火に飛びいる悪党ども 2
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「儲け話とか、ないんですかぁ~~~~? ねぇ、ス・カ・リィ~~わたくし、最近懐事情が北極並みに寒いんですけど? こんないたいけなわたくしって、可愛そうじゃないですか? 救ってあげたいと思いませんか? 思いますよね! お金ください!」
「いい案がある。俺もおめえも大層ハッピーになる名案だ。まずそのへんで通行人を殴る。次に殴ったやつの手当てをする。手当をしたら手当代を請求する。な? 完璧だろ。おめえはカネを手に入れる。俺はおめえに絡まれなくて済む。殴れられる通行人が気の毒だが、この街ならよくあることだ」
「それは名案。さっそく実行してきましょう」
同意しつつもマイディは出ていこうとはしない。
いつもの礼拝堂。長椅子にだらしなく寝そべっているスカリーの前からは微動だにしない。
「どうした赤貧やせっぽち女。辻斬りならぬ辻説法でもかましてこい。教会の人間はそういうの得意だろ? 善意と教義と規則を押し売って寄付を信仰をねだってきな。ま、おめえはどれも持ってねえから売れやしねえけどな、はン」
「寛大なわたくしは今の発言を水に流してあげましょう。その代わりにネタを提供してくださいぉ~~今月ほんとピンチなんですって!」
「……しつけぇな。ねえよそんなもん」
「嘘つき! 知ってるんですからねっ! でかいヤマをこなした強盗団がこの街に潜り込んでる噂を!」
「……噂?」
聞いたこともない。
「これですよこれっ! 奪った金額はなんと1000000ダール! 金貨にして一千枚! ここしばらくなかったほどの大事件!」
広げられた手配書に描かれているのは五十代ぐらいの男。凶悪な人相をしている。
書かれた罪状は駅馬車強盗。追記されている金額は確かに言ったとおりのモノ。
「ほう、たしかに上手くやったみたいだが……噂は噂。わざわざここに逃げ込むか? ミイラ取りがミイラどころかオオカミに見つかった羊になるだろ」
「ちっちっちっ! こいつらの犯行現場はかなり近いんですよ? 奪った金は莫大な額! なのに行き先不明の雲隠れ! となると結論は一つしかありません!」
筋は通っている。信憑性は高い。
それでも動く気にはなれない。
「どうやって探す?。バスコルディア全部をしらみつぶしにか? 何十年かかるとお考えなのやら。その間にカネも命も尽きちまわぁ」
「独自のルートとかで情報は仕入れていないんですか?」
「だったら昼寝なんてしてるか?」
「知ってそうな人物とかの心当たりは?」
「…………ねえな」
嘘である。
心当たりがあった。
こういうときに真っ先に掴んでそうな人物の心当たりが。
当人はそういったことに全く興味がないので先回りされることはないだろうが、余り頼りたくない人物ではある。
別段、嫌味を言われるとか、吹っ掛けられるとか、いきなり狂暴化して襲ってくるとかではない。そういった次元とは違う理由で避けたい人物なのだ。
「ふーん。ま、言いたくないんなら仕方ありませんね。無理矢理に聞き出してもしょうがないですし。あーあ、楽して儲けたかったんですけどねぇ」
「地道にやりなよ、シスター。神もそうおっしゃってるに違いねえ」
「神はいつでも成果主義ですよ。善行には賞賛を、悪徳には鉄槌を。そして、わたくしには美少年少女のハーレムを」
「妄想の罪とかねぇかな……あるんだったら喜んで神罰を代行してやるぜ」
口を閉じたスカリーに嘆息し、この話は終わった。この時は。
「オウオウオウオウ。まったくむさくるしいことこの上ない! いい年した男どもが狭い部屋でぎゅうぎゅう詰め! これじゃまるで奴隷船! なぜこのように困難が我々に降り注ぐのか!? 夏のアリのように働いて、冬の蜂の様に死んでいくっ! これが人生という舞台に上がった役者に対する仕打ちなのか? なんという無情! 監督は何をしている!? 予算を分捕るよりもやることがあるだろう!」
