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21話 子犬は助けを求め、役者は集う

怪獣が二頭に増えた。

最初に現れたものが立派なトサカを持っていたのに対し、二頭目の頭はつるんと丸く、体も一回り小ぶりだった。見る者によっては一頭目が『雄鶏』で、二頭目が『雌鶏』だと推測しただろう。


怪獣にしては体が小さいとはいえ、風花と犬たちにとっては、見上げるような巨大生物に変わりない。二頭目の怪獣の出現は犬たちを劣勢に追い込んだ。

六頭になった柴犬たちは三頭ずつに分かれて、果敢に怪獣に立ち向かった。しかし、戦力差の開きはカバーしきれず、大鶏たちはより大胆に暴れはじめた。


「どうしよう、シロちゃん…… サクラが負けちゃう」


風花は涙目でリュックサックの子犬を見つめた。


「……」


子犬は黙っていた。ただじっと風花を見つめ返すだけだった。しかし――


「え? みんなを呼ぶの?」


風花は驚いたように子犬に尋ねた。


「白くて大きい優しいおじちゃんと、黒くて大きい意地悪なおじちゃん? それってフジとマロのこと?」


子犬はあいかわらず黙ったままだった。仮に吠えたとしても、それで人と犬が会話ができるはずもない。それなのに風花はこの時、子犬の意思を正しく理解していた。


地球外から持ち込まれた、あの『ミートボール』を食べたサクラ親子のうち、超能力に目覚めたのは、巨大化した子犬だけだとケンジたちは思っていた。


しかしそれは間違いだった。

子供の危機に際し、母犬サクラがその体を八つに『分裂』させたように、この非力な白い子犬も超能力を授かっていたのである。


その力とはテレパシー。

言葉を必要とせず、望む相手と交信する超能力。風花を外出に誘い、この場所に母犬サクラを呼び寄せた力でもあった。


ケンジや翔子たちが見逃した子犬の能力を、風花は無自覚に気がついて、まるで友達と会話するように、今日まで過ごしてきたのである。


声をふり絞るように、子犬は顔見知りの犬たちを呼んでいた。

白柴フジは子犬にとって、穏やかで優しい大人だった。その尻尾や足に飛びついても、怒るでもなく逃げるでもなく、遊びに付き合ってくれた。

もう一方の黒柴マロは事情が異なる。子犬たちの離乳食が目に入ると、ずかずかとやってきて割り込んでくる。ガキ大将のような存在なのだ。


二匹の成犬に対して、子犬の感情に差異があったのは確かで、それが結果に影響したのかもしれない。母犬サクラの危機に駆け付けたのは、白柴フジだった。しかもフジの口には、本来のサイズに戻った『兄弟犬ごまっち』がくわえられていた。どこかでウンチをして元に戻ったのを、フジが保護したらしい。


「フジ! それにゴマちゃんも!」


風花が喜びの声をあげると、フジが寄ってきて子犬を地面に降ろした。

怪獣と対峙していた六頭のサクラも、一斉に子犬に駆け寄ると、無事を確かめるように匂いをかぎ始めた。そしてフジにお礼するように、その鼻先に自分の鼻先をそっと寄せる。


怪獣と戦う柴犬が七匹に増えた。

大鶏二頭はそれを脅威と感じていなかったが、新たに加わった白柴フジは、ただの犬ではなかった。


無警戒に近づいてきた雌鶏の蹴りをかわすと、反対側の脚に噛みついた。黒くつぶらな瞳に赤い炎が揺らめいたかと思うと、頭を振って雌鶏を転倒させる。『怪力』の超能力である。


フジはなおも攻撃の手は緩めず、ぶんぶんと頭を振って雌鶏を地面の上で振り回す。ひときわ大きく頭を振ると、雌鶏の体が宙を舞い、先ほどパジャマの男性が逃げ出した民家にすいこまれていった。派手な音を立て玄関を突き破ると、体の半分を民家にツッコんだまま雌鶏は昏倒した。


残された雄鶏は、怯んだ様子で後ずさった。

目の前の小さな獣たちは、ただの餌ではないと悟ったらしい。

雄鶏は体をそらせると、全身の羽毛を逆立てて、咆哮をあげる態勢に入った。それは同日、抜群の効果を発揮した『声による攻撃』だった。


「コケコッ……」


叫び始めたそれは途中で強制的に中断させられた。

道路を走ってきた一台の乗用車が、大鶏に衝突したのだ。強い衝撃音がして大鶏が地面を転がった。


目まぐるしく変わる状況に、風花たちが動けずにいると、跳ねられた大鶏がよろよろと立ち上がった。そして怒りの表情で乗用車に向かった。

車のボンネットに飛び乗ると、激しく車体を蹴りだした。ドライバーの女性が悲鳴をあげる。


女性はサクラの飼い主・小田琴子だった。

美月からサクラが迷子になったと聞き、居てもたってもいられず、車で探し回っていたところ、子供と犬たちが怪獣に襲われている場面を発見。後先考えずに車で突っ込んだのだ。


犬たちが苦手とする咆哮を止めたという点で、彼女の行動は愛犬たちを救った。しかし、怪獣の怒りを一身に集めることになってしまった。


小田は車を動かして逃げようとしたが、フロントガラスが砕け、大鶏の脚が社内に入ってくると、シートを倒して、後部座席に逃げるしかなかった。後ろのドアから逃げようとしても、車体が歪んでしまったのか開かない。狭い車内で大鶏の苛烈な攻撃から、逃げ回らなくてはならなくなった。


「きゃあああ!? あっち、あっち行って!」


女性の悲鳴にサクラの耳がぴくんと動いた。それが飼い主の声と気づいたのか、六頭が同時に反応する。車を襲う大鶏へ走り出した。


一歩遅れて白柴フジも助けに駆け付けようとするが、邪魔が入った。フジに投げ飛ばされ昏倒していた雌鶏が目を覚ましたのだ。半壊させた民家から姿を現す。


二頭の怪獣を前にして、再び風花たちは危機に陥った。その時――


「風花ちゃーん!!」


名を呼ばれて風花は顔をむけた。車道を走ってきた軽トラックの荷台から、見知った少年がこちらに手を振っている。翔子もいた。マロもいた。

全員が風花を助けにやってきたのだ。


挿絵(By みてみん)

22話 少年は武器を手に、戦場に立つ……に続く。

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