ドラゴン退治というのはめんどくさい(上)
俺がいつものように執務室でバカ親が未処理の仕事を処理してると、
「アイ兄いる?」
と弟のフントが執務室に入ってきた。
「どうした、フント?」
「アイ兄、ドラゴン退治に行こう」
「なんでだ?」
ドラゴン、非常に高い知性と他の動物を圧倒する力を持った非常に凶暴な生き物だ。
基本的に人が寄り付かない所に住んでいるので、積極的に狩る必要はないはずだ。
「イースト村の近くに住み着いて大変らしいから、僕が行こうかなて」
「騎士団は、動かないのか?」
「動くけど、僕が行った方が早いし被害も少く済むでしょ!」
突然だが、魔族と半魔は人族とは寿命と成長スピードが違う。魔族は寿命が3倍で成長スピードは3分の1、半魔は寿命が2倍で成長スピードは2分の1だ。
現在15歳のフントは見た目は7歳くらいにしか見えない。しかし、フントは戦いにおいてはこの国で5本の指に数えられるくらい強い。その実力ならば、ドラゴンなど手加減しても勝てるのだが、もう一つ問題がある。
「そうだな、フントが行った方がいいな。でも、殺しちゃダメだからな」
「うん、分かってるよ!」
そう、殺してはいけないのだ。ドラゴンというのは、魔物の一つに最近まで考えられてきた。魔物というのは、高濃度の魔素が集まって出来た生物で、農作物に被害がでたり、人が襲われたりするので基本的に害獣と呼ばれ、討伐される。
しかし、ドラゴンは最近の研究で、交尾によって増えると判明し魔物ではない事が明らかになった。どんだけ討伐しても、現れる魔物に対して、ドラゴンは元々の繁殖率が低い事もあって狩れば狩るほど絶滅が近づくのである。さらに、ドラゴンが絶滅すると生態系に大変化が起こるとか、厄災が起こるとか、とりあえずいろいろあってドラゴンの討伐は世界各国で全面的に禁止された。
本来なら、人里に降りてくるドラゴンを狩るくらいなら大丈夫なはずだったんだ。しかし、ある男のせいで人里に降りてきたのも殺さないようにしないといけないくらい、滅びかけたのだ。
その男の名を、ソル・アーサリオンという。つまり、バカ父だ。あいつは、家族の誕生日の度にディナーはドラゴンステーキだということで、ドラゴンを1匹狩ってきたんだよ。うちは7人兄弟、それに母を合わせて8回だ。それを5年前の討伐禁止条約が締結するまで、毎年やってきたんだ。
ちなみに年間の世界中のドラゴンの出生数は多くて3匹だ。超えてるんだよー!増える数より減る数の方が多いなら絶滅しかけるのも当然じゃないか。そういう訳で、バカ父のせいでドラゴンの討伐は禁止されている。
「ブレスに気をつけて、上手く追い返すんだよ。いってらっしゃい!」
「何言ってんの、アイ兄!アイ兄も一緒に行くんだよ」
俺には、溜まってる仕事(元は両親の)があるんだ。行きたいのは山々だが、ドラゴン退治なんてしてる暇なんてないんだよ。今日だって、今年度の国家予算の関係の書類が回ってきたんだよ。ふざけんな!
「いや、フントだけで勝てるだろうし。俺必要か?」
「アイ兄、ドラゴンは3匹もいるんだよ。1人で相手するのは厳しいんだよ。だからね、アイ兄お願い!」
俺はなんていうか、下の兄弟には特段に甘いらしい。つまり、可愛い弟のお願いなんて断れる訳ねぇんだよ!
「わかった。急ぎで仕事をやる、少し待ってくれ」
「やったー」
いつもの7倍くらいのペースで終わらせた。帰ったら覚えとけよ、バカ親共。
「それで、どうやって行くんだ」
「アイ兄、運んで!」
「……わかった」
空から行くという事なので、風よけのマントという黒いフード付きのマントを俺とフントは着た。これを着ると、移動中の風圧が無くなるというとても便利な代物だ。フントは、羽がないタイプの半魔なので、自然と俺が抱えて飛ぶことになる。
アーサリオンの街並みと自然を見ながらの飛行はなかなから良い。俺もプライベートで飛ぶことなど、久しぶりなので楽しい。フントは興奮して、落としそうになるので気をつけてほしい。
「どうだい、空の旅は?」
「うん、すっごく楽しい。僕も翼が欲しかったな」
今、ほんの僅かだがフントか悲しそうな表情をした気がした。もしかしたら、空を飛べないのにコンプレックスを感じているのかもしれないと思った。
「フント、お前は空を飛びたいか?」
「やっぱりさ、アイ兄達が飛んでるのを見て憧れてたんだ。でもさ、僕は体的にも、使える魔法的にも空飛ぶのには向いてないから自分で飛べるものなら飛んでみたいな……」
俺は、なにをしてきたんだろう。兄弟達とは、仲良くやっていけるように関係を深めてたはずだった。でも、俺はフントのこの悩みさえ気づくことができなかった。だから、この願いは叶えてあげたい。
「フント、帰ったら兄ちゃんがお前を飛べるようにしてあげるからな」
「アイ兄、ほんと?」
「ああ、ほんとうだ。絶対、プントを飛べるようにしてやる」
「アイ兄、約束だよ」
「わかった」
と俺はフントと指切りをした。
その後のフントはいつも以上に笑顔に見えた。
そんな、やり取りをしてるうちに空き地らしき場所でドラゴンがいるのが見える、ドラゴンの視界に入らないように高度を落としてき、近くにあった岩陰に姿を潜ませる。ドラゴンは全部最も数が多いと言われるレッドドラゴンで大きさはどれも全長15メートルほどだ。レッドドラゴンと言われるくらいなので赤い鱗である。
ドラゴン3匹は、尻尾やブレスで無理矢理作ったであろう空き地に固まっている。1匹は丸まって寝ていて、残りの2匹はじゃれあっていてさっきから地響きが凄い。
「それで、フントどうやって追い払うんだ?」
「そうだね、まず尻尾を切り取って。適当にボコしたら逃げてくれないかな?」
それ、絶対怒らせるだけだぞ。
ここで新しい問題が発生した、
フントノープラン問題だ。
単位は訳あって日本と同じです。