【ワーウルフ】の最後の一人が乗り込むとトラックは猛スピードで基地を飛び出していく。【魔女】の一人がそれを追撃しようとしたがトラックのスピードはかなり速くすぐにその姿は見えなくなった。


「くっそ!」


 【魔女】の一人がヘルメットを脱ぎ地面に叩きつけた。


「何よ!何なのよ!なんでоборотня(狼男)【オボロートニ】の連中が来てんのよ!ふざけんじゃないわよ!」


 地団駄を踏む彼女を他の隊員がなだめるが、彼女の怒りは収まらない。


「囚人共の脱獄なんてどうでもいいのよ!あともうちょいですんなり制圧できたのにさ!いつもいつもなんであのオボロートニ共は邪魔ばっかりするのよ!」


「おお、落ち着いて下さい・・・ほら、まだ囚人は暴れてるんですから、先にそっちを制圧してから怒りましょ?ね、【()()()()()()()】。」


「わかってるわよ、もう!」


 そういって転がっているヘルメットを拾い上げたのはロシアの特殊部隊【ヴェージマ】の隊長であり、アメリカ人と現在交際中のヴェロニカ=アグーチナ少佐である。ちなみに彼氏には軍人であることを秘密にしており、OLをやっていることになっている。

 一方そのころトラック内。


「いやー助かったわーあんたらが遅れてたら俺ら間違いなく死んでたわ。いやまじありがと。」


「こんなことはこれっきりにしてほしいけどな!!」


 【ワーウルフ】の一人が声を荒げて言った。それを聞いたティナがボソッと隣にいた

 

「なんであの人怒ってるんですか?」


「気にしなくていいわよぉ~隊長はデートを中断されて機嫌悪いのよぉ~。ね?たーいちょ♥️」


「うっせーぞ!ランドルフ!黙ってろ!」


 そう怒るのはアメリカの特殊部隊【ワーウルフ】の隊長であり現在ロシア人女性と付き合っている()()()()()=()()()()()少佐。ちなみに彼も彼女には自分が軍人をやっていることは秘密である。







 この物語はアメリカとロシアが対立している世界線でお互いを愛し合っていてお互いを知り尽くしていると思っている間抜けなカップルのお話である。

 

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