サマーデイ・ウォッチャー・キャッチャー 1
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南部で続いていた熱波はいい加減に飽きたようで、次は北部に観光先を定めたようだ。
例年ならば初夏にもならないような、言い換えてしまえば過ごしやすいはずの気候が、今は灼熱と評?される真夏と大差ない状態であり、無法の街はちょっとしたサウナ状態になっていた。
当然、準備をしているような計画性のあるものがいようはずもなく、のんびり構えていた多くの住人たちは変化に対応しきれず、半裸で道に転がっては強盗に襲われるような退廃的都市と化していた。元々その傾向はあったが。
そして、バスコルディア教会もそれは大差ない。
「あづい~……うー……キンキンに冷えた水が飲みたい」
げんなりした顔のマイディはいつもの尼僧服ではない。
手足は派手に露出し、胴体を覆う布も下着と大差ない上、そのところどころには珠の汗。背中には二振りの山刀を背負っているのだから普段以上にシスターには見えない。
ゾンビのような足取りで教会内をうろつくその姿は、はっきり言って青少年の教育にはよろしくないのだろうが、そんなことを気にするような人間はココにはおらず、かといって発情して襲い掛かるような者もいなかった。
元々南部の出身で暑さ寒さの厳しい環境で過ごしてきてはいたのだが、今回ばかりは勝手が違っていた。
「なんですかこのジメジメ具合はぁ~~~。どこにいても蒸し風呂ですよこれじゃあ~~~」
湿度の高い海からの風が流れ込む季節に、例外的な猛暑。フラストレーションは上限知らずに高まっていく。
先ほどから涼のとれるなにかを探しているマイディだったが、都合よくそんなものは生えてきたりしない。奪ってくることはあっても。
そんな、今にも溶けて落ちそうな耳が黄色い声を捉えた。
まるで森の深奥、清浄なる泉で戯れる妖精の少女たちのような、涼やかで、可憐で、聞いたら鼓膜から浄化されてしまいような、そんな声が。
幻聴を疑う。あまりの厚さと不快指数の上昇具合によって、肉体よりも先に神経が参ってしまったという可能性。ありえるだろう。十分にあり得る。
そして、現実ではない可能性。突如として教会が異なる場所と繋がるなりなんなりの超常的な力によって移動した、もしくは移動してきたという妄想交じりの可能性。
前者はある程度の合理性を持っており、後者はもはや誇大妄想の領域だろう。信じるのは一つしかない。
「待っていてください妖精さんたち! 今すぐにわたくしの愛を注いであげましょう!」
もちろん、茹った頭は妄想を信じた。
弾丸のように一直線に(これは比喩ではない。窓を突き破った)駆け抜けたマイディは中庭に躍り出る。ガラスの破片で傷を負っていないのはどういった仕組みなのだろうか。性欲のなせる業なのか、それとも間違った神の加護か。
血走ったその眼が見たのは、まさに彼女にとっての桃源郷だった。
白魚のような儚さと細さが一体になった肉体にオレンジ色のワンピース水着を着ているのはハンリ。
水でも被ったのか、そのきめ細かな肌の上を細かな水滴が滑り落ち、水晶の粒をまぶした工芸品のように輝いている。浮かべているのは天真爛漫な笑みであり、ややもすれば虚弱さを強調してしまいそうな肌の白さを、極上の絹織物の領域へと高めている。
そのハンリにはしゃぎながら水をかけ続けているのはナンシー。
こちらは大人しめのハンリとは違って、かなり大胆に布を削減した色気のある赤の水着であり、さらには発育に関してはハンリの一歩も二歩も先にいっている。
当然、布地を下から押し上げる圧力は相当なものであり、この一点においてはマイディに勝るとも劣らない。はちきれんばかりの胸はたわわに実った南国の果実を思わせる。その中に詰まっているのはきっと芳醇な香りを放つ果汁ではなく、夢であろう。
そして、二人の隙を窺いつつ風船のようなものを持っているのはローザ。
身長は一番高いが、肌艶は二人に負ける。しかし、大胆にもほどがあるその水着は布面積がきわめて小さい。かなりきわどいラインまで布を削減したというか、きわどいラインだけを布で覆ったという風情の紫のビキニタイプだ。もはや下着よりも面積が少なそうだ。
纏う空気は一人前の女、だというのに、幼さの残る純粋無垢の笑顔とのアンバランスさが危うい魅力を醸し出しており、男どもは放っておかないだろう。
そんな少女たちが戯れる楽園が、確かに目の前に存在した。
自然に涙がこぼれる。
こんな幸福があっていいのだろうか?
これまでの自分に満ちていたのは、血と埃と悪意と謀略、ついでに多少の闘争心。そんな何についても鉄と硝煙の香りがへばりつくような最低のエピソードばかりだった。
だというのに、今ここにあるのは美しいモノだけだ。
きっと地上に使わされた天使たちはこうやって人間たちに啓蒙していたに違いない。今の様に光り輝いていたに違いない。だから宗教画の天使たちは輝いているのだ。美しいから。
無意識のうちにマイディはひざまづいて手を合わせていた。
あまりにも尊かったものだから。まぶしくて、そうしていないと目がつぶれてしまいそうだったから。
涙が頬を伝う。
この瞬間、生きていることに感謝している自分がいた。
今まで敵を殺し、苦難に立ち向かい、悪を誅殺し、善を助けるという気高い行為に対する神からの褒美だとも思った。
だから。
「美少女パッラダイス‼‼‼ 頂きますッ! うおおおおぉぉぉぉおおぉぉおおっっっ‼‼」
宣言とともに跳躍――――した瞬間、後頭部に鈍い衝撃が走り、視界がブラックアウトした。




