アクセサリー作りはめんどくさい
ダンジョン探索から、三日。俺はフィーアとの約束どうり毎日食堂に来ていた。おいしい料理が食べれて俺も満足だ。今日の昼は人が多く、両親と兄弟達が数人来ていた。バカ父はバカ母にあーんして食べさせてもらってた。相変わらず子供の前でいちゃつくのはやめてくれ、みんな気まずい顔してんだよ。
「アー兄、あれなんとかならないの?」
と隣のフントが落ち着かない顔をしている
「無理だ、俺の25年が不可能だと言っている」
「さすがに見てるのがきついよ僕」
「フントお兄様、僕もそう思います」
と横から入ってきたのは、末の弟のゼクス。
「なに、男子全員で集まってんのよ」
と、フィーアがこっちにやってきた。
「フィーアお姉さま、ツヴァイお兄様がいないでございます」
ゼクスが修正した。
「ほんとだね、どこに行ったのヴァイ兄さんは」
「学校じゃね、ヴァイ兄はちゃんと学校行く人だし」
「それでフントとフィーア、二人は学校は?」
と聞くと二人とも顔をそらした。
「ええと、今日は学校が休みなんです。ねえ、フント」
「そうなんだよ、たまたま休みだったんだ」
そういう二人にゼクスが、
「二人とも嘘をついてる顔です」
ととどめを刺した。
「俺、中庭で訓練あるの思い出したから。行ってくる」
とフントは逃げ出した。後でお説教だ。
「私もそろそろ戻ろうか……」
「フィーア」
「はい!」
フィーアはビクンと体を震わせた、
「学校行きたくないのか?」
「そういうわけじゃないんです。ただ、食堂でご飯作ってる方が楽しいので」
フィーアの気持ちはわからなくはない。実際子供はやりたいことをやるべきなんだろう。さらに言えばフィーアの場合はそれだけで食べていくだけの力がある。でもそれではいけないのだ。
「フィーア、俺たちは王族だ。政策で初等教育の必須化を目指してる以上、王族である俺たちは行かなければならない。これはアーサリオン王家の一員としての意見だ。しかし、フィーアの兄として話すなら、確かにもうすでにフィーアに学校は必要ないかもしれない。でも、学校での経験は絶対フィーアのためになるから行って欲しい」
「うん、わかった。明日からはちゃんと学校行くよ」
とフィーアは言って、キッチンのほうに戻った。
俺も仕事に戻ろうとしたところゼクスに袖を引っ張られた。
「アインお兄様、僕のお願いを聞いてくれませんか」
■■■
「なるほど、ゼクスはズウィーカの誕生日プレゼントに何をあげればいいのか悩んでいると」
「はい、どのお兄様、お姉さまに聞いても決まっていて、僕も早く決めなければと思っているんです」
5歳の誕生日というのはこの世界で特別な意味を持つ。そのためみんな気合いの乗ったプレゼントを選んでいる。実際に俺も気合いを入れて選んだ。
「それで、ゼクス候補としてはなにがある?」
「それが、候補すら思いつきませんでした」
「それじゃあ、他の人の候補を挙げるからそれに合うものを選ぶのはどうだろう」
「アインお兄様は天才ですか!」
こうやって弟に褒められるのは嬉しいから相談乗って良かった。
「うーん、それじゃあお母様のドレスに合うアクセサリーなんてどうでしょう」
「いいんじゃないか」
「それで、どこで買うのがいいんでしょうか」
「そうだな、俺にとっておきの案がある。ついてこい!」
とゼクスを連れて外に行こうとしたら、
「アイン様午後の執務はどうなさるんですか」
近侍のペテロに捕まった。
「アイン様、ご両親の文句を言ってる割には最近職務放棄が多いのではありませんか」
それを言われるとちょっと困る。実際俺はここ最近仕事を滞納気味だ、だとしてもあの両親になるのだけはいやだ。しかし、ゼクスのお願いを断る訳にはいかない。ゼクスのほうを見ると泣きそうになってるしどうしよう、どうしようとあたふたしてると。
「わかりました、私ができる限りやっておきますのでアイン様は行ってきてください」
とペテロがフォローしてくれた。ありがとう、持つべきものは有能な近侍だな。
「それで、アインお兄様どこに向かうのですか?」
「ちょっと北の方の山に行こうかな」
「わかりました」
と俺たちは北に向かって飛んでいった。
■■■
北に飛ぶこと30分ノース山脈の麓にある、とある山小屋に俺たちは着いた。
「アインお兄様、ここは?」
「おそらく王国一のアクセサリー職人の工房だ」
工房の戸を開けると大柄の魔族の男が作業をしていた。
「おう、アインじゃねーか。なんの用だ」
「ゼクスがズウィーカ誕生日プレゼントをアクセサリーにするらしいので、ゼフィロスさんのところにきました」
「俺のところに来るとは良い判断じゃねーか」
アクセサリー職人のゼフィロスのアクセサリーと言えば王都で絶大な人気を誇っているのだがその正体は謎に包まれている。実はその正体は元魔王軍四天王『精密機械のゼフィロス』だったりする。
魔王軍四天王、かつて母が魔族を統べていた頃、母の次に地位があった人達だ。アーサリオン王国建国後、彼らは国内の各地に散らばった。『精密機械のゼフィロス』と言えばかつて細やかな魔力操作を使った魔法で他を圧倒した戦士だ。
そんな彼は建国後、山にこもってアクセサリー作りに精を出している。
「それで、坊主はなにをご所望なんだ?」
「お母様が渡すドレスに合うやつがいいです」
「そんなふわっとしたものでは、わからん。もっと、はっきりしろ!」
厳しい事を言ってるが、ただただゼフィロスさんはアクセサリー作りに妥協しないだけなのだ。
「お母様のドレスのドレスの色なんてわからないし、あああどうすれば」
とパニックになったゼクスの頭を撫でて、
「いいか坊主、贈り物で大事なのはほかの物に合う合わないじゃないんだ。どれだけ思いを込めたかなんだ」
「なるほど、ゼフィロスさんありがとうございます」
一線で活躍する職人の重い言葉だった。
■■■
最終的にゼフィロスさんの助言もあってネックレスの宝石をゼクスが選ぶ事になった。ゼクスはあれも違うこれは違うと悩みながら選んでとても楽しそうだ。
「なあ、アインおまえはいいのか?」
と聞くゼフィロスさんに俺は、
「大丈夫、とっておきがあるから」
と返した。
「ふーん、そうか。それでルナ様は元気にしてるか?」
「俺の贈り物に興味を持ってくれないんですか?」
「どうせ、秘密ていうやつだろ」
「ご名答。ちなみに母は未だに父といちゃついてますよ」
「ボレアスが限界寸前て言っていたぞ」
「なんとかします」
「できましたー」
とゼクスがネックレスを見せる、それを見たゼフィロスさんは、
「坊主、いいセンスじゃないか!俺が前日までに綺麗に仕上げて持って行く」
「ありがとうございました」
俺たちは工房を後にした。
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大量の仕事と戦ったのちにズウィーカの誕生日パーティーが始まろうとしていた。