13話 少年は超能力を欲する
「ところで、フジとマロは超能力を自由自在に使っている感じだったけど、そういうものなのか?」
翔子の告白が一段落した後、ケンジはずっと気になっていた質問、犬たちの超能力について尋ねた。
自称宇宙人・姫路翔子の出した、超能力覚醒ミートボールを食べた二匹は、すぐさま『怪力』と『稲妻』の力を使ってみせたのである。
それまで饒舌に語っていた翔子だったが、はじめて言葉を濁した。
「う~ん。ワンちゃんが食べた事例なんてはじめてだから、正直わからない。直感で能力を把握してるのかも……」
「おいおい、副作用とか体に悪いことないだろうな? 人間の食べ物って、犬に与えちゃダメなんだからな」
「その点は心配ない……と思う。体に負荷をかけるような代物じゃないし」
愛犬が稲妻と化した姿を見ているだけに、ケンジには半信半疑だった。しかし翔子の言葉を否定する根拠もない。
ふと思いつくことがあって、ケンジは手提げ袋の中から、『おもちゃのロープ』を取り出した。犬たちと引っ張り合いをして遊ぶものだ。散歩帰りに寄った羽鳥家で、風花と柴犬たちが遊んだ時に入れたままになっていたものだった。
ロープを白柴フジにくわえさせると、ケンジはそれを引っ張ってみた。白柴フジは十三歳の老犬で、ロープで遊ぶことなど普段なかったが、昔の記憶を刺激されたのか、それともケンジに付き合ってやろうと考えたのか、ロープを引っ張りはじめた。その様子を不思議そうに見ながら翔子が尋ねた。
「いきなりどうしたの?」
「怪力を発揮するか試してるんだよ。いつもどおり変わらないな」
ケンジの言葉通り、怪獣を翻弄した怪力をフジは見せなかった。あの時は瞳も赤く光っていたが、その様子もない。
「フジは賢い犬だからな。きちんと力をセーブしているのかもしれないな。もしくは、火事場の馬鹿力だったとか?」
ケンジはロープの実験を終えると、フジの頭を撫でてやり、お芋のお菓子を食べさせてやった。
するとお菓子に敏感に反応した黒柴マロが催促するように鳴いた。
『フジ君だけずるいんだワン!』
「……とでも言ってるみたいだな。はいはい、ちょっと待て」
ケンジがお芋のオヤツを再び取り出そうと、手提げかばんをごそごそとさわる。その時、パチッと何かが弾ける音がした。音の正体はマロだった。体の周りで小さな稲光が弾けていたのである。
「おいおい、なんか火花が散ってるぞ!? これ大丈夫なのか?」
「わかんない! わかんないけど、オヤツが待ちきれなくて、力が漏れてるとか……?」
ケンジは試しにオヤツを置いた。目を輝かせてマロが食いつこうとするのを「待て!」の合図で止める。
マロの体から、より強い稲妻が漏れ出し、パチパチと騒がしい音をたてはじめた。
『なんでですか? なんで食べちゃダメなんですか? もういいですよね? 食べていいですよね!?』
「……とでもいってるみたいだな。我慢したら出てくるって、ヨダレじゃあるまいし。あーあー。電気がどんどん強まってるよ」
体が心配になるくらいスパークしていたが、マロ自身に気にする様子はなく、お菓子とケンジの顔を交互に見つめては、ジタバタと前肢で地面をたたくのだった。
「よし、食べていいぞ」
ケンジが合図すると即座に食いつき、稲光も消えた。
「あはは…… 我慢すればするだけ、稲妻が強くなるみたいだね」
乾いた笑いを浮かべながら、実験結果を翔子がまとめた。
「これ、制御できてるのか? ご飯の度にスパークするのか?」
つぶらな瞳でおかわりを期待する愛犬を、ケンジはマジマジと見つめた。
結局、ケンジの想像は半分だけ的中した。毎日のご飯に加え、散歩の時間になると、待ちきれないこの犬は元気に電気を発するようになったのである。
「ところで、この怪獣は死んだのか?」
地面にだらりと広がったオオダコを指しながらケンジは聞いた。身を守るためとはいえ、気分のいいものではない。
「どうだろう? 気を失っているだけかも。どうするトドメを指す?」
「いや、やめとく。自警団に連絡だけしておこう。生きてても死んでても対応してくれるだろうから」
ケンジはスマホを取り出すと、公園に怪獣が倒れている旨を伝え、自分の名前や連絡先は告げずに切った。そして自警団がやってくる前に、その場を立ち去ることにした。
――そのため、その後にこの場で起きたことをケンジたちは把握していない。
自警団がやってきた時、怪獣の姿は消えていた。周辺で聞き込みを行った団員は、そこで不思議な話を聞く。
公園にあった大きなものが浮かび上がり、空に消えてしまったと。それ以上情報は得られず、怪獣の姿も見当たらず、自警団は帰ることになった。
その頃、ケンジたちは帰路につきながら話を続けていた。
「この超能力って、あのミートボールを食べて目覚めたんだよな? あれはもうないのか?」
「カメラバックに入れてる。高価なものだから数は多くないけど。それによっぽどのことがなければ、使いたくなかったんだよね」
「正体がばれるからか?」
「それもあるけど、自然な姿が撮影したかったんだよ。言ったでしょ? 過酷な世界でもいじらしく生きる。そういう姿をカメラにおさめたかったんだよ」
「素人のくせに巨匠みたいなことを……」
苦々しくケンジは言った。
「怪獣退治の動画のほうが、アクション映画みたいで視聴数は稼げそうだけどな」
「まあね。コンセプトからずれちゃうけど、注目を集めるならアリかもね。公開したい?」
ケンジはすこし考えて答えた。
「やめとく。姫路の故郷で流す動画は、もともとそっちの問題だし、地球で超能力動画を流す理由もないしな。注目されても面倒なだけだ」
「そっか。わかった」
「ところで、余ってるミートボールだけど、俺が食べてもいいか?」
「え? 食べたいの?」
「そりゃまぁ、飼い犬が超能力を使うのに、飼い主が使えないってのもなぁ」
ケンジは自分で言いながら、意味のわからない主張だなと思った。しかし超能力には憧れる。こんな機会、二度とないだろう。自分でも格好よく超能力を使ってみたいと、先ほどからずっと考えていたのだ。
「で、どうなんだ? 高価なものっていってたからダメか?」
「そうだねぇ。撮影協力のお礼ってことで、譲ってあげてもいいけど」
「やった!」
ケンジはガッツポーズをした。
「カメラバックに入れてるって言ったっけ? 家に置いてるのか?」
「ううん。美月さんのところに置かせてもらってる。ほら、サクラちゃんたちを迎えに行ったときにね」
「そっか。美月さんの家か」
ケンジはその時、言いようのない不安を感じた。根拠のないそれは、直観といえたかもしれない。
マンションに帰り、羽鳥家の扉を開けた時、その不安は現実のものとなった。
生後二週間を過ぎ、目が見えるようになった四匹の小柴たちが、翔子のカメラバックに頭を突っ込んで、なにかをぺちゃくちゃと口にしていたのである。
「ミートボール……」
思わず立ち尽くすケンジと翔子を置いて、母犬サクラが部屋に入ると、我が子たちの『食べ残し』を綺麗に完食してしまった。
こうして異なる星でつくられた、超能力覚醒用ミートボールは、コーポ光が丘に住む柴犬たちにすべて食べられてしまったのである。




