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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
デッド・オア・クック
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デッド・オア・クック 7


『さあとっとと開けやがれっ! 目の前にある地獄の(かま)の蓋をよォ! お前らの息の根を止めるかもしれない最悪の代物の封印をっ!』


 二回戦第二試合にして最終戦。

 片方はハンリ。もう片方はどうやら農夫か元農夫らしく、作業着の男。名前は確か――。


『クォンタイン選手のこれはなんだぁ!? 豆のパイかァ~~~~!? しかし! 見た目が真っ赤ぁ! 見た目だけでわかるっ! こいつぁめちゃくちゃ辛いやつぅ! 対するハンリ選手の料理はぁ~~~~~? こっちはガレットかァ! 使っているのは芋! 見た目は普通だァ! しかしこの少女の作った代物の破壊力はすでに証明されているぞぉ! 見くびったら痛い目見るぜぇ!』

「豆のほうは……レッドボムビーンズか? 砂漠地帯で育つ豆だな。口に含んだだけで(しび)れちまうような代物だったような気がするな。ハンリのほうはわからん。普通のジャガイモなんぞ使ってるわけないんだが」

『とっとと試食しやがれぇ~~~~~~!』


 迷うことなく少女と農夫は自分の料理を一口食べ、ハンリはにっこりと、クォンタインは多少の無理をした笑顔を浮かべる。


『すでに勝敗が決定してるような気もするがぁ! いざ、実しょ~~~~~~く!』


 この時、すでにクォンタインは勝利を確信していた。

 なぜならば、使用したレッドボムビーンズは限りなく毒物に近い植物なのだから。

 本来、ごく少量を気付けに使うのが正しい使用法だ。

 食料の少ない砂漠の生物の中には、この真っ赤な豆を食らう存在がいない。

 過酷な環境の砂漠にあっても、手を出せば確実な死が待っているほどの危険物。当然のように採取も万全の注意を払う必要があるのだ。

 

 男はそれを生業(なりわい)にしていた。

 常人よりもはるかに耐性をつけている。

 それが辛みに対するものだということに気が付いたのはごく最近。それでも、自分の人生そのものであると思ってきた。


(こんなガキに負けるような鍛え方はしてねえ!)


 横にいる少女は、一回戦において『辛み』によって勝利した。おそらく、負けることなど考えもしてないだろう。自分よりも強い人間がいることを想像もしていないだろう。

 命を賭けて食らい、その結果、生死の境をさまよった経験などないのだろう。

 ならば教えてやろう。本当の『辛さ』というモノを! 勝負の厳しさを!


 目の前のガレットは普通に見えるが、自分にはわかる。

 使われているのはスティンガー・ポテト。食べれば口の中を刺されるような痛みが走る恐るべき食材だ。はっきり言って食用にしていいものではないが、それでも一部の爬虫類が食べることは知っている。

 食べられない食材と、食べられる食材。

 勝負はあった。


 余裕の笑みを浮かべながらガレットを切り取り、口に運び咀嚼(そしゃく)して――――中で太陽が生まれた。


「ぐべぇァァァァァァァァァァァァァァァッッ‼‼‼‼」


『クォンタイン選手絶叫~~~~~! ハンリ選手は余裕だァ! これは勝負あったか!? 早くも一口目で決まってしまうのかぁ~~~~!? いや! 意地を見せたぞこの男っ! まだ立っている! 立っているぞクォンタイン! がんばれがんばれ! 君ならできる! あと一口行ってみよう! ハンリ選手もいってみよう!』


 ハンリは首をかしげながら普通に、クォンタインは息も絶え絶えに、二口目に挑む。

 

 すでにクォンタインの口中は限界であった。いや、すでに限界はとっくに通り過ぎ、その先にある超えてはいけないラインを今にも超えそうだ。

 頭は混乱するが、何一つとして答えは得られない。

 自分は一体なにを食わされたのか? ただのスティンガー・ポテトではなかったのか? あの少女はなぜ平然としているのか? 自分は、自分は、自分は――――――。


 二回目のガレットを噛んだ瞬間、今度は太陽が爆発した。


『決~~~~~~~~~着ぅ~~~~~~~~! 勝者ハンリ選手! 圧倒的! 圧倒的な勝利! 見た目は少女! 中身は悪魔! その舌はいったい何できているんだァ!? もしかして人間じゃないのかなぁ⁉ おれはそれでも大歓迎だい!』

「末恐ろしいもんだ」

『しかぁし! 一体何が起こったのでしょうか? ハンリ選手の圧倒的な強さは何に支えられているのでしょうかァ!?』


「ふっ! それはあたしが教えてあげる!」


 実況席の後ろ、分厚い壁の上に見慣れた人物がふんぞり返っていた。


「オーテルビエルの嬢ちゃん、スカートでそんなとこにいたら下着が見えるぞ」

「問題ないわっ! 我がオーテルビエル商会の新商品だから! 全く問題ないわ! むしろ見てもらわないと困るのっ! つまり! 見せつけてるのっ!」


 ナンセシーラ・オーテルビエルがいた。傍らにはいつものように執事を連れて。


「今回、ハンリには我がオーテルビエル商会がバックアップしてるわ! もちろん! すべて一級品を取り揃えて! 今回使用したのはスティンガー・ポテトとヘルペッパースパイスの新作! なんと透明に仕上げた上に辛さは四十倍近くまで上昇してるわ! 最新兵器に搭載予定だったけど、コネを使って手に入れたのよっ! 我がオーテルビエル商会に手に入らないものはないわっ!」


 得意げに恐ろしいことを言っているが、(とが)める者はない。

 それどころか、『あの商会は使えるかもしれない』とばかりに目を爛々(らんらん)を輝かせている者がかなりいた。

 最新兵器搭載予定の品を手に入れる――それはつまり、軍にコネがあるということだ。

 ならば、そのほかも――つまり流通している武器の入手にも自信があるだろう。

 通りを歩けば火種に遭遇するようなバスコルディアではかなり耳寄りな情報だ。


『ハンリ選手の強さはオーテルビエル商会のバックアップあってのモノだったぁ~~~! 卑怯とは言うまいなっ! 相手を殺さないのならば何でもありだっ! そんなことはこの街ならば当たり前っ! 知恵をつかわねぇやつが悪いんだっ! これはわからなくなってきたぁ! ハンリ選手かボリニドア選手か! 勝つのはどっちだ!? 皆様もうかけ終わりましたかぁ!? この先はもっとひどい地獄が待ってるぜっ! ……では決勝戦だァ~~~~~~~~~~!』

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