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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
デッド・オア・クック
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デッド・オア・クック 8


『余計な言葉なんて邪魔なだけだろもうすでにッ! 準備はできてるだろとっくのとうにッ! やることは一つしかねぇだろ!? 見てるだけじゃ面白くない! 一緒に馬鹿みたいに騒いでみやがれッ! 今日この場で決まるのは! いっとうまずい料理を作るやつ! どいつもこいつも見ただけで終わるなよっ⁉ 食ってみるまで分からないッ! この地獄のすさまじさ~~~~~~~~!! 決勝戦だァ!』


 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオ!

 

 歓声は小さくなっている。

 なぜならば、『そんなにマズいはずがない』と考えた者が準決勝の余りを食ったからだ。

 当然全員が倒れ、その分だけ上がる声は減っている。それでも、変な熱狂はますます強くなり、賭け金は膨れ上がり、酒は飛ぶように売れている。


『かたや執念の料理人! フツーはウマい飯を作るのが料理人の仕事だがァ! 何を間違ったのか蜥蜴族用の飯をこさえて幾星霜! この男は人間用の料理の作り方を忘れてしまったァ~~~! ボリドニア・クークレ―~~~~~~~‼‼』

『対して! 見た目は少女! だけど中身は超絶やべえなっ!? やっぱりヤバいやつとつるんでいるようなやつはヤバかったぁ~~~~~~! ハンリ~~~~~~‼』

『泣いても笑っても死んでも生き返ってもこれが最後の勝負っ! お互いに全力尽くして頑張りなっ! 優勝者には豪華なご褒美(ほうび)っ! 敗者が得るのは屈辱(くつじょく)だけの! オールオアナッシング! はじめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼‼』


 決勝戦はいままでとは少し違っている。

 試合会場内部に、幕で囲われたペースが設置されているのだ。

 調理はここで行われる。さらに、料理人が選んだ食材はすでに運び込まれている。

 相手がどのような料理を作っているのかを知るすべはなく、自身も細工を見られることはない。

 なんなら、毒を混入することも可能だろう。試食で耐えることができるのならば。

 

(そんな勝ち方はしない!)


 声には出さずに叫びながらボリドニアは包丁を握る。

 曲がりなりにも料理人だ。

 人間用ではなく蜥蜴族専門ではあるのだが、それでも彼には誇りがある。

 正々堂々マズさによって勝利する。それが参加するにあたって課した信念なのだから。


(あの少女はおそらく、辛みに対する味覚が非常に鈍いか――死んでいる。今回も中核になってくるのは『辛み』! おなじ土俵に立っても負けるだけ。ならばこちらも得意で勝負させてもらおう!)


 燃え盛る料理人魂を感じながら、『とっておき』の食材が入った箱を開ける。ぎっちりと詰まったそれは、まるで宝石のように輝いていた。


 料理器具を並べながら、ハンリは最後の調理にとりかかる。

 この大会に参加したのはナンシーから頼まれたからだ。


「我がオーテルビエル商会の新商品宣伝のため出てほしいの! お願い! 準備は全部こっちでやるから! 道具も食材も服も! この通り!」


 余りにも必死だったので思わず承諾(しょうだく)してしまったのだが、新しい服も手に入ったのでむしろ得したような気分だった。なぜかナンシーはやたらに写真を撮りたがったが。

