12話 少女は秘密を暴露する
「宇宙人だって?」
「うん。怪獣と同じ場所からやってきたの」
明瞭にして突拍子のない返事。その返答に窮してケンジはポカンと口を開けて、間抜けな顔を返してしまった。
「そういう反応になるよね。でも、本当の話だから。こんなところで引っかかってちゃ、話が進まないんだよね。そういうわけで証明しよっか」
少女はパンと手をたたいた。するとピンボールほどの大きさの飛行物体が四つ。どこからともなく飛んできて、彼女の周りをまわり始めた。そして小さく明滅したかと思うと、ボール同士を結ぶように光線が繋がり、四辺に囲まれた空中にまるでディスプレイがあるかのように、ケンジと翔子の姿をリアルタイムで映し出したのである。
「多目的小型ドローンだよ。撮影に映写。自動追尾とか二十以上の機能が使えるの。この星の科学力じゃまだ作れないでしょ? 実はこれを使って撮影もしてたんだよね。ハンディカメラは地球で公開する動画用の道具ね。チープに撮らなきゃいけないかなーって思ってさ」
摩訶不思議な道具にケンジが目を奪われているのを確認しながら、翔子はいけしゃあしゃあと言った。
「犬に超能力を与える技術に比べれば地味だったかな?」
「超能力を与える……って、どうすればそんなことができるんだ?」
「仕組みを説明しても理解できないかなー。もともと人間用に作られた『薬』なんだよね。あんなに強力な作用がワンちゃんに出るとは思わなかったよ」
ケンジは愛犬たちに起こった変化を思い浮かべた。
白柴フジはありえない怪力を発揮し、黒柴マロはその身を稲妻に変えた。理解の範疇を超えている。
「怪獣と同じ場所から来たっていったけど、怪獣もその不思議な力で作られたのか?」
「あれは実験動物だね。食用、観賞用、医療研究用、いろんな目的でつくられたの」
「実験動物って、そんなものを送り込んでどうするつもりだ。地球を占領するつもりなのか?」
今度は翔子がキョトンと驚いた顔をした。そして「ぷっ!」と噴き出し、笑い声をあげた。
「ああ、そっか。そう思っちゃうか。言葉が足りなかったね」
ころころと笑いながら翔子は言った。
「怪獣はね、役目を終えた実験動物なの。製造過程で欠陥が見つかった試作品もあるかな。そんな彼らに自由に余生を過ごさせようって話が持ち上がったの」
「え? それって……」
「占領なんて考えてない、ない! この星は彼らの終の棲家。辛辣な言い方をすれば、地球は実験動物の捨て場所に選ばれたの」
「捨て場所!?」
あまりの言葉にケンジは絶句した。少女は気にする様子もなく続けた。
「私たちから見れば、この星に有用なものはないのよ。必要な資源もなく、大気も水も汚染が進んでる。占領する価値もない。だから、使わなくなった実験動物に与えたの」
「ふざけるな! そんな理由で怪獣を野放しにしてるのかよ!?」
「あ、勘違いしないでね。怪獣を捨ててるのは一部の大人たち。私は関わってないから」
「同じ宇宙人の仕業なんだろ!?」
怪獣が原因で両親は死んだ。美月と多恵は旦那を亡くしたのだ。軽く流せる話ではない。けれど翔子はやれやれとでも言いたげに、ため息をついた。
「どこかの誰かが投げ捨てたタバコが原因で、家が燃えてしまった。たまたま通りかかった東原くんは、その家の人から激しく責め立てられる。タバコを捨てたのは日本人だ。だからお前も悪いのだと。さぁ、キミは納得できるかな? 甘んじて責めを受けるというなら、私のことも責めればいい。怪獣を捨てたのは私じゃないけどね。どうする? 私を責める?」
「なんだよそれ…… 勝手な話ばかりして。お前らの星の連中は、みんなそうなのか?」
「ん~。私たちが勝手かなぁ。そうかもしれないけど、キミたちは人のこと言えないよねぇ」
「どういう意味だ?」
苛立ちを努力して抑えながらケンジは尋ねた。
「だってさ、キミたち地球人はゴミをまき散らして、大気も水も汚して、破壊を続けているじゃない。この星のどれだけの生き物が巻き添えをくってるか知ってる? その規模は怪獣どころじゃないよ。自分たちが無茶苦茶やるのは見て見ぬふりじゃない」
話があらぬ方向に向かいだした。
ケンジは反論しようとして、しかし失敗した。いつも笑顔を浮かべていた少女の顔が、冷たい表情にがらりと変わっていたのだ。
「だからって、危険な怪獣を放っていいわけないだろう?」
「私たちの星の、大多数の人間はそう思っていないから、一方的にゴミ捨て場に選ばれたのよ。それほどにこの星、そしてキミたち地球人の評価は低いの。同じテーブルで語り合おうって発想が浮かばないくらいにね。最近、怪獣が増えているでしょう? どんどん気軽に捨てているんだよ」
