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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
火に飛びいる悪党ども 
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火に飛びいる悪党ども 7


 銃声(ツダゥン)


 放った弾丸は窓ガラスを突き破りながら部屋の中に飛び込み、おそらくは生物を損傷することなく壁に止められてしまったことだろう。特有の感触が――命中した時のなんとも言えない手ごたえがなかった。


 即座にジョルトは移動を開始する。

 姿の見えない相手との戦いならば、そして、お互いに命中できる距離ならば、射手は一発撃つごとに移動する。一度使用した場所は、すでに捕捉されていると考えたほうがいい。先に発見されるというのは、一撃で生死が決まる戦いにおいては大きすぎるハンデだ。


(向こうもそれはわかっているようだが)


 昨日今日の(こな)れ方ではない。こちらに位置は教えず、その上でこっちにはしっかりと弾丸を撃ち込んでくる。純粋な技量においては…………負けている。


(それは技量のハナシ。こっちにはアドバンテージがあるさ)


 すでに準備は整っている。

 小銃を抱えて上ってきたせいでかなり息は荒くなってしまったが、それでも無理矢理に整える。

 

 ジョルトがいるのは三階建ての屋上だ。ちらりと見た時は安っぽい集合住宅に見えたが、その正体はわからない。

 気にしたのはロケーションだ。

 ここならば、いまだ絡み合って地面で(うごめ)いている二人を見下ろし、なおかつ他を見下ろすことができる。

 

 照準をロッチョの近くに合わせ、発砲。

 細い土煙が上がり、地面が少しだけ(えぐ)れたのがわかる。

 そして、先ほどからだいたいのアタリをつけていた建物、その屋上に飛び出してきた人間がいた。


 一見したら線の細い優男といった風情。

 遠目に見ても、整った顔立ちだということはわかる。こんな命の取り合いなどではなく、舞台の上にでもいたらさぞ人気者になっていたことだろう。


 そこまで思考した時にはすでに、再装填は終わり、照準はその顔に合っている。

 優男がなにかを叫んだのが見え、引き金を引こうとした指が硬直する。


 男は、何も持っていなかった。

 おおよそ、武器といえるような代物は全く。

 それどころか、ご丁寧に白旗まで差していた。


 銃声(ツダゥン)


 胸に痛み。

 自分が撃ったのではない。

 たくらみに気づいた瞬間、乗せられてしまったのだという動揺が走った瞬間。

 ほんの一瞬の、思考の空白。

 そこに弾丸は滑り込んできた。

 急所を貫き、致命的な損傷をもたらし、ジョルトの命を刈り取っていた。


(ロ……チョ…………!)


 声は出ないが、最後のあがきに赤髪の頭を吹っ飛ばそうと、最後の力で踏みとどまる。

 視界はすでに半分ほど黒い霧に(おお)われている。

 それでも、あと一発は。抵抗程度は!


 銃声(ツダゥン)


 二回目の銃声は、陰気な男の額に穴を開け、そのまま空に向かって消えてしまった。

 二発の弾丸を受けた男は、ただ力なく倒れ、そのまま動かなくなった。





「どうだいスカリー? 僕は死なずにこの場所から去れそうかな」

 

 屋上の優男――ハークは特に気おくれすることもなく、下で小銃を構えているであろう人物に呼びかける。

 

「ああ。これ以上いても仕方ねえ。帰れ」


 声は背後からした。

 思わず浮かんでしまった笑みを隠そうともせずに振り返ると、それを見たスカリーは苦虫噛み潰したかのような顔になる。


「どういうツラだ。おめえの興味を引きそうなものなんぞありゃしねえぞ。それとも、死体解剖にでも興味が出てきたか?」

「いいや。キミの行動に興味がある」

「きつい冗談だ。例えるなら、『地面だと思ったら一面のゴキブリだった』ってとこだな」


 不機嫌そうに視線を逸らすスカリーを見ながら、ハークは笑みを崩さない。

 最初、手伝いを頼まれた時には断るつもりだったのだが、この男の珍しい反応を見ることができたのだから、今回の目標はしっかりと達成したと言ってもいい。

 むしろ、思った以上の収穫ともいえる。他人を頼ってまで、誰かを助けようとする姿が見れたのだから。


「ああ、向こうも決着がついたみたいだよ。やはり『双山刀』は強いね。僕もあれぐらいの腕っぷしがあったら違う生き方もできたかもしれない」


 下では、顔を青黒く変色させた肥満体の男の死体と、それに何度も蹴りを入れている尼僧服の女がいた。

 もちろん、片腕で絞め殺したマイディだ。

 そうとうに手間取ったらしく、癖のある赤髪はホコリにまみれ、あちこちがほつれてしまっている。それでも元気に動けるのは称賛に値するだろう。


「お姫様を迎えに行くかい?」

「どこの誰が?」


からかうような口調の問いに、スカリーは投げやりに答え、執念深く死体に蹴りを入れ続けているマイディのところに降りて行った。





「フンガー‼‼ このっ! ブタッ! 手間を! 取らせて! もう百遍(ひゃっぺん)死ね!」

「いい加減にしとけ野獣女」

「どぅあれが! 野獣ですかァ!? 殺す……ってあらスカリー。なんでここに?」

「…………気が変わってカネが欲しくなったんだ」


 理由としては成り立つ。

 しかしながら、聞いたマイディの顔が徐々に、徐々に、変化する。

 きょとんとしたモノから、にやにやと、いやらしさをふんだんに含んだ笑みに。


「あら? あらあらあら? もしかして、もしかしてなんですけどォ~~わたくしのこと『心配』になっちゃいましたァ?」

「…………おめえは何を言ってんだ?」

「ぷくくくくくっ! いいんですよぉう? 照れなくなってもォ~~そぉんなに心配だったんですかァ~~? わたくしのことが? かわいいとこあるじゃないですか⁉」


 何も答えない。もはや何を言って無駄だろうといわんばかりの態度で。

 沈黙を決め込んでしまったスカリーをこれ以上からかってもリスクが大きいと判断したマイディは、となりでニコニコしている優男に視線を移す。


「僕はハーク。今回はスカリーが頼み込んできたからキミの救助を手伝った。照れ屋は素直に言わないけど」

「ハーク!」

「ちょっとぉ~~~~! 大好きじゃないですか! わたくしのことぉ!」

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