朗々とした、まるで英雄譚を謳いあげるような様子で、でっぷりと太った男が入ってくる。
薄暗い部屋の中で暇そうにしていた男たちは一瞬だけ視線を向けるが、何も持っていないことを確認すると、つまらなさそうに作業に戻った。
駅馬車を襲った――カリドリンク強盗団の面々は現在、バスコルディアの宿の一つに部屋を借りて潜伏し、ほとぼりが冷めるのを待ってた。
期間は特に定めていないが、動きやすくなるまではおとなしくしているつもりだ。
「ロッチョさんよ……毎度台本でも買ってるのか? 舞台にでも上がるか、詩人にでもなったほうがいいんじゃないか? 駅馬車強盗なんてやってるよりよっぽど向いてるぜ」
からかうような口調――発した男の顔には大きな傷がある。
「これは恐悦至極この上なし! しかしながらこのわたくしめ! ロッチョという名を団長から拝しておりますからには誠心誠意、命尽きるときまで強盗稼業に邁進していく所存!」
「そりゃなんとも……腹の脂肪だけじゃなくて仁義にも厚いもんだ」
「その通り! いざとなったらこの脂肪は皆様の血となり肉となり盾となり! 文字通り血を流すことになりましょうぞ!」
皮肉を言ったつもりが歯牙にもかけられなかった男は帽子を深くかぶりなおし、椅子にもたれなおす。他の男も同様になるべく視界にいれないように視線を伏せる。
男達はこの陽気な肥満者が苦手なのだ。
いつもにこやかにしておきながら、銃を抜いた時には一切の躊躇はなく、殺し方も相手に同情してしまうほどに残虐だからだ。しかもかなりの薬物中毒者であり、気が付いたらパイプに奇妙な葉っぱを詰めて喫っている。
とっつきやすそうな外見に反して、その実かなりの危険人物。それがロッチョという男なのだ。
そんなロッチョはぐるぐるとわざとらしいほどの大仰さで室内を見渡すと、
「おんや!? ボスとジョルト殿はいったいいずこへ? まさか我々を置いて新天地へと旅立ってしまったのでありましょうか!? これは悲しい! 残された我々はいったいどうしたらいいのでしょう? それともこれは何かしらの示唆に富んだメッセージなのでしょうか⁉ おお、神よ! どうかこの迷える子豚にお教えください!」
ひとしきり騒いだ後、とうとう意味不明の祈りらしきものをささげ始めたロッチョにしびれを切らし、顔に傷のある男が立ち上がる。
「ボスとクーリックは出かけた! アンタも夜になるまで出かけてたほうがいいんじゃないのか? 俺たちが参っちまう!」
「出かけた? ああ! 情報収集ですな! 大事ですからなぁ、情報収集! なんといっても下調べ! これはわたくしめがかの悪名とどろく賞金稼ぎ『鉄腕クリス』を返り討ちにした時のハナシなのですが――――」
再び始まった一人語りにうんざりして、男たちは各々聞こえないように工夫しだした。
背は低いががっちりした五十代ぐらいの男と、長身痩躯で陰気な男。
堂々と武装したそんな二人が歩いているのならば、普通は通行人も避けて通りそうなものだが、バスコルディアでは違っている。ごく普通に、風景の一部とでも言わんばかりに、ごく自然なものとして受け入れられ、特に気にされることはない。
目立ちたくない人間には好都合だが、勝手の違いに多少の戸惑いを覚える。
「ボス……よかったのですか? 今頃ほかのやつらはロッチョに辟易してますよ」
「いいんだよ。普段使えねぇぶん、せめて阿呆のたわごとを聞き流すぐらいのことはやってもらわないと困る。ほっといたら際限なくしゃべるからな、あの豚は」
「同感です。ヤツ一人で三人分ぐらいの働きはする」
「飯も三人分食うがな。がハハハハハハハッ!」
豪快に笑うボス――カリドリンク=マーゲンハイヤーは視界の端に目的の店を発見し、足を止めた。
天秤と袋が描かれた看板の下には<両替屋>という文字が記されていた。




