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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
デッド・オア・クック
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デッド・オア・クック 3


『これはぁ~~~~⁉ 一体なんだこの不気味な色合いはァ! まるで腐った豚の肝臓のような気色の悪い色合いだァ! 普段扱っている食材は新鮮な食肉だけれどもォ、今回ばかりはプライドを捨てて必殺の構えェ~~~~~! 明日から店に並ぶのはグルメ気取りのゲテモノ食いばかりになっても構わない! そんな気迫が感じられるぅ~~~!』

「普通のブラッドソーセージだろうが。いや、普通なわけねぇんだが」


 がなり立てる実況、冷めきったスカリー。二人を見て、肉屋は(わら)う。

 無知なる馬鹿舌どもめ、我が料理によってその目を無理矢理に開かせてやろう、そんなオーラを立ち昇らせながら。


「確かにブラッドソーセージだけど、これは僕が特別に厳選した素材を、ブリトルの伝統の製法によって作り、その上で伝統の料理法でしっかりと料理したものなんだよ。使っているのは上等の残飯を食わせてたっぷり太ったラスリー豚だし、香辛料のレシピは秘伝のそれを使ってる。はっきり言って、こんな本格的ブリトル料理を味わえることはないといってもいいだろうね。自信作だ」

『これは大会の趣旨(しゅし)を勘違いしているようだァ~~~~! ジェリフ選手はどうやら文字が読めないッ! 相手をノックアウトする料理を作れという目的をはき違えてしまっているぅ~~~~~! これは肉屋のプライドがそうさせてしまったのか! どうやら頭に詰まっているのは脳みそじゃなくて豚肉だった~~~~~!』

「いや、たしかブリトルの伝統料理法ってのは……」

『では試食してくださぁい!』


 口を挟もうとしたスカリーは無視して進行する。

 余計に(なんで俺はここにいるんだ?)という思いを強めつつ、スカリーは口を閉じた。


ガリッ‼‼ ジュルルルルルゥゥゥゥ‼‼


 皮を食い破った音、というよりも布でも引き裂くかのような音とともに中身の血液が噴き出すが、ジェリフは素早く吸い上げていく。

 それでもいくらかは飛び散ってエプロンにどす黒い紫色のシミを作った。

 はっきり言って気持ち悪い。

 しかし、それを指摘する者はいない。

 すでにここは戦場なのだ。意気消沈した者から死んでいくことになる。


『両者試食完了~~~~~~! ではこれより相手の料理を実食していただきますっ! 一皿食べ切ってしまったらァ、先に食べきったほうが勝利! なんとも単純明快なルールでありますっ! それでは~~~~~~~~はじめぇっっっ!!』


 相手の皿の前に陣取った二人は同時に食べ始める。

 マイディは(はし)でつまみ、ジェリフはフォークで巻き上げる。

 先に口をつけたのはマイディだ!


 ガリィ‼‼ 「‼‼ むぇぇぇ⁉」


『おおっとぉ! マイデッセ選手白目をむいたァ~~~~! ダメージは甚大(じんだい)かァ? 一気にこの勝負決まってしまうのか!』

「ブリトルの伝統料理法っては……つまるところ肉とクソの区別がつかなくなるぐらいに煮込むってことだからな。油のうまみなんぞ完全に吹っ飛んで、今頃血の生臭さがいっぱいに広がってることだろうぜ。ついでに言うと、ラスリー豚はひどく癖の強いニオイをしてやがるからな……一度だけ食ったことがあるが、()が浮いてる沼の水を凝縮したらきっとこうなるんだろうな、ってのが感想だ」

『なるほどぉ~~~~~! これはジェリフ選手、かなり強烈な料理を作ってきていたァ! 普段から自称品行方正のマイデッセ選手に太刀打ちできるのでしょうかァ⁉ 口の中までは血に慣れていない! もうちょっと殺したやつの死体も食っておくべきだったかぁ~~~~!』

