ドラゴン退治はめんどくさい(下)
フントがノープランと言うことが発覚したので、頭をフル回転してドラゴンを殺さずに追い出す方法を考える。
「そうだ、水責めというのはどうだろうか?」
「アイ兄、なんで水責め?」
「レッドドラゴンていうのは、水が苦手なんだ。なので、水で攻撃したらいいんじゃないかと思ったわけだがどうか」
「天才……!でも、ドラゴンて巣への執着が凄いんじゃなかった?」
そう、ドラゴンは1度作った巣は余程のことがない限り変えないのだ。
「巣を丸ごと池にしてしまおう」
「アイ兄、鬼畜にもほどがあるよ」
「なんとでも言え」
一つ問題がある、ドラゴンさえいなければこの辺りは生活区域となっているような場所だ。そんな所に池などできたら、村人は困るかもしれない。
「フント、急ぎでイースト村に行ってくる。待てるか?」
「うん!大人しく待っているよ!」
俺は急ぎでイースト村に向かった。
イースト村は、アーサリオンではよくある農村だった。飢餓には、苦しんではいないものの、貧しいことには変わりないという感じだ。いつか、ここも王都並とは言わないが、それなりに発展できたらなと思った。
村人に村長の居場所を尋ね、村長の家に向かった。村人からは、よそ者ということと人族が多い村だったので半魔だったので注目を浴びた。
村長の家を訪ねると50前後の中年太りした人族の男性が出てきた。
「村長はあなたか」
「はい、私です。こんな、農村になんの用でしょうか」
「ドラゴンを退治しに来た」
「おお、あのドラゴンを退治してくださるのですか。ありがとうございます」
「それでだ、あのドラゴン達が巣にしていた場所を池にしたいのだが、大丈夫か?」
村長は少し考えた後、
「はい、大丈夫です」
と言った、すぐ後の事だった。
地響きがした。顔を上げるとドラゴンが暴れていた。どうやらフントとドラゴン達が戦い始めたようだ。大人しくするって言ってたのに、何戦ってんだよ!
フントは、飛行するドラゴンの上を踏み台にして、軽々と次のドラゴンへと移る。そして、その手にはいつもの槍ではなく、棍を持っている。切りつけてはいけないと考えての配慮かもしれないが、国家最大級の戦力の打撃攻撃なので、どちらにしろいけない気がする。
とりあえず、戦っている場所に近づく。ある程度ドラゴンをボコしたフントがコッチにきた。
「ごめん、アイ兄。見つかっちゃったから仕方なく」
「まぁ、いい。フント、ドラゴンは俺が足止めしてるから。巣の所に湖が作れるように窪みを作れ」
「わかった!」
フントは、窪みを作るための準備を始めた。
「『アイテムボックス』ガイアハンマー」
『アイテムボックス』というのは、王族の指輪の発信機以外の機能で物を自由に出し入れする機能を持っている。フントが先程まで使っていた棍や普段使っている槍など、数種類の武器が入ってるらしい。ちなみに俺は悲しい事にペンと判子とメモ用紙など、仕事道具がいっぱい入ってる。一応、剣だって入ってはいるがすみっこのほうだ。
フントは、ガイアハンマーで思いっきり地面を叩きつける事で窪みを作るつもりだ。そして、俺の仕事はフントの邪魔にならないようにドラゴンを誘導する事だ。
「水魔法『ウォーターウォール』」
俺は、水の壁を作りドラゴンがフントの方に行かないようにした。あと俺がやるのは、ドラゴンの攻撃を避けながらフントが終わるのを待てばいい。
ブレスを吐いたり、体当たりしてくるドラゴンの攻撃を自身の羽の機動力を使い避けてるうちに地響きがした。
フントは、仕事を完了したらしい。下を見ると底10メートル全長300メートル程の窪みが出来てた。
「よくやった、後は任せろ」
「アイ兄、あいつらと遊んでいい?」
「ほんとうに程々にしとけよ」
と心配になりながらも嬉しいそうにドラゴンに向かうフントを見送った。
この窪みに水を入れるなら長時間魔力を貯めなければいけないということで俺は、力を溜める。
しかし、どこからが得体の知れない揺れによりそれは中断された。そして、窪みの底から大量の水が溢れ出てきた。
