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無法都市の剣弾使い  作者: 中邑わくぞ
恋の妙薬、地獄の飛躍
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恋の妙薬、地獄の飛躍1

「なるほど。あなたの話はやっぱり興味深いわ。興味深い。実に興味深いわ。その他大勢の話なんかよりもいくらも時間も金銭も割くに値する。それだけの価値をあたしは見出しているわ。だから自信を持つことね。魅力がないとか、人格的に問題があるとか、そういう原因じゃないことは確定的よ。貴方になびかない男がいるとしたら、それは同性愛者なのか、頭がおかしいのか、よほどの女性恐怖症に違いないわ」


 優雅に紅茶を流しこみ、のどを潤してからナンセシーラ・オーテルビエル、通称ナンシーは一気にまくしたてる。

 

 場所は彼女の私室兼応接室。

 応接室といっても来客用ではなく、もっぱらプライベートの要件に用いられており、どちらかというと趣味の部屋の一面が強い。

 

 その部屋にいるのは、二人の少女。

 片方はナンシー。このオーテルビエル商会バスコルディア支部の店主。

 対面で、所在なさげに座っているのは、そばかすのあるくすんだ金髪の少女。

 

 名を、ローザ。

 本来は針子の仕事に就いているのだが、とある一件によりこのオーテルビエル商会へと出向しているのだった。


 もちろん、仕事はきちんとやっている。

 問題は、彼女が抱えてるプライベートの事情なのだ。


「……でもさ、オーナー。アタシ、何度も何度もスカリーを誘ってるんだけど、乗ってこないんだよ。演劇も、買い物も、食事も。これだけ断られてると……考えちまうんだよ。アタシ、魅力ないんじゃないかって」


 出された紅茶にも手を付けず、ローザは伏し目がちに独白する。

 声にも|覇気≪はき≫がなく、落ち込んでいることは明白だ。

 そして、今のところその気落ちが仕事に影響するような事態は起こっていない。

 

 が、現状が続くようであるのならば、それは遠くない未来の出来事であることは想像に難くない。そのように推測できる。

 恋に夢中になっている少女の優先順位は常に一番が決まっているのだから。

 

 オーナーとして、そして、少女として。

 さらに言うのならば、同じく恋心を抱くものとして、恋する少女として。

 ナンシーは力になってやりたいと思った。

 落ち込んでしまっているローザに再び笑顔を取り戻してほしいと思った。

 そして、ハンリに着せるための服の制作にとっとと入ってほしいと思った。


 だからこそ、決心する。決断する。

 その権力、財力、交友関係を利用してこの事態の解決を図るために、彼女の頭脳はある答えに至った。

 

 (――――そう、女子会の……開催ね!)


 地獄の女子会が幕を開ける。



 


「さて、貴方の相談からすでに三日。三日程度ではあるけど、時間は経ってる。ということは、事態は進展しているはずよね? 三日あれば男女の仲が進むには十分すぎるわ。ということは、あたしの経営するこのオーテルビエル商会バスコルディア支部に務めている人間がコトを進展させるには十分の猶予があったということ。これは事実。だから聞かせて頂戴。あの後どうなったのか? あたしに詳細に説明して頂戴」


「……オーナー、アタシ、やっぱり、ダメだよ」


 三日後のナンシーの私室。

 さらに意気消沈した様子のローザを対面に座らせて、ナンシーは眉間にしわを寄せる。

 もともと少しばかり陰のある少女ではあったのだが、今はそれが前面に出すぎている。先ほどから顔も伏せたままだ。


「ゼルス、ここからは女子会よ。貴方は退出しなさい」

「承知しましたお嬢様」


 忠実な執事はわずかな疑問を呈することさえなく、速やかに退出する。

 残ったのは少女が二人。

 

 ナンシーはそっと手を伸ばし、ローザの柔らかな頬に触れる。


「顔を上げなさい。あたしの店でそんな顔をすることは許さない。このナンセシーラ・オーテルビエルの店で不幸な顔は許さない。だから、話しなさい。原因を。あたしはそれを許さない。全力で叩き潰す。徹底的に、断固として……誇りをもって」

 

 悠然としながらも決然とした口調のナンシーに導かれるようにしてローザは顔を上げる。

 すでにその目の端は赤く染まり始めていた。


「……オーナー。アタシ、アタシ見ちまったんだよ。……スカリーがさ、美人と歩いてるの。アタシなんかじゃ絶対に敵わないような、すごい美人と」

「……なるほどね。わかったわ。貴方の理由はわかった。だけど、それは少しばかり早計にすぎる可能性を捨てきれないわね。一緒に歩いていたというだけでスカリーとその美人とやらがどういう関係かということに確信は持てないわ。……だけど、あたしもそのあたりはちょっと情報が不足してる。だから助っ人を呼んだの」