「血には催吐性(さいとせい)があるから、慣れの問題じゃあねぇ気もするがな」

『なるほどぉ~~~~~! ここにきて急に解説みたいなことを始めるスカハリーさんでしたぁ~~~~!』

「うるせえ」


 ジェリフはほとんど勝利を確信していた。

 マズいマズいと蔑まれてきた故郷の料理。それがまさか脚光を浴びる日が来るとは。

 バスコルディアの料理はそれなりにうまい。様々な食文化が入ってきているのだから淘汰も早い。だが、ブリトル料理は注目どころか蔑称(べっしょう)としてしか使われていない。

 自身が慣れ親しんだ味がそんな扱いを受けることに我慢の限界を迎えたジェリフは、この機会に刻み込むつもりだった。

 ブリトル料理の偉大さを。恐怖と戦慄(せんりつ)とともに、住人たちの心にブリトルの爪痕(つめあと)を。

 そのためにわざわざ自分用に育てていた家畜も使用したのだから、もはや勝利は疑いようもない。


(逃げなかったことに敬意を表して、一口ぐらいは食べてやるよ)


 自分の舌を破壊することはできないだろうが。そんなことを考えながら、フォークでうどんを巻き取り、口に入れ――――、


 ぞる……「‼‼ ウ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”エ”ェェェェェェェ‼‼」


 口に入れた瞬間、彼を襲ったのは、体験したこともないようなヌメリだった。

 最初に襲ってきたのは昆布のヌメリ。液体に近いソレは、まるで水死体のような不気味さで舌先を撫でまわしながら一気に口腔内へと侵入し、喉奥にへばりついた!

 窒息させるようなその不快感に気を取られている間に、次の刺客が突入する!


 なめこ。

 見た目は黄金色の小さなキノコがもたらしたのは、恐るべき合わせ技。

 粘液に覆われた個体。液体に近かった先ほどとは違い、固体と組み合わさったソレは確かな実感と触感を以て口内を駆け回る。

 まるで跳ねまわりながら領土に旗を立てるかの如くジェリフの口内を侵食していく。怖気の走るような侵略行為だ!

 異なる二種類の蹂躙(じゅうりん)者が通り抜けると、最後の破壊者がやってきた。


 納豆。

 空気をふんだんに含んだねばつく正体不明の半液体が侵入し、先鋒の二つと合流する。

 もちろん、それだけでも精神的な死は回避しようもなかったのだが、納豆の秘められた力はこれだけではなかった!

 混じりあったことにより、溶け出す。それはつまり、含んでいた空気が解放されるということだ。納豆の香りをふんだんに含んだ、いや、納豆そのものと大差ない空気が!

 これを常食する東大陸の住人たちの中にも忌み嫌う者が存在するほどの圧倒的な存在感を放つ香り――いや、もはや死臭ともいうべきだろう。何人もの人間が降伏するしかなかったソレは、死の予感を含んでいる!


 三種のヌメリが奏でる悪魔の三重奏。そして、それを十二分に引き立てる人肌よりも少し高い程度の温度。そこにあったのは単なる衝撃ではなく、これまでの人生を否定するに足りうるほどの衝撃であり、脳が拒否するに十分なほどのマズさだった。


 肥満体がぐらりと揺れる。

 一度傾いたその体は、戻ることなく地面に倒れ、土埃を立てた。


『勝負アリ~~~~~~~~~~~~ッッッ‼‼ 勝者! マイデッセ選手!』

 

 歓声と罵声が上がる。

 歓声はみごとに勝ち抜いたマイディへと。罵声はマイディを仕留め損ねたジェリフへと。


 実況の大声と観客の歓声によって、辛うじて意識をつないでいたマイディはなんとか口の中のモノを飲み込む。


「……がふっ! い、一回戦から、かなりの強敵でした……一筋縄ではいきそうにありませんね、これは。……面白くなってきましたよ!」


『ぎりぎりの接戦を制したのはマイデッセ選手~~~~! 見たことない食材! 見たことない料理! そして見たことないマズさ! わたしの料理は初手必殺! 二回戦に進出だァ~~~~!』

「ゴミのほうがまだ食えそうだな、この料理よりも」


 呆れかえったスカリーをよそに、大会は続く。

 優勝者が決まり、それ以外がノックアウトされるまで。

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