デッド・オア・クック 1
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『おぉーっとォ! ここでマイデッセ選手何かを取り出した! 見た目は単なる藁のようだがァ、これはいったい何なのか⁉ 秘密兵器の登場だぁーーー!』
響き渡る実況の声に呼応するかのように歓声が上がる。
いや、それは歓声と呼ぶべきではない。
観客たちが突き上げる手はどれもこれもが親指を下に向けたものだったし、飛び交っているのは応援の声ではない。
「ぶっ殺せー!」「お前が死ね!」「それ食ってくたばれ!」「毒入れろ! 毒!」「殴り殺せ!」「野郎の首をぶった切れ!」「腸を食わせろ!」「金返せ!」「テメエにできるのは殺しだけだろうが!」「今すぐ首吊れ!」
罵声。この上ない罵声。
しかしそんなものはどこ吹く風とばかりに、いつも通りの尼僧服にエプロンをまとったマイディは藁の中に手を突っ込み、中身を引きずり出す。
『何だぁー! あれはァ! 見たところ豆の一種のようだが! 糸を引いているぞぉ! 腐っているぅ⁉ 毒物の使用は禁止されているはずなのに、この女はルール違反も怖くないということかぁ! しかし、忘れていないかぁ⁉ 最初に食べるのは自分自身だということッ! 自爆からの一回戦敗退というしょっぱい結果もありうる!』
『どうやらマイデッセ選手、相手をぶち殺して上に進むつもりのようだァ! 無法都市にふさわしい血も涙もない戦法だぁ~! やはり彼女の残虐性はとどまるところを知らなぁい! 解説のスカハリーさんからみてもこれは予想の内でしょうかぁ⁉』
「おめえ……あとでマイディにぶっ殺されても知らねえぞ?。ありゃ『納豆』だ。東大陸の更に東の島国……世界の端っこの食いもんだから見たことはないだろうけどな」
『今度は一体なんだァ⁉ あれは……昆布だァ!』
実況席のとなり、<解説>と書かれた札の貼られた席でスカリーは面倒くさそうに突っ込みを入れる。
こんなバカバカしい仕事からはとっとと逃げ出したかったのだが、両手両足をワイヤーで椅子に縛り付けられているのでどうしようもない。
相も変わらず変なテンションでがなり立てる実況の男を横目で見つつ、視線を上に向ける。
<第一回 デッド・オア・クック>
やたらにけばけばしい色彩によって構成された横断幕が空の一角を占拠しながら、狂騒にかまける人間たちを笑っていた。
――事の始まりはおおよそ三日前になる。
「ウマい飯ならイタルアだろ? ならマズイ飯ってのはどこになるんだ?」
「マズイってことならブリトルじゃぁねえのか? 俺のじいさんの出身はイタルアだけどよ、死ぬまでブリトル料理だけは食わなかったそうだ。「あんなものを食うぐらいなら牛のクソを詰め込まれてたほうがマシ」ってな! ギャハハハハハッ!」
「マズさならエルフの伝統料理だろ! その辺の雑草に酢をぶっかけただけのシロモンだ!」
「蜥蜴族もなかなかだ。頭も舌も原始時代から進歩してないからな」
汚らしい酒場の一角で四人の男たちがどうでもいい会話を繰り広げつつ、酒を呷る。
かなりの量のアルコールをぶち込んだ脳みそはすでに思考能力の大半を失っており、論理的な展開というよりも、ほとんど反射による鳴き声の応酬に近い。
声量は天井知らずに大きくなり、酒場中に響き渡るほどの胴間声になっている。それでも文句を言われることがないのは、ひとえに他の客も大差ないほどにアルコールが回っているに他ならない。
いつもの光景といってしまえばその通りだし、いつもと違っているといえばそれも正しい。普段ならばその先に進むことなく、次の話題に行ってしまう程度のくだらない話題に食いついてくる存在がいたのだから。
「マズい料理、ね。面白い。しかし、料理そのものでランク付けするだけじゃあ、今一つエンタメに欠ける、か。それに、蜥蜴族の料理人なんてものを聞いたことないし、彼らにそんな文化が存在しているかどうかも怪しい……上手いこと上のほうの奴らを扇動する方法……あるね」
喧騒に耳を傾けていた人物はおもむろに立ち上がると、四人組に近づいていく。
三つ揃いのスーツに身を包んだ紳士然としたその姿に反するように、顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。
その日のうちに、<デッド・オア・クック>の通知がなされ、賞金につられた考えなしの奴らが次々に申し込む結果となった。
もちろん、その中にはマイディの名前もあったし、なぜかハンリの名前もあった。
「それでなんで俺は椅子に縛り付けられて解説なんぞしてるんだか」
『おおぉっとォ~! ここで解説役のポールモートさんをご紹介しましょう! バスコルディアでもそれなりのグルメで名が通っている賞金稼ぎ! 『剣弾』スカハリー・ポールモート! 快くこの役目を引き受けてくださいましたぁ!』
「誰の紹介をしてるテメエは。後でたらふく剣弾を食らわせてやるよ。天にも昇るぜ」
『ここで殺人予告だァ! さすがは情け無用の賞金稼ぎ! しかぁ~し! 今は縛られているうえに解放されるのは全部終わってからだァ! 満足に口ぐらいしか動かないコイツなんて怖くないぞぉ!』
「背中に目ェつけとけよ」
観客から今度はスカリーに対して罵声が上がるが、睨みつけるとそそくさと顔をそらす。
現状、無抵抗に近かったとしても、しつこいタイプだということはしっかりと知れ渡っているのだ。
(あぁ……どこの馬鹿だよ、こんな乱痴気騒ぎを企画しやがったのは……誰にせよ、くたばってくれ)
ぶつけようのない怒りを自覚しながら、とりあえず今は時間が流れるのを待つことにした。楽しそうに料理を続けるマイディを見ながら。