正しく言うならば、お湯。いや、温泉というのだろうか、フントの一撃がたまたま温泉を掘り当てたらしい。大量のお湯は丁度窪みの中に上手く入った。
俺とフントが呆気に取られているうちにレッドドラゴン達は、どこか新しい住処を探しに行ってしまったようだ。
フントの方を見るとどこか心配そうな顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「ドラゴン達、王都の方に行ってたりしないかな?」
「基本的にそれはありえないぞ」
「なんで?」
「野生の勘が働く生き物は、王都とは逆方向に進むように出来てるからな」
「あぁ、確かに」
なにせ、王都に世界最高戦力と言える圧倒的存在が2人もいるからな。だから、野生動物というのは基本的に王都周辺には現れない。
「えっと、何事でしょうか?」
と異変を感じて現れたのは、先程の村長だった。
俺は、温泉が出来た経緯を説明した。
「そういうことですか。とりあえず、ドラゴンを倒してくださってありがとうございます」
「大した事じゃない。それと、近々数人役人をそっちに寄越す。それまでにこの紙に書いてある事を調べて欲しい」
紙には、人口、税収など村の状態を知るのに必要な情報を調べるように書いてある。
「あなたは、なにをする気なんでしょうか?」
「せっかくの温泉だ。観光に使わないのはもったいないだろ」
と言うと村長は驚いた顔をした。
「なるほど。それで、あなたは何者なんですか?」
「アイン・アーサリオンだ、以後お見知りおきを」
「王子……」
村長は、驚いた顔をさらに驚かせたような顔をしていた。よく分からんがほんとうにそんな顔だったんだ。
「フント、帰るぞ」
「うん!」
と俺はフントを掴み空に飛んだ。
帰り道、すっかり日は傾き空はオレンジ色になっていた。
「ねぇ、アイ兄。そのピアスどうしたの?」
「あのバカ親達から、日頃の仕事変わって貰ってるお礼だということで貰った」
仕事を抜け出して買った所は気に食わないが、デザインも悪くない。なにより物に罪はないから常に付けてる。
「なんだかんだ言ってアイ兄もパパとママの事が好きだよね」
「馬鹿言え、感謝の気持ちはない訳ではないが最近は、怒りの感情しか浮かばんぞ」
「まぁ、確かにアイ兄の仕事量凄いもんね」
「僕は、パパとママにはいろいろやってもらってるから。アイ兄みたいな感情は当分こないと思うよ」
あのバカ親は、確かに仕事以外の面を除けば立派な親だとは俺も思う。
「あの仕事の量を擦り付けられた日には、一瞬殺意すら湧いてきたからな」
「じゃあ、よかったの?」
「なにが?」
「イースト村の温泉関係て全部アイ兄の管轄になるんでしょ」
……失念してた、あああ仕事がぁ増える!
「その顔、完全に忘れていたんだね。にしても、ドラゴンステーキ食べたかったな」
「その件に関しては父さんを恨め」
と話しているうち王都に近づくと、郊外の草原に今まで無かった山が出来てた。そして、その山の周りには大勢の人と白い煙が沢山上がっていた。近づいて気づいた、これドラゴンだ。
しかも、ジャイアントドラゴンだ。レッドドラゴンの総数は100いかないほどだ。そして、ジャイアントドラゴンの総数は10だ。つまり、超絶滅危惧種なんだよ。
こういう騒ぎの中心には、大抵バカ親がいる。ほら、肉焼いてるよ。
俺は、バカ父の傍に降り立った。
「おう、アインとフント遅かったな。ほれ、食え」
とドラゴンステーキの入った皿を渡してきた。
「父さん、これはどういう事ですか?」
「いやー、つい視界にドラゴンが入ったから剣撃を放ったら当たっちゃて」
「かっこよかったわ、パパ」
ははは、と笑う父。ええ、怒りしか湧きませんよこの後どれほど事後処理しなきゃいけないと思ってんですかねー!最終的に三徹しましたよ。あぁ、ドラゴンステーキは美味かったですよ。
一連の出来事が終わった後フントは言った、
「なんて言うか、僕ねアイ兄の気持ちがちょっと分かったよ」