「助っ人?」

「ええ、助っ人。……入って頂戴!」


 多少の想定外はあったものの、軌道修正は容易だ。


「ちょっとぉ、そういうカンジなのぉ? 青臭い恋愛相談とかそういうのは苦手なんだけど?」

「こっちは真剣なの。従業員の福利厚生、もっと言ってしまえば幸福度を高めるのはオーナーの務め。あたしはやって見せる。なんと言っても、オーテルビエル商会次期当主、ナンセシーラ・オーテルビエルなんだから!」


 入ったきたのは露出度の高い恰好をした妙齢の女性。

 派手な化粧から、”そういう”界隈の人間であろうことは簡単に察せられた。

 

 けだるげに息を吐きながら、女性はゆっくりとテーブルに近づき、空いていた椅子に腰かける。当然のように胸元を強調しながら。


「んでぇ、そっちのコが相談相手……ってローザじゃないのォ⁉」

「……あ、カーラ(ねえ)さん」

 

 驚きから目を(みは)る派手な女性。

 知っている様子のローザ。

  

「二人ともお知り合いっていうこと? 偶然ね。話しやすくって助かるけど」

「ん、まァ、知り合いっていうか、サ……う~ん」

「……一応、うん」


 煮え切らないローザ。更にはカーラ。

 その二人の妙な態度には疑問を覚えたのだが、ナンシーは予定通りに行動することにした。

 経営者に必要なのは決断力であり、反省はしても後悔はしない能力なのである。


「知り合いでも一応は紹介しておきましょうか。この女性はカーラ・スラフ。別名『恋占いのカーラ』。今回のために特別に呼んだの」


 ナンシーが簡単に紹介する。

 が、当の本人はそっぽを向いていた。


「……カーラ姐さん、いつの間にそんなことになってたのさ」

「……アタイは知らないよォ……どこぞの別人のことじゃないのォ?」


 きらびやかな装飾品を弄りながらなぜかとぼける。

 視線は宙をさまよい、明らかに落ち着きを失っていた。

 

「……どういうことかしら? あたしは貴方が数々の恋愛を成就させる占いの使い手だっていうから今回の仕事を持ちかけたのだけど? 貴方はそれをきちんと受諾した。商売として受諾した。そこに間違いはない、はずよね? 『恋占いのカーラ』?」

 

 鋭い視線がその胸元に突き刺さるのが、相変わらずそっぽを向き続け、ローザは何かをあきらめたかのような目をして、そのカーラから視線をそらさず、ナンシーはカーラに鋭い視線を送り続ける。


「姐さん。まずいんじゃないの?」

「なによォ~! さんざん泣いてたローザのくせにぃ! ……いやまあ、さ。アタイも悪いんだけどねぇ~」


 やはり煮え切らない。

 その態度はナンシーの短い導火線に火を点けるには十分。

 さらに、爆発するまでその火が消えることもない。

 

「答えなさい、カーラ・スラフ。いいえ、『恋占い』。恋愛相談は任せるように喧伝していたからこそあたしは依頼したの。報酬は前払い。その条件でなら受けるというからこそ依頼したの。わかるかしら? 商売人に対して、カネのやり取りをしておきながら働かないっていうのは……この街以外でも致命的よ」


 明らかに年下の少女から発せられる威圧するようなオーラに思わずカーラはへつらうような笑みを浮かべてしまう。

 それは、彼女が今まで生きてきた中で身に着けた処世術ではあるのだが、この場合においては完全に逆効果だった。

 曰く、『オーテルビエルの人間にとって、愛想笑いは宣戦布告に近い』


「……あたしは嫌いなものがたくさんある。その中でも特に嫌いなのが口ばかりで何も助けてくれない教会の人間と、笑っていたら何か解決するんじゃないかと期待している生ぬるいヤツよ。どうやら、後者なのかしら? だとしたら相応の手段を……」

「待った! 待っておくれよオーナー! カーラ姐さんはそういうのじゃないんだって! ……嘘はついてないんだけど、さ。完全に全部本当のことかって言うとそうじゃないってだけで!」


 思わず割って入ってきたローザに一旦はナンシーも口を閉じる。

 だが、その目には『説明しなさい』という感情がありありと籠っていた。


「……姐さん……このカーラ姐さんなんだけど――――」

「自分でいうわよォ~! もう! アタイが得意なのは薬なのっ! 『恋の妙薬(みょうやく)』! それがアタイの恋愛相談の秘密兵器っていうわけ!」


 耐えきれなくなったカーラはとうとう自分で白状した。

 もともと恋愛相談など受けていなかったことを。

 恋愛相談とは名ばかりの、バスコルディア以外では所持さえも禁止されている薬品の販売が本業であることを。


 得心がいった。

 ナンシーとしても、納得はいく。

 恋愛相談は結局のところ、相手が振り向いてくれないという問題なのだ。

 そういった類ならば、カーラが扱っている薬はこの上ない劇薬だろう。

 なんといっても、効果が強すぎて制御ができないものがほとんどなのだから。

 高度な解毒の魔法、もしくは一歩間違えれば死にかねないほどの解毒薬を用いないことには効果が解除されない強烈な薬品。それが『恋の妙薬』なのだ。


「……なるほど。……それで、おいくら?」


「え?」「へェ~?」

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