ダンジョン探索はめんどくさい(下)
世界樹の地下ダンジョンは、湿り気が多く木の根がところどころにある洞窟だった。中にいる魔物は、ミミズ型やモグラ型など気色悪いのが多い。戦闘は、先陣を切っているクロエさんの魔法で一撃で終わってしまうので、そいうことはほとんどなかった。でも、クロエさんが敵を倒す度に酒を飲むので、動きにふらつきが見える。
「アイン、酒くれ」
と一升瓶を丸ごと飲んだクロエさんは、追加の酒を求めた。
「これ以上飲むと、ぶっ倒れるだろうが!ていうか、そもそも持ってねぇよ!」
「つまんないなー」
とクロエさんは文句を言いながら、おそらくアイテムボックスの元となる魔法で2本目の一升瓶を用意した。
はああああ、何本飲めば気が済むだよふざけんな。
「なぁ、フィーア。あれ、大丈夫なの」
「なんだかんだいって、倒れるまでいかないから」
とまぁフィーアは呆れを含んだ顔をした。
このダンジョンは、10階層あるらいのだが俺達は特に困ることなく7階層まで来た。クロエさん、フィーア、俺の順の隊列は安定していて、前にいる敵は基本クロエさんが殲滅。溢れたとしても、フィーアの魔法の腕はなかなかなので安心だ。後ろから来た敵は、俺が剣もしくは魔法で除去。比較的楽にダンジョンが攻略出来そうだ。
と油断したのが良くなかった。クロエさんが、罠を踏んでクロエさんは落とし穴に落ちていった。
「やばくないか?」
「やばいですね」
クロエさんの魔法がなくなったので辺りには、魔物がそろりそろりと現れてきた。
「土魔法『アースクエイク』」
「火魔法『ファイヤーストーム』」
と俺とフィーアは、魔法を使い魔物の数を減らした。残った魔物は俺が剣で倒した。
「アイン兄さん、ありがとう」
「大したことじゃない」
と俺たちはどんどんダンジョンの奥へ進んで行った。
■■■
「アイン兄さん、最近食堂に来てくれないよね」
と奥に進みながら、フィーアが話を振ってきた。
「すまない。仕事が積み重なってなければ、毎日行きたいんだけどな」
「いいよ、悪いのは仕事を溜め込んでアイン兄さんになすりつけるお母さん達だもん」
「そう言ってもらえると助かる」
でもね……とフィーアは続ける
「最近、フントと遊んでること多くない?」
「そうか?」
確かにフントが空を飛べるようになってから、ちょくちょく飛行訓練に付き合わされたりする。
「そうよ、あいついつも自慢してくるんだから」
フィーアとフントは双子だ。そのせいかお互い常に対抗心を燃やしてる。
「それじゃあフィーアも一緒にくるか?」
「いやよ、あいつに巻き込まれるとろくなことないもの」
「まあまあ、そんなこと言うなって……」
確かにそうかもしれない……こないだも調子に乗ったフントがハチ型の魔物の群れに突っ込んで大変なことになったのを思い出した。
「ほらー、アイン兄さんも思うところがあるんじゃん」
「でも、俺はフントにひどい目にあわされても気にしないから」
「それは、私でも?」
「もちろん、弟と妹のわがままを聞くのが兄ちゃんだ」
「それじゃあ、私が毎日食堂に来て欲しいとお願いしたら来てくれる?」
「もちろん」
■■■
とこんな会話を繰り返しているうちに10層まできた。
10層は、足が浸かるほどの水で埋め尽くされていた。どこからか物音がするので近づいてみると、クロエさんと樹の形をした大きな魔物ダーストレントがいた。
「クロエさん、大丈夫ですか?」
「でいじょーぶ、でもこのまみょのみゃほうききゃないから」
大丈夫ではなかったようだ、酔っぱらって呂律がまわっておらず、何言ってんのか一切わからない。
「この魔物、魔法効かないんだって」
「わかるのか?」
「まあ、毎日食堂で話し相手になってるだけあるから」
と、フィーアは苦笑いした。
それで、ダーストレントに魔法が効かないとなると俺の出番だ。俺が剣で攻撃すればなんとかなるかもしれない。
「フィーア、援護を頼む」
「任せて!」
俺は、深呼吸してダーストレントに向かおうとした。
しかし、それは意味なく終わった。
「破壊魔法『メテオストリーム』」
クロエさんは魔法が効かない魔物に無理矢理ダメージを与え魔物を粉々に消し去った。この人滅茶苦茶だー、魔法が効かない相手に魔法でダメージを与えるなど聞いたことねーぞ!やはり世界最高峰の魔法使いというだけあってほんとめちゃくちゃだ。
「終わったなら、私素材取ってくるね」
「おう」
とフィーアは駆けていった。
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しばらく経つと、
「アイン兄さん、終わったよ」
とフィーアは帰ってきた。
「お帰り、フィーア」
「それで、クロエさんは?」
「爆睡しております」
そうなんだよ、あの人ダーストレント倒したと思ったら、倒れてずっと気持ちよさそうに寝てるんだがどうすればいいんだろうか。
「それで、どうやって帰るの?」
「クロエさんの転移魔法でしょ、俺の転移魔法では魔力が足りなく帰れない」
「だよねー、こうなったらしばらく起きない気がすると思うよ」
「だよなー」
その後俺らが家に帰ったのは、朝だった。