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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
火に飛びいる悪党ども 
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火に飛びいる悪党ども 3


「確かに200000ダール。じゃあ手数料引いて金貨で180ね。この札持って奥に行って。金庫番が出してくれるから」


 事務的に告げる店主の顔に全く動揺はなく、簡単な数式の解を示しただけのように中断していた帳簿の整理にとりかかった。


「おい! いくら何でもぼったくりだろうが!? たかが両替程度に取り分を欲張るんじゃねえよ!」


 通常ならば、手数料は数パーセント程度。それが今回は実に一割という暴利なのだから、カリドリンクの怒りももっともだ。

 怒りはすぐに顔に現れ、火に()けた肌に朱色を追加していく。

 今すぐにでも拳銃を引き抜いて店主の顔に突きつけそうな顔貌だ。

 それでも、やせぎすの店主は動揺することはない。

 

「条件が気に入らないなら他行って。どこもこんなもんだけどね。このカネの出所を問わない代わりに、こっちは手数料を上乗せする。そういうもんだからね。……あと、その物騒なモノ使うのはおすすめしないよ」

「そのスカした面の真ん中に一発ぶち込んでやったら減らず口も減るのか!? エェッ!?」


 何人もの命を奪ってきた相棒を引き抜こうとした手は動かない。

 後ろで控えていた陰気な男がいつの間にか抑えているからだ。


「ジョルト!」

「ボス……抜いたら、死にます。ここにいる限りは」

「何を言ってやがる! 離せっ!」


 ジョルトと呼ばれた陰気な男は黙って店の奥を指さす。

 薄暗いそこにいるのは、小銃を構えた少年だった。

 距離があるといっても、せいぜいが十数メートル。必中を確信するには十分な距離。

 もし、カリドリンクが衝動のままに引き金を引こうとしたのならば、おそらく目的は達成されず、自分の頭が吹っ飛ばされることになっていただろう。


 忌々(いまいま)しそうに悪態をつきながらゆっくりと拳銃から手を放し、カリドリンクは(つば)を吐き捨てる。伊達に今まで生き残っているわけではなく、いざとなったら自身を制御することができるのが彼の強みだ。


「失礼した。金貨は奥の彼から受け取ったらいいだろうか?」

「そうしてほしいね。妙な気を起こさないこと。この街で無事にいたいならね」


 カリドリンクがまた血を上らせないうちに用事を済ませることにした。

 なにより、いつまでも銃口を向けられているのはいい気分がしないのだから。




「ねぇ、オニィさん……明日も来てよねぇ? アタシ待ってるんだからぁ」

「へへ……わかってるって。俺も来たいのはやまやまなんだけどよ、いろいろと事情があるんだ。……色々とな」


 腕を絡めてくる娼婦にだらしない顔を向けながら、現在潜伏中のはずのカリドリンク強盗団の一人、ビスコーははぐらかす。

 鼻にかかった声で「どんな事情なのぉ?」と飛んでくる質問をかわしながら、男はねぐらのほうへと歩き出す。


 一仕事終わってカネが手に入ったといっても、それだけで大人しくし続けることはできない。ある程度の息抜きは必要になってくるし、ずっと籠っていると高まりつづけるストレスによってどんな奇行に走るのか想像もできない。

 ただでさえ警察やら保安官やらから追われる身になっているのに、バスコルディアの住人までもを敵に回すのは自殺行為だ。


 ゆえに許容されている。

 交代で一人ずつ、外出することが。


「ボスとジョルトは例外みたいだけど、な」


 不満はあるが、抗議しても歯が折れるほどに殴られるのがオチだろう。ボスの容赦なさはしっかりと身に染みている。ヘマをやって足腰立たなくされてしまったやつを何人も見てきた。


 外出の制限時間が迫ってくるのを感じながら、ビスコ―は足を早めた。


「なかなかイケる! この街は油断してるとぼったくってくるけどよぉ、少なくとも食い物はウマイ! 女の揃えもいい! ここに住んでもいいかもな! 今回の分け前を元手に商売をしてもいい!」


 いつものように考えなしのポカウィの言葉。いつもこのさえないひょうきんものは、影響されてろくなことをしない。今はまだ考えの段階らしいが、釘をさしておく必要があるだろう。


「ポカウィ、まだ分け前も全部はもらってないのに気が早いんじゃねえのか? あんまり馬鹿いってるとボスに殴られるぞ」

「ビスコー……希望のない男はこれだからダメなんだ。いいか? 強盗稼業なんてのは長く続けられるもんじゃない! 潮時ってやつを見極めるのが大事なんだ! それがわからないのなら、お前さんも長くないな」

「長くないのはお前のほうだろ。食っちゃ寝食っちゃ寝しやがって。ロッチョみたいになるぞ」

「別にいいさ。太ってるほうがウケはいい。やせっぽちがもてはやされるのは乞食だけだからな! 男も女も必要なのは肉さ!」


 終着点が見えない会話を続けながら、二人は拳銃の撃鉄を起こす。

 ドアの前に気配を感じた。

 仲間の可能性はあるが、場所を嗅ぎつけた追手の可能性もある。


 ノック、ノック、ノック。


 「開けな」


 ノック。


 最後のノックを聞いて、二人は同時に銃を降ろす。

 二回に分かれたノック。これが合図なのだから。


 開いたドアの向こうにいたのは、顔に傷のある男――セレア。


「明日、ボスとジョルトが再び出かける。俺たちはおとなしくお留守番だ」


 セレアが持ってきたのは、あまりうれしくない知らせだった。

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