火に飛びいる悪党ども 5
5
「突入してきた馬鹿どもはすべて死んだでしょう。あの爆発だ」
双眼鏡で様子を覗っていたジョルトの報告。それにカリドリンクは満足そうに頷く。
待機していた三人には伝えていない。金庫を開けた途端、中に仕掛けてあった爆弾が起動するということは。
「ちゃんとあの馬鹿三人もか?」
「ええ。これで分け前は三人分で済む。逃げるのにも都合がいい」
「しかし、本当に襲撃してくるとはな……どこからともなく情報は洩れるし、その情報が洩れたことを売りに来るやつもいる。この街には仁義もなにもありゃしねえ」
「同感です。ずらかったほうがいい」
つい昨日のことである。
彼らの動向が洩れ、襲撃が計画されていることを知らせに来た情報屋が知らせに来たのは。
知られていることにも驚いたが、それでしっかりと売り物にしようとする浅ましさも、図太さも、そして、カネに対する執着に驚く。
「おお! なんという運命の残酷さよ! もし神という存在がいるのだとしたら! なぜ我々のような善良なる市民に試練を与えたもうのか!? 原罪を背負った我々は、常に祈り、そして、嘆願しなければ生きる資格さえもないというのだろうか!? そうであるのならば! わたくしめの全力の逃走劇どうぞご照覧あれ!」
「………………」「………………」
つい先刻まで会話を交わしていた人間が吹っ飛んだというのに、この肥満男は全く調子が変わらない。
カリドリンクとジョルトは初めから使い捨てにするつもりだったのだから理解できるのだが、この男はあの三人とも非常に仲が良かったはずだ。つまらない話を延々としていたぐらいなのだから。
「ボス、向こうが騒ぎになっている間に脱出しましょう。混乱に乗じて」
常に冷静な側近の声にも緊張がにじんでいる。
この男が緊張するなどということは滅多にない――――最後に見たのは騎兵隊に追われたときだろうか。今回はもしかしたらそれ以上の危機かもしれない。
「その通り! 我々三人にできることは逃げることだけですぞ! 疾風のように駆け抜け、自由なるあの荒野に向かうのです! さながら逃避行中の悪漢と令嬢のように!」
「そうだな。カネは全部積んだな? 出発だ!」
この場にはふさわしくない、舞台上の役者の様に振る舞うロッチョ。
無言のままで馬に乗るジョルト。そして銃を引き抜いたままで手綱を握るカリドリンク。
三人の脱出劇が始まる。
無法の街からの、脱出が。
「なんで爆発すんだよッ! 待ち伏せられてたのか!?」
「それ以外にありませんよ。誰から情報買ったんですか? どうせアマチュアなんでしょう? 火をつけた人間が、『火がついている』という通報によって報奨金貰うみたいなものですね」
「……あのヤロウ! 次に見たら……手足を捥いで、蜥蜴族のケツに突っ込んでやるっ!」
「ま、すでに顔は変えてることでしょうけど……と、一緒に来ます? 今なら半分ゲットできますけど?」
一瞬何のことを言っているのか理解できなかった。
相手はこちらの動向を予測して、仲間ごとまとめて吹っ飛ばすような卑劣漢なのだ。
そんな相手がただ逃げるだけだとは思えない。おそらく、こちらへの対抗手段は用意しているだろうし、迎撃態勢も然りと整っているだろう。危険度は高い。
そんな状況に飛び込んでいくのは、たんなる――――、
「自殺志願者はあっちのほうですよ? やってきて精々一か月にもなってないヒヨッコ相手なんですから。楽しい楽しい狩りの時間です」
男は理解した。
なぜ『双山刀』が恐怖されている存在なのか。
たんなる暴力的な女だというのならば、こんなことにはならないだろう。
たんなる命知らずの女だというのならば、この状況で軽口など叩けいだろう。
たんなる考えなしの女だというのならば、身の毛のよだつほどの笑みを浮かべることはないだろう。
「そうですか。ギブアップならここで別れましょう。それでは」
凄絶な笑みを浮かべたまま、黒の尼僧服は獣のように駆け出した。
その先にある、血の宴の予感を残して。
人通りの少なくなってきた道を三匹の馬が駆ける。
乗り手の焦燥感がそのまま移ったかのように息は荒く、そのうちに走れなくなるだろうことは明白だ。
それでもいい。乗っている人間たちは、この街から脱出することができればいいのだから。
「……ボス、追ってきてるのが一人。馬にも乗っていないのにそのうちに追いつくでしょう」
呟くような序るとの声だったが、過敏になった神経にはやけに大きく聞こえる。
「ロッチョ! 足止めしろ!」
「仰せのままに! 出番が来たのならば役者は踊りましょうぞ!」
二つ返事で肥満の男は了承すると、馬を止め迎撃態勢に入る。
その目に映るのは見る見るうちに大きくなる黒い影。
正確には真っ赤な髪と瞳が、まるで鬼火のようにも見えた。
「カリドリンク強盗団、ロッチョ! 今夜のパートナーは貴女にございますかな!? 見事に踊っていただきましょう! 終わった後には盛大な拍手と、死体を囲んで祝杯を!」
影は、いやマイディは、『双山刀』は応える。
「こんばんわ! 死ね!」
躍りかかったマイディの二振りの山刀と、ロッチョの二振りの棍棒。四つの武器が打ち合わされ、戦いの幕は上がった。




