サマーデイ・ウォッチャー・キャッチャー 7
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「起きなさい! この変態!」「乱暴はだめ!」「いや~、殺されても文句ないっしょ。アタシ達の恥ずかしい写真撮ったんだよ、コイツ。縊ってやりたいよ、首を」
「ヴォッ!? ゴホッ! ゲバッ!」
脇腹の鈍い痛みによってバンバーシは意識を回復し、『く』の字に体を折り曲げながら呻く。
一体誰がこんなことをしたのだろうかと視線を上げてみれば、目が合ったのはナンシーだ。
涼やかな青の瞳を憤怒の色に染め、地獄の業火を思わせる熱とともに見下ろしていた。
隣にいるのは、昨日ハンリ達と一緒にいた少女だ。
そばかすの目立つその少女は、手に無骨な棍棒を持ち、早く振り下ろしたくてたまらないようだ。先ほどから予行練習のように掌に何度も打ち下ろしている。
最後にハンリ。
唯一この中ではほかの二人を諫めてくれているようだが、その手に握っているのはロープのようなものだ。まず間違いなく、あの罠を仕掛けたのはハンリなのだろう。
自分はこの天使たちの怒りを買い、そして裁きの時を迎えたというわけだ。
なるほど、それは神妙に判決を待つべきであろう。
圧倒的大多数の愚民であるのならば!
「小娘共に殺されてたまるかッ! フラァァッシュ!」
発生するはずの最強の目くらましは、バンバーシの唯一の抵抗手段は起動しない。
少女たちはただ、得意げな顔のままで固まるバンバーシを冷たい目で見下ろしている。
含まれているのは、潔さのかけらもない男であることへの軽蔑と、これから容赦なく処刑できるという安堵だ。
震える指先がフラッシュのボタンを何度も押し込むが、愛機は応えない。
死んでしまったかのように沈黙を保ったままだ。
「馬鹿ね! 手口はわかっているのだから破壊してあるわ! そのくだらない、ゲスの極みのようなしみったれを!」
「な、な、なんだとっ!? 貴様らには人の心というものがないのかっ!」
「あたしはオーテルビエル商会次期頭目ナンセシーラ・オーテルビエル! 人の心だけで商売はできないっ! そして敵には容赦しない! プライドを徹底的にへし折って、二度とは向かうことができないように!」
突きつけられた指は目の前。あと三十センチ進んだのならば、バンバーシの眼球を串刺しにできることだろう。
そして、ナンシーは必要ならば実行するだろう。それこそ、呼び鈴を押す程度の気軽さで。
「何がっ! 何が望みだというんだッ! 私の魂と言っても過言ではないカメラを破壊して、これ以上どんな苦痛を与えようというのだッ! 神をも恐れぬ行いだぞっ!」
唾を飛ばしながら叫ぶバンバーシは気づかない。
彼の視界の端にいた少女――ハンリの視線に。
「そもそもだっ! 私は大衆の求める行動をしているのだっ! 後ろ指をさされるいわれはないっ! これこそが神の示す模範的な――――あ」
頭を掴まれ、強制的に振り向かせられる。
込められた力は、強いわけではない。しかしながら、なぜか逆らうことができないほどの威圧感が、絶対の意思が、首の骨ごと掴んでいるかのように。
ハンリは笑う。
にっこりと。
本人はにっこりと笑ったつもりだったが、それは『双山刀マイディ』のものと同じぐらいには殺気立っていた。
「…………なにか?」
「神はそんな規範を示されていません」
その日、バンバーシは思い知った。
人は見かけによらない。
いや、この街にまともな者など存在していないということを。
「で、兎は干物になっちまった、と。お嬢様どもを怒らせたらどうなるのか身に染みただろ」
「干物になんかしてないよ! そんなひどいこと!」
「そうだな。もっとひでえや」
「そんなことなーいー!」
「へいへい」
新聞を広げていたスカリーは礼拝堂の片隅に視線をやる。
そこにいるのは、
「ひぃぃぃぃっ! 終わりました! 終わりましたから! だから解放してください!」
「はぁ? 何を言っているんですか? まだ終わってませんよ? 終わるわけないでしょう? 次は庭の手入れですよ! 終わるまで鎖は解きません。まあ、先に貴方の命が終わってしまうかもしれませんが」
「たすけてーーー!!!」
捕まったバンバーシは奉仕活動という名の使いっパシリにされ、ひどくげっそりとしていた。次から次に肉体労働を命じられているのだから当然なのだが、命があるだけもうけものだろう。将来的に失う可能性があることは否定しないが。
「さ、行きますよ。庭には山ほど穴を掘ってもらいます。山はできませんが。掘ったらそれを埋めてもらいます。一緒に埋まりますか? いいですよ」
「嫌だァーーーーーー!!」
引きずられていく兎人。それを心配そうに眺めるハンリ。
「そんなに心配なら解放してやれよ」
「それとこれは別問題」
「さようでございますか、お嬢様」




