デッド・オア・クック 2
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『再び正体不明の物体だァ! 見た目はキノコそっくりだがあの艶はいったい何なんだァ! もしかして教会で密かに栽培しているという噂のォ、人間寄生キノコかぁ⁉ これはいきなりの反則ギリギリセーフの危険物が出てきた‼‼‼』
「ありゃ『なめこ』だ。別名ヌメリタケ。こいつもコッチじゃあ見ない食材だな。南部なら見ないこともないらしいが、どっから手に入れたんだか」
『Nameko! なんて危険な響きでしょうかァ! 見た目だけではなくその味もとぉんでもなさそうだぁ! もはや止まらない! 彼女が作り出すのは一級危険物! やはり危険人物の作るモノも取り扱い厳重注意だァ!』
がなり立てる実況の声は魔法によって拡大されており、会場中に響き渡る。当然それは調理真っ最中のマイディの耳にも入っている。
「あのボケは後で痛い目を見せてあげましょう。その前にノックアウトしないといけない相手がいますけどね」
額に青筋を立てながら、少し離れて調理をしている相手を見る。
見た目はまっとうな肉屋といった風情だ。
赤茶けた染みがいくつもついた、元は真っ白だったであろうエプロンを身につけた、肥満体の中年男。
分厚い肉包丁を背負ってはいるが、今回は使うつもりがないらしく、余裕の笑みでもって目の前の寸胴鍋を眺めている。
そんな対戦相手の様子を横目に、マイディはすでに勝利を確信していた。
(肉屋はおいしい肉を提供するのが仕事。わざわざマズい肉なんぞ用意しないでしょうからね。ふ、どうやら楽勝……これは日ごろの行いの成果でしょうか? だしても精々が古くなって腐りかけの肉程度でしょうからね。その程度でわたくしをノックアウトできると思ったら大間違いですとも。いえ、この場合はフィード・アウト? どっちでもいいですね)
そろそろ制限時間が迫っている。
仕上げにかかったマイディは、あるモノを取り出し、準備にかかった。
会場中に響き渡る銅鑼の音。
聞きなれない音ではあるのだが、それでもなにかしらの合図であることは見物客にも、参加者にも、そして実況席にも伝わっていた。
『終~~~~~~~~~了~~~~~~~~~~! 制限時間いっぱいいっぱい! 己の知恵と経験と悪意でもって料理が終了しました! 両選手、相手をぶちのめすための料理を提出してください!』
実況の声に促されるようにして、マイディと肉屋は蓋をした皿をゆっくりと運んでくる。
どちらも自身の料理には自信があるらしく、にやにやと笑みを浮かべたままだ。
『運ばれてきましたァ~~~! 二つの悪意がっ! 味覚への挑戦状がぁ! 食事そのものへの冒涜がぁ! 両者ともどうやら相当に自信があるらしくぅ~~~浮かんでいるのは気持ちの悪いほどの満面の笑みだァ~~~!』
「あのツラのほうがこれからの料理よりも気持ち悪いんじゃねえのか?」
『そんなことはありませぇん! なぜならばっ! この<デッド・オア・クック>への最低参加条件は最低一人以上の審査員をノックアウトすることだからなのです! つまり、すでに二人とも『童貞』は卒業しておりまぁす!』
「犠牲者はすでに出てるのか……」
『そして今から最低一人! マズい料理で死にますっ! 人はなぜ料理をするようになったのか? それは相手をぶっ倒すためだぁ! 人類の悪意は生命活動に必須の食事でさえも闘争に昇華してしまったぁ~~~! いいや、これは闘争なんて上等のもんじゃない! 気に入らないアイツをぶっ殺したいという! 原始で! 感情で! 殺意で! ほんのうだぁあああああ~~~~~~~~~‼‼‼‼‼‼‼』
変な具合に入ってしまった実況は口の端から泡を飛ばしながら叫ぶ。観客はそれに刺激されたのか、熱狂的な歓声を上げるのだが、隣で聞いているスカリーは眉をしかめて(とっとと終われよ、こんなバカ騒ぎ)と毒づいていた。
『それでは両者! 料理を見せてくださぁい!』
まるで打ち合わせでもしていたのかのようにマイディと肉屋は同時に蓋を外す。
皿の上に乗った二つの料理がその姿を現していた。
『マイデッセ選手のほうはァ……なんだこれはぁ⁉ どうやら麺のようですがァ~~~⁉ しかしあまりにも太い! 太いぞ! 太すぎるゥ! 先ほどの腐った豆! Nameko! それになんだあの黒くて平べったい物体はァ⁉ 間違ってゴムの破片でも混入したのかァ!? それは反則だぞぉ! 生きているだけで反則のマイデッセ選手! このまま試合も反則負けなのかぁ~~~!?』
「どさくさに紛れて罵倒してます? ……オホン、これは小さく切った昆布です。こちらではあまり食材としては使いませんが、このヌメリ昆布は東大陸とかでは結構使われているのですよ? 見識の狭い方々は知らないのかもしれませんが!」
得意げに説明するマイディだが、その前に鎮座している料理を見たことがある人間はおそらくいないだろう。なぜならば、彼女自身も初めて作ったのだから。
「手に入るだけのヌメヌメ素材をありったけぶち込み、生ぬるいうどんにしました。はっきり言って、このぬめり地獄は最悪ですよ? 名付けて、<地獄滑落うどん>!」
『神だけでは飽き足らず! この女は食材さえも地獄への材料にしてしまうというのかァ~~~~!! 神への冒涜! 味覚に暴力! そして自身は最有力とでもいうのかァ~~~~~!! では試食していただきましょう! 自分の作ったものを食べられないのならば失格となります!』
<デッド・オア・クック>に定められたルールの一つ、それは作った料理は試食しなければならないというものだ。
もし、これがなかったのならば、実質毒物の使用が解禁されることとなり、まかり間違って参加者以外が巻き込まれでもした場合の事態が予想もできない。ゆえに、このルールは絶対だ。相手を倒すためには、自分自身が耐えられるような料理を作らなくてはならない。自分の耐久力と、料理の攻撃力を天秤にかけるルールなのだ。
ズルズル‼‼ ゾバーッッッッッ‼‼
器用に箸を使い、マイディは納豆となめこと昆布にまみれた生ぬるいうどんをすすり、そのまま咀嚼して飲み込む。
確かに食感はひどいものだが、慣れているマイディには大したことはない。ちょっとばかりのどのヌメリが気になるぐらいだ。
『試食完了~~~~~! では次に肉屋のジェリフ! 料理を提出してください!』
完全にドン引きしているスカリーをよそに、実況はもう一人に呼びかける。
でっぷりとした肉屋が勢いよく蓋を取った!




