デッド・オア・クック 6
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『制限時間いっぱいいっぱい! 調理をやめぇぇぇぇぇぇい! やめろやめろ! やめろって言ってんだろうがこのナチュラルサイコども! いい加減にしないとこの隣に座ってる解説者が容赦ないパンチの雨を降らせることになるぞッ! ……おっと解説のスカハリーさんの視線が怖くなってきたからこの辺にしとくぜっ!』
「ヘタレが!」「鼻の穴に蜥蜴族のクソを突っ込んでやれ!」「俺に殺させろぉ!」「ハンリちゃんを開放しろぉぉぉぉぉぉ!」「なんでお前みたいなのがそこそこモテてるんだっ!?」
『恨みは買ってます! バーゲンセールでも売り切れないぐらいにっ! これが普段の積み重ねだァ~~~~! やっぱり教会にろくなヤツはいねぇなっ! 誰か爆弾でも仕掛けて来いっ! 命の保証はしないけどな!』
「純粋な恨みだけじゃァなかたような気もするが……まあいい。料理はできたんだからとっととおっぱじめろよ。俺に被害がないなら他人がどうなろうと知ったことじゃねえ」
『では! マイデッセ選手、ボリドニア選手! 両者ともに必殺の料理を持ってきやが~~~~れぇぇぇぇぇぇ!』
銀の皿に蓋をしているのは両者とも共通だ。
しかし、マイディのほうが大皿だけなのに対して、ボリドニアはソースを入れた小皿も携えている。
『それではマイデッセ選手からウォ~~~~~~プン~~~~‼‼ なんだこれはぁ!? でかい魚がそのままの姿~~~~!? いいやちっがぁう! 胴体部分が見るも無残にずったずたぁ~~~~~~! これは料理じゃなくてただの惨殺死体じゃないのかぁ!? この女の野蛮レベルはとどまることを知らない! 火とか知っていますか? それともまだあなたの地域では開発されていないんですかねぇ!? マッチ売ってますよ‼ その辺にっ!』
「ふ! スカポンタンども! これは『刺身』! 素材の味を極限まで活かすことによって実現する究極の料理ですよ! 食べてひれ伏しなさい!」
観客がどよめく。
どうみても頭と尾を除く全身をバラバラにしただけ。それを料理と呼ぶ精神性もそうだが、あまつさえもそれが究極であると主張するだけの胆力に。
さらには、マズイ料理で相手をノックアウトしないといけないということを完全に忘れていることに。
「置いといてぇ! ボリドニア選手のほうはぁ~~~~~! これは魚のフライかァ!? みためは普通だ! ごく普通! その辺の屋台でも売ってそうなぐらいに普通だ! こんなので相手をぶっ殺せるのかぁ!? そのへん疑問だけど、食ってみたらわかるんじゃね⁉」
「そのとおり。食ってみればすべてわかる。たとえ舌が腐り落ちていても、その程度は」
不敵に笑いながらフライを一つつまみ、ソースをつけてそのままかじる。
吐血するわけでも気絶するわけでもなく飲み下し、そのまま皿をマイディの前に置く。
対するマイディも刺身を一切れ放り込み、なんら動揺することなくボリドニアに皿を渡す。
お互いに、実食の準備は終わった。あとは食らうだけ。相手がくたばるか、自分がくたばるか。二つに一つ。
『それではぁ~~~~~! 実しょ~~~~~~~く~~~~!』
警戒しつつもボリドニアは血の滴るまま短冊状になった魚の肉をつまんで口に放り込む。
「ゴがッ!」
例えるのならば、鋭利な鈍器を無理矢理鼻に突っ込まれたかのような衝撃が襲ってきた。
ただでさえロクに味付けもしていない生魚。その上、なぜか血抜きが全くされておらず、血液の刺すような生臭さと同時に、魚類特有のまとわりつく生臭さが一体となって最悪の調和を果たしていた。
その上、切り方もわざわざ筋をしっかり残すように――つまりうまみは全部殺しながらも、マイナス部分はすべて残す刃筋によって最悪と表現することさえも生ぬるいほどの破壊兵器と化しているのだ。
「ごぁぁぁぁっっ! こ、これは食材に対する冒涜!」
仮にも料理人である彼には許せないことなのだ。
完全に自分のことは棚上げにしているが。
「ふ、生魚を食べる習慣はこっちにはない! そしてフライにしたらどんなにまずくても食べられるっ! この勝負わたくしの勝ちですねっ! ひょいぱくっと。う~んなかなオギャーーーーーーーーー!?」
絶叫であった。
フライを口にした瞬間、全身が拒否した。これを摂取することは許さないと。本能が警告し、肉体もそれに同意し、ただ、意志だけがそれに反した。
ゆえに生存を最優先とする肉体はできうる限りすべての機能を用いて阻止する。
たとえどんな醜い状態になったとしても!
『あれだけ余裕そうだったマイデッセ選手に何があったんだぁ~~~~! 急性の病気にでもなってしまったのかァ!? 普段から病気みたいなもんだから変わりゃしねえだろっ!』
「よく見てみな……あのフライの断面を」
『断面!? どういうこと……おぉっとぉ!? これはぁ! フライの中身はすり身になっているぅ~~~!? しかしそれがどうかしたんですか!? 解説のスカハリーさん!』
実況の大声に顔をしかめつつ、スカリーは解説する。
「髑髏鯰の臭みの正体は肉の中にため込んでるアンモニアだ。すり身にすることによってそいつを引きずり出した。さらにあのソース。ありゃたぶん骨を砕いて鯰の血で煮込んだやつだな。全身余すことなく使用し、その上で濃縮までしたんだ。どんなに見事に掻っ捌いたとしても……勝負は見えてる」
『なぁんと! そんなことになっていたのか魚対決! 無駄に高度な技巧を凝らすなっ! まともな大会だと誤解されてしまったらどうすんだッ! しかしマイデッセ選手はまだ息がある! やはりコイツのしぶとさは一級品! ゴキブリだってドン引きだぁ!』
実況の言う通り、マイディはまだ立っている。
かなり致命的なダメージを折ってはいるが、意識を手放していはいない。
それはひとえに、料理人程度にぶちのめされてたまるかというプライドでもあったし、こんなマズイ料理を食わされてしまったのだから、なにがなんでも勝ってやるという執念でもあった。
「ま……まだわたくしは、わたくしはやれますよ! がふっ!」
「ではもう一口」
お互いにこれで勝負が決まると確信し、大口を開けてかぶりついた。
二つの影のうち一つが倒れ、もう一つは高々と手を挙げる。勝利の宣言のために。
『勝者! ボリドニア! 素人が料理人に勝てるはずがねぇだろうがっ! お前が殺しに熟達してるのならば、おれは料理で生かすも殺すも自由自在! 食を制すものが世界を制すんだァ~~~~~!』
「そんなもんで制することができるなら滅んだほうがいい、世界」




