火に飛びいる悪党ども 4
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酒場はいつものように喧騒に包まれ、まだ日は高いというのに一角では酔っ払いが喧嘩をはじめ、止めようとする者もおらず、隣でカードに興じていた人間たちがわずかに顔をしかめている程度。
そんな場所に|尼僧服の女が入ってきたらどうなるか? 答えは火を見るよりも明らかだ。
「おいやめろっ! 『双山刀』だ! 皆殺しにされるぞ!」「俺たちまで殺される!」「やめてくれっ! 俺は関係ない! 教会に寄付をしたことはないけど! アンタの悪口いってなんかいないって! 本当だ!」「ずらかれずらかれ!」
一気に静かになった。
その様子を見て、入ってきた女――マイディはやや頬を引きつらせる。
「おっかしいですね……わたくし、いつからこんな扱いになってしまったんですか?」
「そりゃお前さん何度も大暴れしてるからな。ついでに相棒のほうも有名人だ」
「あら、だったら今度スカリーにはもっと大人しくしてもらうように説得しておいてみます。風評被害ですからね」
一切悪びれない様子に、声をかけたマスターは苦笑を返しながら黙ってボトルを置く。
女性に出すようなアルコール度数ではないが、水のように消費することを知っていた。
しかし、
「今日は”そっち”じゃないんですよね」
ボトルを押しのけながらマイディは顔を寄せる。
もちろん、それは愛の告白などのためではない。
「二階の五号室」
「これは感謝しますよ、と」
一枚の金貨を置きながら、軽やかな足取りでマイディは二階への階段へと向かう。
これから始まる血とカネの匂いに、心躍らせながら。
「ねぐらはわかってる……そして、夜には全員が戻ってくるのも分かってる。カネはまだ金貨に変えてない分もあるが、大半は金貨だ。情報が正しいのなら――おおよそ八百」
室内にいる男たちに緊張の色が走る。
かなりの大金だ。全員で山分けしても、贅沢しなければ数年遊んで暮らせるほどの額。
彼らのようなどの勢力にも属していないようなチンピラにとっては一生手にすることはないだろう。このチャンスを逃してしまったのならば。
ちらり、と一人が一番新しい参加者に視線を送る。
つられるように二人、三人と。やがて全員が彼女に注目する。
「なんですか? わたくしの美しい顔に見惚れてしまいましたか?」
「……いや、アンタも一枚噛むつもりなのか?」
「問題でも?」
「……いや、ない」
山分けにすることに関してはすでに同意してもらった。
ならば、戦力が増強されることはうれしいことなのだが、一抹の不安はある。
(カネを手に入れた瞬間、俺たち全員を皆殺しにかからねえか?)
噂はいくらでも聞いている。耳を塞いでも無理矢理に侵入してくるぐらいには。
(いざというときには――――全員で一斉にだ)
ほかの男たちに視線を送ってみると、どうやら同じような考えに至ったらしく、同意の顔になってくれた。
発起人の男は深く息を吐き、覚悟を決める。
「それじゃあ、役割分担を決めよう。俺たちは全部で八人。やつらは六人。数は勝ってる上に、襲撃のタイミングはこっちが決める。負けるはずがねえ」
日が暮れれば当然視界は悪くなる。それは潜伏者にとっては都合がいいことだが、襲撃者にとっても都合がいいことだ。
突入役はすでに位置についている。合図があればいつでも獲物に鉛玉の雨が降ることだろう。
計画者の男とマイディは外で逃げ出してきた者を仕留める役目に回っている。
本人は突入したがったのだが、何度も懇願してこちらに回ってもらったのだ。
下手に暴れられてしまったら自分たちの命のほうが危ないし、宿まで全壊にしてしまったらその後の処理がこじれる。
「退屈ですねぇ」
「仕事は退屈のままに終わってくれるにこしたことはねえ。刺激なんてモンを求めるのは若造か自殺志願者だけだろ」
「わたくしは刺激に満ちた人生を送ったうえで大往生する計画ですけど?」
「……あんたはそうだろうな」
マイディとの会話に男は大分参っていた。
もともと、あまり関わり合いになりたくないのだから、とっとと済ませてしまうことにする。
手を挙げて合図。
ドアと窓、両方から一気に四人が突入し、中に潜んでいる強盗団を一網打尽にする。
ある程度の被害は出るだろうが、その分取り分は大きくしている。
銃声銃声銃声! そして怒鳴り声。
騒音はすぐに止んだ。
襲撃の予想などしていなかった犠牲者たちは、おそらく全員が死傷したことだろう。
バスコルディアに慣れていない人間など、物の数ではない。
そう思った。
ゆえに、戦果を確認するために男は歩き出そうとして――、
「いま近寄ったら死にますよ」「ぐぇ!」
無理矢理に襟首を掴まれ、引きもどされる。
犯人はわかっていた。
「何をしやがる双山刀!」
威嚇するように怒鳴りつけてみるが、マイディの表情は変わらない。
どこかつまらなさそうに、いつものことだとばかりに。
全く説明しようとしないことに腹を立て、今度は殴りつけてやろうと男が拳を握った瞬間、宿が轟音を立てて爆発した。




