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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
火に飛びいる悪党ども 
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火に飛びいる悪党ども 6


「くたばりなさい! このブタ!」

「オホホホホ! 何とも口の悪いシスター殿でありましょうか! 神は信徒の教育を(おろそ)かにされているようですなぁ! 神に代わって神罰を下して(しん)ぜましょうぞ!」


 ロッチョは地面にしっかりと足を着き、対してマイディは空中。圧倒的に有利なのはもちろんロッチョのほうだ。しかし!

 

「ニヤケ面のままで神を語ってはなりません!」


 ()えると同時に、武器同士の接触面を中心にして回転!

 しなやかな女の体と、戦士としてのボディコントロールがそれを可能にする!

 伸身宙返り(ムーンサルト)をしながら背後への着地と同時に山刀を突きだす。

 目の前の鈍そうな男には躱しようのない、研ぎ澄まされた一撃。

 だというのに、その刀身は何も捉えることはない!

 

 鈍重そうな見た目からは想像もできないような素早い動きによって、男は一瞬早く間合いの外へと逃げていたのだ。背面から襲ってきた一撃を、見もせずに躱す。戦闘技術はかなりものだろう。その口数の多さに比例するように。


「そんなことは想定済みですよ! 死ねえッ!」


 投擲(とうてき)

 片方の山刀を力の限りに全力で!


「その程度のかくし芸で仕留めることは!」


 回転しながら飛来する肉厚の刃を弾き飛ばし、ロッチョは瞠目する。

 まるで四足動物のような位置に赤髪が突っ込んできていた。

 すでに間合いには入っており、自分は振り上げた棍棒を叩きつけるだけでいい。それだけで頭蓋骨をカチ割って、中身を地面にぶちまけることができるだろう。

 研ぎ澄まされた反射神経は躊躇なくそれを実行する。

 二振りの原始的武器が唸りをあげて重力方向へと加速し――――叩いたのは地面だ!


 振り下ろされる一瞬、マイディは右方向に身をひねって避けていた。それはまるで水中の魚が天敵を発見したかのような、おおよそ人間の動きとしては想定外のモノ。

 全力で叩きつけたということは、それだけの隙を生じるということ。

 

 手元に残った一振りの山刀、その一撃のほうがロッチョが体勢を立て直すよりも早い!

 下から振りあがる必殺の刃。その軌道上に存在している肉も骨も臓器も一緒くたに斬り飛ばす一閃。

 ロッチョが死の覚悟をし、マイディが勝利を確信した瞬間、飛来した弾丸によって状況は変化する。


「がっ! ……このっ! どこから!?」

「……ほほっ! これはこれは! どうやら我々の団結力が貴女を上回ったようですなァ! 僥倖(ぎょうこう)……なんとも得難(えがた)い僥倖! 彼は姿を見せませんよ! それこそが得意分野でございますからな!」


 衝撃で吹っ飛んだマイディは体勢を立て直して傷の具合を推測する。

 弾丸は肩を貫通しているようだ。即座に戦闘不能になるような傷ではないが、それでもダメージは大きい。片手が使えなくなってしまったのも痛いが、絶好のチャンスを逃してしまったこと、そして二対一の状況、さらに、向こうの援軍がどこから撃ってきたのかがわからない。


「さあ、お嬢さん。幕引きにいたしましょう。大丈夫、惨たらしいことなどいたしませんよ。ただ、脳天を叩き潰しておくだけのことです。痛いのは一瞬……そう、ほんの(わず)か!」

「ベラベラベラベラとよくしゃべるブタですね。この街に法律はありませんが、ブタが勝手に出歩いてると、ぶっ殺されますよ? それはもう”ブッタ”切り」

「……お嬢さん、どうやらお互いに分かり合えないようだ。非常に気は進まないが、死んでもらおうかな」

「そううまくいくものでしょうな、ねッ!」


 言うが早いかマイディは再び駆ける。

 しかし、すでに山刀は投げ捨て、徒手空拳。

 片手は使えず、得物も持たず、ただ瞬発力に任せての突進!


 当然、ロッチョはそれを迎えうつ。

 接近戦になるのならばジョルトの援護射撃は期待できそうにもないが、手負いの女を始末するのにそんなものは必要ない。

 適当に殴ってやったらいいだけの話。実行するのになんの遠慮も存在しない。

 その考えは、突っ込んできたマイディによって覆される。


 膝への強烈なタックル! 

 棍棒をすり抜けるようにして、勢いそのままに引き倒し、そのまま絞め技へと移行する。


 おおよそ人間とは思えないような俊敏性と膂力によって一気に完成寸前まで持っていかれる。

 首を締め上げる腕は一本だけだというのに、全力で抗っているロッチョと均衡状態である。

 五倍は太いロッチョの腕二本と、マイディの細身の腕一本は互角であり、このままでは勝負がつかない状態になっている。

 それならば、決定するのは――――。




 組み合ってる男女の姿を観測しながらレバーを操作し、再装填(リロード)

 

(このまま放っておいても、ボスと俺は逃げられる――――が、ヤツを失うのはすこしばかり、もったいない。なら、女のほうには悪いが、死んでもらう)


 これから狙撃するというのに、心の中は静かなものだ。

 いつもそうだ。初めて人を撃った時からこれは変わらない。きっと自分が何かが欠けてしまっているのだろうと思う。


 だからこそ、表面上は人間らしくしていようと振舞ってきた。

 人間の様に奪い、人間の様に殺し、人間の様に見捨てる。

 今回は見捨てるほうが損するという計算に(もと)づいての行動だ。

 そう結論し、小銃(ライフル)の照準を合わせる。

 呼吸を整え、静かにトリガーを引こうとして、身を隠した。


 銃声。


 夜の闇を切り裂いて飛び込んできた弾丸は、さっきまでジョルトの頭があった位置を通過し、壁に穴を穿(うが)つ。

 直感に身を任せていなかったら、今頃、頭がザクロの様にはじけていたことだろう。

 方向はわかるが、相手の姿まではわからない。

 

「伏兵か」


 首の後ろにチリチリした感覚を覚えながら、ジョルトは微笑んだ。

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