 理由はそれだけではない。


「優勝賞金……! 金貨で100!」


 一応、実家から金銭の援助はあるのだが、それにずっと頼るのはあまり良いとは思えないし、かつて受けた啓蒙(けいもう)に対しての答えでもあるのだ。


「わたしのせいで誰かが死ぬなら、それ以上に救ってみせる」


 参加者は全員辛い料理を食べるのが何よりも幸福な、辛みジャンキーだということはナンシーから聞いてる。とびっきりの辛い料理のために、生死を賭けてもいいぐらいに。

 それが最後の一押しになった。

 マイディをノックアウトしてしまって以来、教会において食事を作ることを禁止されてきたのだが、外でなら問題ないだろう。


「いつまでもお嬢様じゃ、ない!」


 今回こそは、いつも小馬鹿にしてくるスカリーの鼻を明かしてやるつもりだ。

 たまには反撃してもいいだろう。こっちは雇い主みたいなものなんだから。

 意地の悪い笑みを浮かべつつ、少女はボウルを取り出した。




「……! なんか寒気がしてきた。おい、このワイヤー外せ。俺はとっとと逃げる。断言してもいいが、こっちまで被害を被ることになるぜ」

『何をおっしゃる解説席! この期に及ん臆病風(おくびょうかぜ)に吹かれたのかァ~~~~! コイツはは傑作! あの『剣弾』がビビってるぅ! 『俺はお前らよりも賢いんだぜ』って普段からアピールしてるこの男の正体はっ! ノミの心臓を持った人間だったァ~~~~! 明日の新聞の見出しが決まってしまったぜ! おい誰か新聞記者探せっ! どっかにいるはずだから!』

 

 実況は煽ってくるが、マイクを握るその手がかすかにふるえていることを見逃すスカリーはではない。こっそりと、観客には聞こえないようにしてささやく。


(正直になれよ。おめえもうすうす感づいてるんだろ? このまま行くと決勝はドローの可能性がある。なら、どうやって優勝を決めるんだ? ”観客をノックアウトした数”になってくるんじゃねえのか? このままだと、俺もお前も”味わう”ことになるぜ?)

(わかってますよそんなこと! こっちだって馬鹿じゃないんだ! こういう時に巻き込まれるのは知ってるさ! だが、逃げ出そうもんなら何をされるのかわからない!)


 この男もなんらかのしがらみとか、利害とか、そういう代物に縛られてしまっている。それがわかっただけでもちょっとした成果。そう捉える。


(おいおい。何言ってるんだ? おめえはいつの間にか拘束を解いた『剣弾』に人質として連れていかれるんだ? そうだろう?)

(…………!)


 男が息を呑むのがわかった。

 これはいける。もう一押ししてやったらあっけなく陥落することだろう。所詮一番かわいいのは自分なのだ。この街の住人ならば特に。


(誰に頼まれたのか知らねえがよ……自分の命よりも大事なのか? 死んだらハイさよなら。ウマいものも食えねえ、女も抱けねえ、残るとしても墓石に刻まれた名前だけ。それでいいのか? いいんなら勝手にしな)

(お、お、お……!)


 苦悩しているが、結果はわかってる。

 この男は、即決を避けることによって『自分が苦渋の決断の末に選択した』、という言い訳が欲しいだけだ。結局のところ、保身のために、自己弁護のために悩んでいる――ようなふりをしている。本心はすでに決まているというのに。それが自覚的かどうかはさておくとして。


「あ、アンタと……」


 王手はかかり、あとは投了の宣言待ち、そして白旗が上がる瞬間、料理上の幕が同時に上がった。


『こ、こぉれはぁ! やっと上がった最終決戦の舞台幕! お楽しみは最後の最後までもったいぶって焦らして焦らして一気にドーン! それが楽しみ方ってやつだろッ!? そんな作法はわかってるに決まってるじゃねえぇか! そんなわけでいよいよ出てくる最凶の料理! 待っているのは最悪の調味! 観戦者は驚きで狂喜! そんな決勝戦~~~~~だぁ~~~~~~!』


 実況の性なのか、それとも仕事に対する義務感なのか、実況は反射的に声を張り上げていた。それが選択だということに気が付いたのは、隣に座るスカリーがすでにあきらめムードに突入し、素直に解説を始めたからだ。


「どっちもかなりのヤバい神経してやがるからな。もしかしたら、だが……死人がでるぜ。注目すべきは、お互いの攻めるポイントだな。何に重点を置いて調理してきたのか。そのあたりも見ておきたいもんだ。冥土の土産にはちょうどいい笑い話になりそうだからな」


 最後の蓋が開く。

 おそらくは人類が初めて遭遇する悪意。

 マズいを追及するというよくわからない悪意の蓋が。

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