サマーデイ・ウォッチャー・キャッチャー 6
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「フゥゥゥルァァァアア~~~~~シュ!」
ばっしゅん! 独特の音とともに強烈な光が発生! 直撃を受けた十数人は視界を奪われてしまい行動不能に陥る! だが! それで決まりはしない! 一割も減っていないのだから!
死体にたかる蟻のように、次から次へと手が伸びる!
「ぅぉのれっ! ジャーナリズムを理解しない愚民どもがっ!」
「テメエはただの変態だろうが!」「大人しくカネになりやがれ!」「撮った写真寄越せ!」「ハンリちゃんの写真寄越せ! まだ持ってるんだろ!」「今日の晩飯にしてやる!」「わたしも写真撮ってよ!」「とりあえず殴らせろ!」
各々の欲望を口にしながら群衆は迫ってくる!
怒涛のように押し寄せるその様に圧倒されそうにもなるが、折れそうになる心を奮い立たせて走り続ける。
給料四か月分にもなるカメラを壊されてしまう可能性だってあるだろう。
それだけは回避しなくてはならない。
野生の兎が捕食者から逃れるかのような全力逃走! 人間には追い付きようがない。
それでも追いすがってくる! 獲物を目にした肉食獣たちは止まることがない!
「今日この場で! 貴方を捕まえて! 二度とハンリの恥ずかしい写真なんて撮れないようにするわ! 知ってるの!? あれからハンリが遊んでくれないのよ! どうしてくれるのこのもやもやした思い!」
ナンシーが地団駄を踏みながらがなり立てるが、反論しているだけの余裕はない。
薄氷の上を全力疾走しているかのような、紙一重の攻防が続いているのだから。
しかし、形勢は徐々にバンバーシに傾いていた。
元々小柄な兎人が身をかがめて、地を這うような走り方をしたらどうなるのか?
捕まえるには腰をかがめるほかにない。当然、そのような体勢ではまともに力が入るはずもなく、視界も悪い。
そこを風のように疾走するバンバーシを捕まえようとするのならば、密集したハンターたちにお互いの接触に気を配るだけの余裕があろうはずもなく、次々に頭をぶつけやる気をなくすか逆上し、さらに接触回数を増やしていく。
形勢は不利。ナンシーはそう判断した。
それはつまり、第二段階に移行するタイミングになったということ。
この場は信頼する執事に任せ、壇上から華麗に飛び降りる。
物静かな老執事は、黙って頭を下げただけで何も言わない。
あと数分のうちに抜けるだろう。バンバーシはそのように確信していた。
すでに大半は明らかにやる気がない。残っているのも一般人ばかりであり、バンバーシを捕らえるだけの能力があるとは思えない。包囲網にもほころびが見えだしている。
問題はルートだ。
どちらに逃げるかの選択は非常に重要になってくる。その先に罠が張られている可能性だってあるのだから。
(ならば東に決まっている!)
蜥蜴族のテリトリーを一気に駆け抜けるのならば、追手もつかないだろう。わざわざ一級の危険地帯に入り込むのは余程の命知らずか腕前の二択だ。
三人の男たちをきりきり舞いにし、その背後に空いた空隙。それを逃しはしない。
「さらば愚民ども!」
放たれた矢のようにバンバーシは走る。
目で追うことさえも難しいような速度で。
反応できた少数も反射的に手を伸ばすが、掴んだのは空気だけ。
あっという間にゴマ粒のようになってしまった兎人の背を、眺めるしかできなかった。
「も……もう走れ……ない」
ゼエゼエと荒ぶる呼吸を整えようとしても一向に収まる気配はない。
どこまでやってきたのかも定かではないが、追手を巻いてしまったのは事実だろう。その証拠に、先ほどから聞こえてくるのは少女たちの戯れの声……!
むくむくと性欲、もといジャーナリズム精神が復活してくる。
我ながら職務遂行精神が旺盛だとは思うのだが、そういう生き方をしてしまっているのだから仕方がない。気高い思想を抑制できるのは、達成した時の充足感だけだ。
カメラの感触を確かめる。
苦楽を共にしてきた相棒は、しっかりとした感触を返してくれる。
いける。確信した。
昨日、偶然にも撮影した少女たちの楽園。その光景をもう一度!
兎人の優れた聴覚は位置把握にもその真価を発揮する。
バンバーシの耳はさながら第二の視覚と言っても過言ではない。
音の発生源はこの先に見えている川のほとり――――おそらくはこの暑さで水遊びに興じる天真爛漫な少女たちだ!
限界だったはずの足が不死鳥の様に復活し、活力がみなぎる。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおっ!」
疲労によって変なテンションに突入したバンバーシは雄たけびを上げながら突撃する。
川はすでに見えた! あとはベストの撮影ポジションを見つけるだけだ! その目星はついている!
滑り込むようにしてカメラを構え、ファインダーを覗く。
そこに移っているのは、やけに固い笑顔をしてはしゃぐ二人の少女だった。
(…………?)
首をひねったバンバーシはあることに気づく。
自分が滑り込んだ地面。そこに奇妙な模様が走っていることを。
いや、それは文様などではなかった。
「のわぁっ!?」
仕掛けられていた『網』が一瞬にして小柄な体をからめとり、川に引きずり込む。
抵抗しようにも、そんな余裕も全くなかった。
水に引きずり込まれる瞬間、カメラを心臓のように抱えつつ、バンバーシは息を止めた。