「それなら宇宙人のお前はここで何をやってるんだ?」
「私は少数派なのよ。この星の生き物を助けたいと思う超レアな宇宙人なの」
いつもの微笑を顔に浮かべて、少女はお道化ていった。どこまで真実の言葉なのか図りかねた。
「それがどうして散歩の動画なんだ?」
「その質問を待ってました!」
少女は不敵に笑った。
「怪獣のポイ捨てを止めるには、法律で規制するしかないの」
「法律で規制……?」
「うん、そうだよ。もしかして怪獣のボスでも退治したら、出現が止まるとでも想像してた? 怪獣映画ならそうなんでしょうが、これはそういう問題じゃないの」
小バカにされた気がして、ケンジはむっとした。
「お前らの星に攻め込むって方法もあるんじゃないか?」
「あはは。それも映画でありそうな解決手段だね。でも無理。石器時代の人間が、飛行機相手に戦って勝てるわけないでしょ? どうして飛んでいるのか理解できない。それと同じ。私たちの星がどうやって怪獣を運んでいるのか、その方法だってキミたちはわからないでしょ? その気になれば大量破壊兵器を量産して、地球に投げ込むことだって当然できる」
ケンジが反論できずにいると、翔子はそれを納得ととったのか、再び口を開いた。
「話を戻すね。現在ゴミ捨てを認めてる法律を変えるには、民意を集めなきゃいけない。そこでキミたちの動画を撮りたいの。生きるか死ぬか危険と隣あわせの環境で、それでもいじらしく生きる姿をね。ゴミ捨て場で生きるちっぽけな生物にも、魂はあるって知らしめるの。多くの人の心を動かして、はじめて状況は変化するから」
ケンジはようやく察することができた。この少女は地球人が嫌いなのだ。言葉の端々から、地球人への嫌悪が感じられた。見切っているといってもいいかもしれない。
知り合ってまだひと月も経っていないとはいえ、今日まで行動を共にしてきた。裏切られたような気がして腹も立った。
不快な思いはますます広がっていた。
けれどそれを表に出すことを、ケンジはしなかった。関係が壊れるかもしれない話を、わざわざ始めた彼女の真意が気になったのだ。続く話がないのなら、黙って姿を消せばいいのだから。
「世論を変えるための動画か……。おまえ、戦場カメラマンにでもなったつもりなのか」
「戦場カメラマン! なるほど、自ら危険な場所に飛び込んでレポートする。そうかもしれないね。でも保険はちゃんとかけてるよ」
翔子はおもむろに近づくと、ケンジの胸を押すように右手を伸ばした。
すると不思議なことが起きた。翔子の腕が透き通り、ケンジの胸の中に吸い込まれたのである。
「うわ!?」
思わず悲鳴をあげてケンジが飛びすさると、少女はくすくすと笑った。
「透過の超能力だよ。この状態になれば、怪獣も私には触れられない」
翔子が手を差し出したので、ケンジはおっかなびっくり握ろうとした。けれど翔子の手はまるで立体映像のように、姿は見えても触れることができなかった。
「一度に効果を発揮する超能力はひとつだけ。上書きや重ね掛けはできないの。『薬』をキミに向かって投げたのはそれが理由。私の超能力は、身を守ることはできても、誰かを助けるには向いてないから」
「とんでもない力だな。それはずっと効果があるのか?」
「個人差もあるけど、効果は一週間ってところかな。効果が切れたら薬を飲みなおさなきゃいけない」
突拍子もない話ばかりだったが、ケンジはそれをほぼ信じかけていた。姫路翔子の浮世離れした言動の理由がわかり、妙な納得感すら抱いていた。
「おまえはその星じゃ、どういう存在なんだ?」
「ケンジ君と同じ学生だよ。なんの力も持たない非力な子供。つらいよね~」
翔子は苦笑交じりに答えた。一瞬寂しげな表情が浮かんだように見えたが、それもすぐに消えた。
「私も非力。だから動画で味方を増やさなきゃいけないの。ケンジ君、また撮影を手伝ってくれる? ゴミ捨て場になったこの世界を、万が一にも救えるかもしれない作戦だよ。前向きに考えてほしいな」
「本当にお前は、怪獣を捨てるようなことはしていないんだな?」
「恩師の名に誓って」
表情から微笑を消して翔子は答えた。
ケンジの答えはそれで決まった。どうせ毎日散歩は続ける。本当に怪獣を止められるなら損はない。
「世論を動かすっていうなら、今まで以上に全力で柴犬たちを魅力的に撮ること。これが絶対の条件だ」
ケンジの言葉に少女は満足そうにニヤリと笑った。
13話 少年は超能力を欲する……に続く。




